第6話 第1章

文字数 852文字

「サクラ。流石だな。」

 金沢誠一こと、三郎が満面の笑みで呟く。

「この距離よ。あたり前田のクラッカーよ」

 石川琴美こと、サクラが能面の表情で吐き捨てる。

「だからサクラ。キミのボケは相当くだらないって…」
 渡されたドラグノフ式狙撃銃を素早く解体しながら、三郎が呆れたように言う。
「相変わらず失礼な男ね。この場で殺すわよ、ジョン・ドウ?」
「だから俺はイーサン・ハントが好きなんだって。さてと、行きますか、デヴィッド・ミルズさん?」
「ッキーー! あんな若造と一緒にしないで!」
 ゴルフバッグを抱えた二人はビルの屋上から姿を消し、やがて夜の街に同化していった。

「再開発は間違いなく中止になるだろうな。」
 帰宅後シャワーを浴び、三郎はソファーでよく冷えたビールを口にしながら、
「これでしばらくは落ち着くかな」

 既に二杯目のビールを口にしているサクラは、
「もう、ホントに目が離せないんだから、あの人達は……」

「ああ。それにしても、もう何年経つんだ? 俺たちが又一緒になってから?」
「えっと、真琴が6歳になったんだから、丁度5年じゃない?」
「そうか、もう5年も経つのか…… 長いようで、あっという間だったな。サクラは、その、後悔はしていないのか?」
「石川の家と真琴から離れて、三郎と一緒になったこと?」
「ああ。」
「全然。あなたは? 誠くんと一緒に遊びたかったんじゃない? それにマミさんともっと……」
「いや、それはない。……と言ったらウソになるか。確かに、マミはいい人だった。」

「そうね。彼女は真っ直ぐで誠実で、とても素直で。それにとても可愛くて綺麗で。三郎にはもったいない人だったよね」
「そのマミのことを褒めながら鬼のような形相で俺を睨むのやめてくれる?」

「悔しいけれど、これが所謂『嫉妬』という感情なのね。ねえ三郎、石川の孝に嫉妬した?」
「んー、全然。」
「私、アイツに抱かれたんだよ、何度も。それでも?」
「んーー、それは……」

「ねえ。どんな風に抱かれたか、教えて欲しい?」
 妖艶な目付きで三郎を誘うサクラなのである。
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