《魔王城でお茶を》

文字数 1,806文字

(元騎士視点)

 勇者ヒナタは聖女ミスミと再会し、抱き合って泣いた。本来なら同じ場所に召喚されて支え合えたはずの二人だ。彼女たちは何故か離れ離れになり、人間は勇者を冷遇した。聖女は行き倒れて魔王に拾われたという。

「二人とも。落ち着いたならどこかでちゃんと座ってお茶でも飲まない?」
 魔王が優しげに声をかける。聖女ミスミは赤くなった目で魔王を見上げた。
「シホ、お茶するならプリン……」
「仕方がないわね」
 魔王が苦笑して言った。
「この前作ったのが残ってるから出してあげるわ」

 魔王はミスミとヒナタを連れて、歩き出した。
「アルヴィン、君もおいで。美味しいお茶菓子があるから」
 ここに放置されても困る。私はなんとなく、角のある少年と近くにいた魔族たちに一礼してから魔王を追いかけた。

 いくつもある部屋のひとつ、白いクロスが掛けられた楕円形のテーブルがある部屋には、何故か魔王の側近であるケインが先回りしていた。
 テーブルにはすでにお茶の用意がされている。いくつか焼き菓子が並べられ、空いていた空間には魔王がどこからともなく取り出した、新たな菓子や軽食が置かれた。

「友達と再会できて良かったわね」
 魔王はそう言って微笑み、聖女の頭を撫でた。
 男装の聖女が少し不満げな顔をする。
「撫でるのはやめてくれないかな」

 聖女ミスミは私に目を向けた。
「このお兄さんは?」
「私の保護者というか、相棒というか。ずっと手助けしてくれてた人」
「そうか……ヒナタを守ってくれてありがとう」

「いいえ。私はただ自分のしたいようにしてきただけですから」
 こんな少女に押し付けるだけ押し付けて、見て見ぬふりなどしたくなかった、それだけだ。

 お茶を飲みながらの勇者と聖女の話によると。
 ヒナタとミスミ、二人は一度死んでいるはずだという。こちらの世界の死と再生の神が起こした事故で。

 肉体を持ったままでは世界を渡ることができないからというのが神々の言い分で、ミスミがそれに抗議した。無理もない、突然殺されたのだから。結果、神の怒りを買って、二人は引き離されたらしい。

 おまけに、ヒナタはミスミに関する記憶に細工をされていたという。大事な友人がいたことはわかっていても、それが誰なのかずっと思い出せなかったそうだ。思い出したきっかけは、魔王と『聖女』の話をしたことだと思うと言っていた。

 何と言ったらいいのか。
 人間たちがヒナタにしたこと、人間側の立場であろう神々の仕打ち……これではやはり魔族よりも人間の方が悪役だ。魔王は聖女を助けたというのに。

 出された菓子のうちのいくつかは、魔王の手作りであるらしい。ヒナタたちには懐かしい故郷の味もあるようだ。私も遠慮なく手を伸ばした。甘味はそれほど得意ではないが、素朴な雰囲気の焼き菓子は甘すぎなくて美味しい。ひと口サイズの軽食も、不思議な味がするものもあったが美味しかった。
 まさか私が魔王の手料理を口にすることになるとは。

「さて。これからどうしようか」
 一杯目のお茶を飲み干して魔王が言った。すぐさま、ケインが二杯目を差し出す。側近と聞いたが執事なのか?
「勇者と聖女として、私と敵対する? あくまでも魔王を倒すっていうならそれもひとつの選択肢よ」
 勇者と聖女は顔を見合わせた。
「流石にちょっと……」
「ここで散々シホにお世話になったのに今更無理だ」

 魔王は「そうでしょうね」と言って、頷いた。
「じゃあ、魔国に寝返る? 勇者に見捨てられた人間は勝手に滅ぶかもしれないけど」

 ヒナタがため息をついて、魔王に目を向けた。
「それはシホさんの望みじゃないでしょう。誤解を解くために頑張ろうって言ってたよね」
「ああ……覚えてたわね」
 魔王はイタズラに失敗した、みたいな顔をしていた。

「私はシホさんに協力する。人間と魔族を和解させたい」
 ヒナタが思い詰めたように言った。
「じゃないと、アルが……」
 …………私が?

「人間は異質なものを嫌がるでしょう?」
 ああ……そういうことか。
 勇者と肩を並べるために手に入れた《獣化》のスキルと膨大な魔力。その時は人間のために戦うつもりで……けれど、私自身が今も人間かと言われると、どうだろうか。

「もし、魔王を倒して魔族を滅ぼしたとして。それで出来上がる世界には、アルの居場所がないと思う」
 だから和解を目指すと勇者は言った。
「何にせよ、私はヒナタを手伝うよ」
 聖女は勇者の手を握って微笑んだ。





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