第8話 獣の数字

文字数 667文字

「あなたはいまホテルにいる。そうですね? いいえ、お答えになる必要はありません。黒田という方ではないですが、『すっかりくっきりまるっとお見通し』だからです。千里眼? まぁ、そのようなものと理解しておいてください。私には

がわかるのです。私にもなぜなのかはわかりません。ただ

のです。あなたはいま焦っている。そして次にどのような行動をすべきか逡巡(しゅんじゅん)しておられる。しかし焦る必要はありません。いまのところすべてはいい方向へ進んでいます。安心してください。あなたは非常に疲れています。だからまずは質のいい睡眠を取るべきです。だからカーテンを閉めて部屋を暗くして、スマートフォンでクラシックでもかけて−−モーツァルトなんていいかもしれませんね−−ゆっくりと休んでください。自ずと道は開けます。では今回はこの辺で」

 叶環(かのうたまき)は一方的にしゃべり続けると電話を切った。

 ぼくは彼女の言うとおりにした(指示に従わなかったのは、室内に流した音楽をモーツァルトではなく、ブラームスにしたところだけだ)。

 ぼくはゆっくりと眠りについた。
 植木等も歌っているではないか、「そのうちなんとかなるだろう」と。

 明晰夢(めいせきむ)を見た。
 周りの深い闇のせいで漆黒に見えるフクロウが一本の大木にとまっている。
 ホウホウホウと6回鳴く。そのあとに続けて6回鳴く。また続けて6回。
 666。
 聖書に書かれているとおり、獣を表す悪魔の数字だ。
 
 ぼくは飛び起きて、すぐに外出着に着替える。先ほどまでの汗が染みついていてすこし臭うけれど仕方がない。
 ここから一刻でも早く逃げねば。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み