第30話 「洞窟の奥」
文字数 2,878文字
「わァっはっは!! はァ〜、さっきのは傑作 だったぜ」
温泉を出て、山登りに戻る三人。しゃらくは涙を流しながら笑っている。ブンブクも尻尾を振って笑っている。
「傑作な訳あるか。最悪だぜありゃあ」
一方でウンケイは一人、眉を顰 めている。
「でも“酒呑童子 ”は、お前の故郷 を縄張 りにしてんだろ? 怯 えてる場合じゃねェじゃねェか。もしかして、狸 なんてみんな喰われたんじゃねェか? わははは」
しゃらくが笑うと、ブンブクは顔面に飛びかかり鼻を噛 み付く。
「いででででェェ!!」
「わははは。そのまま顔にもう一度してやれ」
「やめろォォォ!!!」
しゃらくは、必死に顔からブンブクを剥がそうとする。ウンケイはその様子を笑って見ている。賑 やかに山を登っていく三人だが、その様子を昨夜 の男達が、またも木の上から見ている。
「鼠 共が、チューチューうるせぇなぁ」
すると男の一人が、弓を取り出し矢を構える。
「あばよねず公 」
ビュッ! 男が矢を放つ。放たれた矢は、ギュンギュンとしゃらくの頭部を目掛けて進む。すると、ガン! 直前で大薙刀 に防がれる。
「何!?」
男が驚く。その視線の先、ウンケイがこちらを睨 んでいる。
「おい大将。お天道様 が気ぃ抜くなってよ。そんなもんいるのか知らねぇが」
驚き固まっているブンブクを顔から引き剥 がし、しゃらくも木の上の男達の方を見上げる。
「あァ、そうみてェだな。悪ィなウンケイ」
「おいおい! ただの鼠じゃねぇみてぇだぜ!」
木の上の男達全員が、慌 てて次の矢を構える。ヒュヒュヒュン!! 木の上から次々と矢が放たれていく。しかし、しゃらくとウンケイは向かって来る躱 したり、弾 いたり、掴 んだりと余裕の対応を見せる。一方でブンブクは、岩陰 に隠れて様子を伺 っている。
「やべぇぞあいつら! さっさと殺せぇ!!」
放つ矢を余裕でいなしながら、向かって来るしゃらく達に、男達は必死で矢を放つ。
「わはははァ! そんなもんで死ぬタマじゃねェぞおれ達はァ!」
バッ!! すると、しゃらくが高く跳び上がる。そして男達がいる高い木の上に乗る。
「何ぃ!!?」
男達が固まる。しゃらくがニヤリと笑う。
「“虎枯 らし”ィィ!!」
しゃらくが鋭い爪を振り回し、男達を切り裂 く。
「うわぁぁぁ!!!」
男達は次々に木の上から落ちていく。落ちた地面では、ウンケイが薙刀を構えている。
「相手が悪かったな」
ウンケイが薙刀を振りかぶる。
「ま、待て!! 俺達を殺せば、酒呑童子様が黙ってねぇぞ!!」
「酒呑童子だと?」
ウンケイが止まる。しゃらくも木の上から飛び降りて来る。
「お、おうよ! 俺達は酒呑童子様の子分だぜ! 殺されたくなきゃ大人しくしやがれ!」
男達はここぞとばかりに威勢 を取り戻す。すると、しゃらくとウンケイはニヤリと笑う。
「そうか。思ってたより早く会えそうだな。なァウンケイ」
「あぁ。それじゃあ、こいつらに案内してもらわねぇとな。酒呑童子のところへ」
ウンケイが薙刀を下ろす。
「は!?」
男達は呆然 とする。
「酒呑童子のとこへ連れてけよ!」
*
山奥の暗く巨大な洞窟 の入口、しゃらくとブンブクを肩に乗せたウンケイ、頭にたんこぶを大量に作った男達が立っている。
「・・・この奥が童子様 の寝床 だ」
男の一人が、俯 きながら洞窟の中を指差す。
「ほんとか? また嘘つきやがったら殴るぞ」
しゃらくが詰 め寄る。
「ほ、本当だ! 嘘じゃねぇよ!」
「さっきもそう言ったぜ? おれ達をはめようとしやがって!」
ゴツン! しゃらくが、近くにいた別の男の頭に拳骨 を浴びせる。
「いでぇぇ!!」
男が涙を流して痛がる。
「かァ〜! 男が痛くて泣くんじゃねェ!!」
しゃらくが男をまた殴る。
「誰も泣かせねぇってのは嘘だな」
その様子を見ていたウンケイが、肩に乗ったブンブクにヒソヒソと耳打ちする。ブンブクは首を何度も縦に振る。
「本当だ! 今度は嘘じゃねぇ! 第一てめぇら如きじゃ、酒呑童子様に手も足も出せねぇぜ! さぁ行けよ! この奥がてめぇらの墓場だぜ!」
