第6話 第6章

文字数 1,094文字

「俺は未だに消すべきだと思っている。だけどお前はー」
「ええ、反対よ。だって輪島には私たちが正体である、という証拠を何も持っていないわ。あくまで状況証拠しかないのよ。それも上には一切上げていない、彼の頭の中にしかない」
「その通りだ。だが奴は新宿の花園署に行くんだ。俺の潰した田中組の捜査を引き継ぐんだ。奴ならいつか、田中組と俺たちの関係を見つけ出すに違いない」
「それでも、私達を見つけることは出来ないわ。何故なら、あなたがいるから。違くて?」
「ま、まあな。ただ、これまで以上に俺たちは慎重にならなければならない。決して目立ってはいけない。尻尾を出してはいけない。……俺はちょっと心配なんだ」

「へ? 何が?」
「サクラが、だよ。」
「へ? 何で?」
「だって、その、サクラは、あれだから……」
「あれって、何?」
 妖艶な表情で三たたび三郎に迫るサクラ。

「ヒッ もう勘弁してくれっ これ以上もう……」
「何よだらしのない。もうちょっと頑張ってくれないと、あたし我慢出来ないかも」
「ちょ、ちょっと、おいっ」
「嘘よ。それぐらい分かりなさいな。で? あれって何?」
「しつこいな。言わなくても分かるだろう」
「ええ。わかっててもちゃんと聞きたいわ。この耳でこの口から」
 サクラが三郎の唇を妖しく撫でる。
「で? あれって、何?」
 三郎は観念した様子で、
「だからっ サクラが綺麗だから、人目をひきやすいって、事…… ああ、ちょっと、ああ…」
 
 三郎は観念したようだ。

「それで? 今後、私たちはどうするの? ここは引き払う方がいいのかしら?」
「そうだな。田中組から持ってきた戸籍はまだまだあるし。二、三年毎に名前を替えて引っ越しを繰り返して行けば大丈夫だろう。」
「そうね。盗聴器も進化して遠くからでも聞き取れるようになったしね」
「アハハ、本当だよ。5年前なんて、石川不動産やらマミの家やら、バー黒船、若林組。一体幾つ盗聴器を隠して近くで盗聴したっけな」
「うふふ。でもそのお陰で幾つもの危機を察知できたのよ」
「ああ。最近の盗撮器も性能上がっていると言うし。色々試しながらやっていこうか」
「そうね。性能が上がれば別に近所に住む必要はなくなるわよね」
「ああ。インターネットがもっと普及していけば、相当遠くからでも盗聴、盗撮が可能になるだろうね」

「それなら私、海の近くに住みたい。」
「海、か。ああ、いいよな海は。」
「初めて海を見たのが5年前、しかも石川と一緒に。この記憶を上書きしたいのだけれど」
「俺も初めて見た海はマミとだったかな。別に上書きはいいや。あ、おいこら。アーミーナイフはオモチャじゃないんだぞ、やめなさいって……」
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