第1話 はじまりがはじまる
文字数 635文字
物語の〈はじまりがはじまる〉−−。
ぼくの住んでいる6畳一間のアパートのチャイムが鳴る。
ぼくはロング・スリーパーだから昼過ぎまで意地汚く眠りこんでいることはめずらしいことではないのだけれど、チャイムの音はとてつもなく大きくて目が覚めてしまう。
「いったいだれだろう?」
枕元にある置き時計を見ると、まだ朝の8時だ。人間の起きる時間ではないのではあるまいか、そう思いながらも起き抜けの千鳥足で玄関に向かい、のぞき穴から様子をさぐる。
はたして玄関先には黒いシルクハットをかぶり同色のモーニングを着た、やや太り肉の男が立っている。
「ここ日本でシルクハットにモーニングの礼装って、どういうことだろう」
惚けた頭で考えるともなしに考えていると、その男は、「いまのぞき窓からこちらを見ていることは、すっかりきっかりしっかりお見通しですよ」と言うので驚いて後ずさりしてしまう。
男はドアをノックする。
コン、コンコン。
コン、コンコン。コン、コンコン。
ぼくは隣人の目も気になるので仕方なくドアを開けることにした。
「ええい、ままよ。『毒を食らわば皿まで』と言うし」と自分でも意味のわからないことを呟きながら、ドアをえいやとばかりに開けると−−男はにんまりと笑いながら、その特徴的なシルクハットを脱ぎ、イギリス紳士のようにお辞儀をする。
「どうも、はじめまして。いや、はじめてではないかな。黒田正三と言うもんです。以後、お見知りおきを」
そう言うと、男はまたにっと笑うのだった。
ぼくの住んでいる6畳一間のアパートのチャイムが鳴る。
ぼくはロング・スリーパーだから昼過ぎまで意地汚く眠りこんでいることはめずらしいことではないのだけれど、チャイムの音はとてつもなく大きくて目が覚めてしまう。
「いったいだれだろう?」
枕元にある置き時計を見ると、まだ朝の8時だ。人間の起きる時間ではないのではあるまいか、そう思いながらも起き抜けの千鳥足で玄関に向かい、のぞき穴から様子をさぐる。
はたして玄関先には黒いシルクハットをかぶり同色のモーニングを着た、やや太り肉の男が立っている。
「ここ日本でシルクハットにモーニングの礼装って、どういうことだろう」
惚けた頭で考えるともなしに考えていると、その男は、「いまのぞき窓からこちらを見ていることは、すっかりきっかりしっかりお見通しですよ」と言うので驚いて後ずさりしてしまう。
男はドアをノックする。
コン、コンコン。
コン、コンコン。コン、コンコン。
ぼくは隣人の目も気になるので仕方なくドアを開けることにした。
「ええい、ままよ。『毒を食らわば皿まで』と言うし」と自分でも意味のわからないことを呟きながら、ドアをえいやとばかりに開けると−−男はにんまりと笑いながら、その特徴的なシルクハットを脱ぎ、イギリス紳士のようにお辞儀をする。
「どうも、はじめまして。いや、はじめてではないかな。黒田正三と言うもんです。以後、お見知りおきを」
そう言うと、男はまたにっと笑うのだった。