第3話 第11章

文字数 1,094文字

 表示時刻は10時17分。
 虎男はすぐにマミの家に電話をかけたのだが、不在だった。

 虎男は部下を集め、
「マミを見つけてこい。1時間以内に見つかんなかったら、全員指落とせ」
 そう。組内ではかなりイケイケで過激な恐ろしいアニキな虎男なのだった。組員は顔を青褪め、一斉に町に走り出す。

 マミはその時いつもの近所の公園で誠のお母さん友達とお喋りに夢中だった。何故ならこの四月からいよいよ幼稚園生活が始まるからだ。その準備に何が必要かをあーでもない、こーでもないと延々と話し続けていたのだ。
 そこに、一団の黒ずくめの厳つい男たちが雪崩れ込んでくる。公園の時間はピタリと止まり、お 母さんたちは全員硬直した。

「マミさん、ご無沙汰っす、虎男さんとこの武志です!」
 なんか見覚えあんなコイツ… ああ、中学の頃のいっこ下の!
「おお、タケ坊じゃねーか。なんだテメー、虎んとこに入ったんか。懐かしいなあおい」
 まあ噂的には皆マミが元ヤンと知っていたが。それを目の当たりにし、恐ろしいとか怯えちゃうよりも、実はカッケー、頼もしいーの方が勝るママさん達なのだった。

「で。どーした?」
「ヘイ。実はアニキのポケベルが鳴りました。今すぐ組まで来ていただけますか?」
 マミはトートーバッグをいなせに背負い、
「ごめん、圭くんママ。誠のこと任せていい? 夜には戻ると思う」
 圭くんママは実はVシネマが大好きで、もう目を輝かせながら、
「うんうん、マミちゃん、行っといで。いいかい、必ず生きて帰るんだよ」
「アタボウよ。誠が待ってんだぜ。じゃあな」
 そう言い捨ててマミが歩き出すと組員達が後を追った。

 お母さん方はうっとりとした目付きで、
「あれぞ、伝説のマミ、ちゃんなのね」
「そう。この辺りでは天下無敵の、絶対女王」
「ウチの旦那、今度浮気したら焼き入れてもらおうかしら」
「ウチの旦那、どっかに沈めてくれないかなあ」

 組の事務所に入ると、
「おうマミ。20分前だ。孝からポケベ入った。」
「わかった。石川不動産行って、どこ行ったか聞いてくる。バイク貸してくれ」
「バイク? 車じゃなくてか?」
「尾行すんなら、バイクだろ」
「ほう。わかってんじゃねーか。おいタケ、ジスペケの鍵。」
「おおお、あんのかよ?」
「あるよお。89年仕様のが!」
「おおおおお、あのカッケーのかよ!」

 なんか違う方にテンションが上がるマミなのであった。そんなマミに、
「おい、寒いからこれ着てけや」
 と革ジャンを放り投げ、マミはそれをさっとはおい、表に出されたレーサー仕様のスズキG S X−R250Rに飛び乗り、一発でエンジンを決め、石川不動産へ爆音を放ちながら走っていった
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