第10話 目的と禁忌

文字数 789文字

 ぼくは黒田に向かって両手を挙げる。降伏のポーズ。万歳。白旗。
 オーケー、ぼくはよくやったけれど、相手の方が一枚も二枚も上手のようだ。
 だから黒田に直接訊ねてみることにした。

「黒田さん、おたくらがぼくにここまで拘泥(こうでい)するっていうのは、やっぱりよっぽどのことだとぼくは思うんです。つまり、あなた、あるいはあなた方の言う『触れてはいけない禁忌』というものはどういうものなんでしょう? ぼくはしがないアルバイト塾講師ですし、禁忌に触れた覚えもないし、触れたとしてもぼくは重要人物でもなんでもないからここまであなたが相手にする必要性のある人間とはとても思えないんです。でもあなたは拘泥する。どこにでも出没するし。いい加減、

を教えてくれませんか?」

「いい質問ですね。ってこれじゃ池上彰さんですね。でも、すごく、とても、すんばらしくいい質問です。でも、教えられません。そんなに簡単に

を教える人間がいるでしょうか。少なくとも私は教えません。なぜなら、

を教えるためには、多少は『触れてはいけない禁忌』についても触れざるを得ないからで、『触れてはいけない禁忌』なのに触れてしまうのは語義矛盾(ごぎむじゅん)もいいところです。それに、第一、あなたは−−」と黒田は言い淀んだが、「いや、こちらの話です」とそれきり口を閉ざした。

 やれやれ、ってこれじゃ村上春樹の小説の主人公みたいだけれど、本当に心の底から「やれやれ」なんだから仕方がない。
 バスはまもなく出発するみたいだけれど、旅は道連れ世は情けって言うじゃないか、と自分でもよくわかってはいない

をぼんやりと思い浮かべながら、シートにぐったりと背を持たせかけた。
 今日はあまり眠れていないし、叶環(かのうたまき)が言った「睡眠の質」も確保できていないからほんとうに眠たい。
 黒田のことがやっぱり恐ろしいからあまり眠りたくはなかったけど、目は自然と閉じられてしまう。
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