《勇者は聖女と再会する》
文字数 1,770文字
(元騎士視点)
真の魔王城に転移した私たちを出迎えたのは、長い赤髪を緩く三つ編みにした背の高い男だった。魔族なのだろうが……人間にしか見えない。
「私の側近のケインよ。人間じゃないわよ? 人の姿をしているだけで本性は別にあるの。それは私も同じだからね」
ケインと呼ばれた男が顔を顰めた。
「我が君。今度は一体何を拾ってきたんです?」
「勇者と勇者の連れよ。この二人に手を出したら、たとえあんたでも殺すわ」
「それは恐ろしい」
「勇者には私の真名を預けてある。どういうことかわかるわね?」
男の金色の目が僅かに見開かれた。
「とうとう伴侶をお持ちに」
「違うわよ。伴侶じゃなくて主従契約!」
「なんだ。そうでしたか」
「何をがっかりしてるのよ」
「いえ……あなたのことは先代が気にしていらっしゃいましたからねぇ」
魔王がうんざりした様子でため息をついた。
「自分よりも若い連中をすぐに番わせようとするのは年寄りの悪い癖だと思うわよ」
男は三十歳くらいにしか見えないが、本性が別にあるというのなら若く見えるのも偽りか。
「我が君が寂しそうな顔をなさらなければ、私もうるさくは言いません」
魔王は「どうだか」と吐き捨てて、側近に尋ねた。
「ミスミはどこにいるかしら。勇者に会わせたいのよ」
「ああ……そういえば、あの娘は聖女でしたね」
少女は男装していた。短い黒髪に細い身体。騎士服に似た衣装は違和感なく似合っていた。そして、その手には小振りな盾とメイスらしき武器があった。楽しげに笑っている。
ケインは「ミスミは訓練中」だと言っていた。聖女のはずだが。聖女とは、自身で武器を持って戦う者だったか? 治癒や補助が主な役割だと思うのだが?
ミスミらしき少女は、頭に大きな角がある少年を相手に、手合わせをしているらしい。聖女とは思えない速度で駆け出し、左手の盾で攻撃を受けると同時に相手の態勢を崩した。そのまま、メイスを振り抜く。胸元を強打されて、少年は後ろに吹き飛ばされた。
「相変わらず軽いなぁ、キース! せめて体重増やした方がいいんじゃない?」
ミスミの言葉に、壁に叩きつけられた少年が呻く。
「……あー、いってぇ……ミスミ、お前の身体強化がおかしいんだろうがよ」
いざ友人と会えるとなって、ヒナタは緊張してきたらしい。私の陰に隠れるようにして、身体を強張らせている。先程から何故か私のシャツの背中を掴んでいる。
そんな勇者を見て魔王が何やら面白そうに笑った。
「おーい」
魔王が手を振って聖女を呼ぶ。
「ジャスミンちゃん、こっちおいで!」
ヒナタが焦った顔をして、魔王の腕を掴んだ。
「シホさん! それ教えたの内緒!」
「なんでその名前知って……!」
よほど隠しておきたいのだろう。聖女ミスミが真っ赤な顔で魔王を見た。そしてヒナタの姿を見つけ、目を見開いて、その場で硬直した。
「え……嘘……ヒナタ……?」
魔王がヒナタを引き摺るようにして聖女に近付く。仕方がないので私もそれを追いかけた。
「ヒナタだよね?」
夢じゃないよねと聖女が呟く。
「スミちゃん!」
ヒナタは魔王の腕を振り払うようにして聖女ミスミに抱きついた。
抱き合って泣く二人の少女を、しばらく無言で見守った。ミスミと手合わせしていた少年が、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
「魔王様。何があったわけ?」
小声でそう尋ねてきた少年に魔王も小声で答える。
「大事な友達らしいわ」
「ああ……ミスミが『ここで待つ』って言ってた相手?」
「そうみたいね」
勇者と聖女から、そっと距離を取る。
「ミスミはずっと、ここで誰かを待ってたのよ」
魔王が声を抑えて言った。
「何度も『ここにいれば会える』『絶対にここに来るから』って言って。相手は人間だって言うし、あの子は聖女だから、勇者のことだろうとは思っていたんだけど」
「魔王様が連れてきたミスミの友達って、勇者なの?」
シホは気安い王なのか、少年は臆することなく話しかけている。
「そうよ」
「嘘だろ。勇者って、あの見境なくなんでも殺して歩く超危険人物の勇者? あの子が?」
……酷い言われようだ。
しかし、それも仕方がないのか。私がそうであるように、ヒナタも魔族を手に掛けている。
友人に縋って泣く少女に、その手を汚させてしまったのは人間だ。故郷の料理を用意して歓待した魔王より、人間の方がよほど……