男が再び洞窟の奥を指差す。洞窟の奥には真っ暗闇が広がっており、中から吹く風が壁を反響して、まるで低く大きな唸り声のような音を響かせている。
「わァっはっはァ! 上等だぜ!」
しゃらくが鼻息を荒くし、ツカツカと洞窟の中へ進んでいく。周囲の男達は、その様子を怪しく笑って見ている。
「おい。てめぇらの大将ってのは、十二支 将軍じゃねぇだろ。どこのどいつだ?」
ウンケイが洞窟を見つめたまま、男達に問いかける。
「あ? 何言ってやがる。酒呑童子といえば十二支 将軍の一人、“丑 の酒呑童子”に決まってんだろ」
男達がニヤニヤと笑う。すると、ウンケイが男達をギロリと睨む。男達は、蛇に睨まれた蛙のようにピタリと固まる。
「・・・そうか。なら、俺達が倒すべき相手だな」
そう言うと、ウンケイも暗い洞窟の中へ進んでいく。しかし、肩に乗っているブンブクだけは、ブルブルと震えている。中を進んでいくと、先頭を進むしゃらくが二手に分かれる道の中央で、立ち止まっている。
「おい、どうした?」
ウンケイが尋ねると、しゃらくは静かにするよう人差し指を立て、鼻と耳をピクピクと動かしている。
「ん〜」
しゃらくが頭を傾 げる。
「何だ、お前の鼻と耳で分かんねぇのか?」
「なァウンケイ。酒呑童子ってどんな奴だっけ?」
「あ? そうだな。デカくて凶暴で大酒呑みだ。・・・あとその事なんだが・・・」
「じゃア酒呑童子の寝床は右だ。酒の匂いがプンプンする。でも奴は今いねェぜ。音がしねェ」
しゃらくがウンケイを遮 って喋 り出す。
「でも左にも何かデカいのがいるぜ。先にこっち行くか」
しゃらくはニカっと笑うと、左へ進んでいく。
「・・・少しは人の話を聞きやがれ」
ウンケイが呆 れながらも、しゃらくの後を追う。しかしブンブクは、ウンケイの肩の上で小さくなってブルブルと震えている。
「なぁおい。あいつらどうなると思う?」
「そりゃあ死ぬに決まってんだろ」
洞窟の外で、さっきの男達が話をしている。
「そんなことは分かってるよ! どっちで死ぬかって話だ」
「あぁ。右へ行けば酒呑童子様。左へ行っても、今はあ の 三 人 が宴会 している筈 だ。死ぬのは間違いねぇな。じゃあよ、奴らがどっちで死ぬか賭 けるか? ぎゃははは」
洞窟の中、左を選んだ三人は灯りも持たず、しゃらくの鼻と耳を頼りにツカツカと進んでいく。
「あ! 明かりが見えた!」
そう言うとしゃらくが、道の先の明かりへ向かって駆けていく。
「おい待て!」
ウンケイもしゃらくを追いかける。肩に乗ったブンブクは、振り落とされないよう必死でしがみつく。そして明かりの先へ辿り着くと、三人の大男が胡座 をかいて酒を呑んでいる。三人はそれぞれ青、黄、緑の着物を上半身を脱いで着ており。筋骨隆々 の肉体を露 わにしている。三人はしゃらく達をギロリと睨む。
「おれはしゃらく! お前らをぶっ飛ばす!」
完
温泉を出て、山登りに戻る三人。しゃらくは涙を流しながら笑っている。ブンブクも尻尾を振って笑っている。
「傑作な訳あるか。最悪だぜありゃあ」
一方でウンケイは一人、眉を
「でも“
しゃらくが笑うと、ブンブクは顔面に飛びかかり鼻を
「いででででェェ!!」
「わははは。そのまま顔にもう一度してやれ」
「やめろォォォ!!!」
しゃらくは、必死に顔からブンブクを剥がそうとする。ウンケイはその様子を笑って見ている。
「
すると男の一人が、弓を取り出し矢を構える。
「あばよねず
ビュッ! 男が矢を放つ。放たれた矢は、ギュンギュンとしゃらくの頭部を目掛けて進む。すると、ガン! 直前で
「何!?」
男が驚く。その視線の先、ウンケイがこちらを
「おい大将。お
驚き固まっているブンブクを顔から引き
「あァ、そうみてェだな。悪ィなウンケイ」
「おいおい! ただの鼠じゃねぇみてぇだぜ!」
木の上の男達全員が、
「やべぇぞあいつら! さっさと殺せぇ!!」
放つ矢を余裕でいなしながら、向かって来るしゃらく達に、男達は必死で矢を放つ。
