第13話 宙返り

文字数 820文字

 宗教施設。または宗教。
 どうしても平成はじめの

、あるいは9・11を思い出して身震いしてしまうけれど、ある小説家が書いていたように「彼らはぼくたちの鏡像に過ぎない」のかもしれず、ぼくはすこしの間立ち止まってじっと両手を見る。

 黒田はツアーコンダクターのように、何かの紋章が書かれた小さな旗を振りながら「こちら、こちらですよ。一列に並んで私のあとについてきてくださいね」と唾を吐き吐き大きな声で怒鳴る。
 ぼくは両耳を指で塞いだ(大きな音は苦手だ)。
 それからぼくは列の一番後方に並んだ。キョロキョロと辺りを見回す。ぼくは樹木の種類には詳しくはないからよくわからないけれど、立派な枝ぶりをした太い幹の木がたくさん、

植えられている。

 ぼくたち7人はどんどん宗教施設(みたいなもの)に吸い込まれそうになっていく。
 ポイント・オブ・ノー・リターン。
 不可逆的な物語の進行。

 ぼくは歩きながら想いを馳せる。
 そういえば、ぼくの家系はクリスチャンが多かったなぁ、と。それもバリバリのローマ・カトリックのクリスチャン。
 曽祖母は寝る前によくお祈りを唱えていたっけ、「我が主よ。我が祈りを聞き給え」とかなんとか。
 一方、父は仏教(特に禅宗)に、母は神道にシンパシーを抱いていたっけ。
 ぼくは? ぼくはどの宗教に共感しているのだろうか。
 神(や仏や天)は存在しているとは思うけれど、宗教(組織)はあまり得意ではない。
 なぜなら、組織は「排除の論理」が働くからで、外部の人間を排除しがちだ。
 ?
 そういった

が「触れてはいけない禁忌」だったのだろうか?
 ぼくはネットはショッピングや論文その他の検索だけで、SNSはおろかネットに書き込みをする、という習慣はないのに、なぜ信念がバレたのだろうか−−。

 考えを一時中断して黒田のほうを見やると、ぼくのほうだけを見ながら、やはりチェシャ猫的ニヤニヤ笑いをしているのだった。
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