真の魔王城に転移した私たちを出迎えたのは、長い赤髪を緩く三つ編みにした背の高い男だった。魔族なのだろうが……人間にしか見えない。
「私の側近のケインよ。人間じゃないわよ? 人の姿をしているだけで本性は別にあるの。それは私も同じだからね」
ケインと呼ばれた男が顔を顰めた。
「我が君。今度は一体何を拾ってきたんです?」
「勇者と勇者の連れよ。この二人に手を出したら、たとえあんたでも殺すわ」
「それは恐ろしい」
「勇者には私の真名を預けてある。どういうことかわかるわね?」
男の金色の目が僅かに見開かれた。
「とうとう伴侶をお持ちに」
「違うわよ。伴侶じゃなくて主従契約!」
「なんだ。そうでしたか」
「何をがっかりしてるのよ」
「いえ……あなたのことは先代が気にしていらっしゃいましたからねぇ」
魔王がうんざりした様子でため息をついた。
「自分よりも若い連中をすぐに番わせようとするのは年寄りの悪い癖だと思うわよ」
男は三十歳くらいにしか見えないが、本性が別にあるというのなら若く見えるのも偽りか。
「我が君が寂しそうな顔をなさらなければ、私もうるさくは言いません」
魔王は「どうだか」と吐き捨てて、側近に尋ねた。
「ミスミはどこにいるかしら。勇者に会わせたいのよ」
「ああ……そういえば、あの娘は聖女でしたね」
少女は男装していた。短い黒髪に細い身体。騎士服に似た衣装は違和感なく似合っていた。そして、その手には小振りな盾とメイスらしき武器があった。楽しげに笑っている。
ケインは「ミスミは訓練中」だと言っていた。聖女のはずだが。聖女とは、自身で武器を持って戦う者だったか? 治癒や補助が主な役割だと思うのだが?
ミスミらしき少女は、頭に大きな角がある少年を相手に、手合わせをしているらしい。聖女とは思えない速度で駆け出し、左手の盾で攻撃を受けると同時に相手の態勢を崩した。そのまま、メイスを振り抜く。胸元を強打されて、少年は後ろに吹き飛ばされた。
「相変わらず軽いなぁ、キース! せめて体重増やした方がいいんじゃない?」
ミスミの言葉に、壁に叩きつけられた少年が呻く。
「……あー、いってぇ……ミスミ、お前の身体強化がおかしいんだろうがよ」
いざ友人と会えるとなって、ヒナタは緊張してきたらしい。私の陰に隠れるようにして、身体を強張らせている。先程から何故か私のシャツの背中を掴んでいる。
そんな勇者を見て魔王が何やら面白そうに笑った。
「おーい」
魔王が手を振って聖女を呼ぶ。
「ジャスミンちゃん、こっちおいで!」
ヒナタが焦った顔をして、魔王の腕を掴んだ。
「シホさん! それ教えたの内緒!」
「なんでその名前知って……!」
よほど隠しておきたいのだろう。聖女ミスミが真っ赤な顔で魔王を見た。そしてヒナタの姿を見つけ、目を見開いて、その場で硬直した。
「え……嘘……ヒナタ……?」
魔王がヒナタを引き摺るようにして聖女に近付く。仕方がないので私もそれを追いかけた。
「ヒナタだよね?」
夢じゃないよねと聖女が呟く。
「スミちゃん!」
ヒナタは魔王の腕を振り払うようにして聖女ミスミに抱きついた。
抱き合って泣く二人の少女を、しばらく無言で見守った。ミスミと手合わせしていた少年が、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
「魔王様。何があったわけ?」
小声でそう尋ねてきた少年に魔王も小声で答える。
「大事な友達らしいわ」
「ああ……ミスミが『ここで待つ』って言ってた相手?」
「そうみたいね」
勇者と聖女から、そっと距離を取る。
「ミスミはずっと、ここで誰かを待ってたのよ」
魔王が声を抑えて言った。
「何度も『ここにいれば会える』『絶対にここに来るから』って言って。相手は人間だって言うし、あの子は聖女だから、勇者のことだろうとは思っていたんだけど」
「魔王様が連れてきたミスミの友達って、勇者なの?」
シホは気安い王なのか、少年は臆することなく話しかけている。
「そうよ」
「嘘だろ。勇者って、あの見境なくなんでも殺して歩く超危険人物の勇者? あの子が?」
……酷い言われようだ。
しかし、それも仕方がないのか。私がそうであるように、ヒナタも魔族を手に掛けている。
友人に縋って泣く少女に、その手を汚させてしまったのは人間だ。故郷の料理を用意して歓待した魔王より、人間の方がよほど……