「わはははァ! そんなもんで死ぬタマじゃねェぞおれ達はァ!」
バッ!! すると、しゃらくが高く跳び上がる。そして男達がいる高い木の上に乗る。
「何ぃ!!?」
男達が固まる。しゃらくがニヤリと笑う。
「“
しゃらくが鋭い爪を振り回し、男達を切り
「うわぁぁぁ!!!」
男達は次々に木の上から落ちていく。落ちた地面では、ウンケイが薙刀を構えている。
「相手が悪かったな」
ウンケイが薙刀を振りかぶる。
「ま、待て!! 俺達を殺せば、酒呑童子様が黙ってねぇぞ!!」
「酒呑童子だと?」
ウンケイが止まる。しゃらくも木の上から飛び降りて来る。
「お、おうよ! 俺達は酒呑童子様の子分だぜ! 殺されたくなきゃ大人しくしやがれ!」
男達はここぞとばかりに
「そうか。思ってたより早く会えそうだな。なァウンケイ」
「あぁ。それじゃあ、こいつらに案内してもらわねぇとな。酒呑童子のところへ」
ウンケイが薙刀を下ろす。
「は!?」
男達は
「酒呑童子のとこへ連れてけよ!」
*
山奥の暗く巨大な
「・・・この奥が
男の一人が、
「ほんとか? また嘘つきやがったら殴るぞ」
しゃらくが
「ほ、本当だ! 嘘じゃねぇよ!」
「さっきもそう言ったぜ? おれ達をはめようとしやがって!」
ゴツン! しゃらくが、近くにいた別の男の頭に
「いでぇぇ!!」
男が涙を流して痛がる。
「かァ〜! 男が痛くて泣くんじゃねェ!!」
しゃらくが男をまた殴る。
「誰も泣かせねぇってのは嘘だな」
その様子を見ていたウンケイが、肩に乗ったブンブクにヒソヒソと耳打ちする。ブンブクは首を何度も縦に振る。
「本当だ! 今度は嘘じゃねぇ! 第一てめぇら如きじゃ、酒呑童子様に手も足も出せねぇぜ! さぁ行けよ! この奥がてめぇらの墓場だぜ!」
男が再び洞窟の奥を指差す。洞窟の奥には真っ暗闇が広がっており、中から吹く風が壁を反響して、まるで低く大きな唸り声のような音を響かせている。
「わァっはっはァ! 上等だぜ!」
しゃらくが鼻息を荒くし、ツカツカと洞窟の中へ進んでいく。周囲の男達は、その様子を怪しく笑って見ている。
「おい。てめぇらの大将ってのは、
ウンケイが洞窟を見つめたまま、男達に問いかける。
「あ? 何言ってやがる。酒呑童子といえば
男達がニヤニヤと笑う。すると、ウンケイが男達をギロリと睨む。男達は、蛇に睨まれた蛙のようにピタリと固まる。
「・・・そうか。なら、俺達が倒すべき相手だな」
そう言うと、ウンケイも暗い洞窟の中へ進んでいく。しかし、肩に乗っているブンブクだけは、ブルブルと震えている。中を進んでいくと、先頭を進むしゃらくが二手に分かれる道の中央で、立ち止まっている。
「おい、どうした?」
ウンケイが尋ねると、しゃらくは静かにするよう人差し指を立て、鼻と耳をピクピクと動かしている。
「ん〜」
しゃらくが頭を
「何だ、お前の鼻と耳で分かんねぇのか?」
「なァウンケイ。酒呑童子ってどんな奴だっけ?」
「あ? そうだな。デカくて凶暴で大酒呑みだ。・・・あとその事なんだが・・・」
「じゃア酒呑童子の寝床は右だ。酒の匂いがプンプンする。でも奴は今いねェぜ。音がしねェ」
しゃらくがウンケイを
「でも左にも何かデカいのがいるぜ。先にこっち行くか」
しゃらくはニカっと笑うと、左へ進んでいく。
「・・・少しは人の話を聞きやがれ」
ウンケイが
「なぁおい。あいつらどうなると思う?」
「そりゃあ死ぬに決まってんだろ」
洞窟の外で、さっきの男達が話をしている。
「そんなことは分かってるよ! どっちで死ぬかって話だ」
「あぁ。右へ行けば酒呑童子様。左へ行っても、今は
洞窟の中、左を選んだ三人は灯りも持たず、しゃらくの鼻と耳を頼りにツカツカと進んでいく。
「あ! 明かりが見えた!」
そう言うとしゃらくが、道の先の明かりへ向かって駆けていく。
「おい待て!」
ウンケイもしゃらくを追いかける。肩に乗ったブンブクは、振り落とされないよう必死でしがみつく。そして明かりの先へ辿り着くと、三人の大男が
「おれはしゃらく! お前らをぶっ飛ばす!」
完