第24異世界交易コロニーの「アイドル」【4】

文字数 1,285文字

 それから私はこの嫌悪感のあるお店で働くこととなった。といっても、結論的には、幸運なことに、私は1日もここで働くことはなかったのだ。

 なぜなら、私がお店の商品にされる前日に、現在の事務所の社長と出会ったからである。

 社長は、いかがわしいお店に新人が入ってくると、アイドルの卵として相応しい人物を探す趣味があったのだ。

 社長曰く「こういった所に運悪く流れ着いてしまう人たちの中には、この窮地を脱したいというエネルギーに溢れている者がいる。それに、才あるものがこんなところで日の目を見ずに消えてしまうのは何より惜しい」とのことだった。

 運良く社長と出会った私は、社長のアイドルとして適性があるかを測るテストを受けることになる。

 そこで私は憧れていた伝説のアイドルを真似て覚えていた歌と踊りを必死に披露した。

 慣れない環境、彼に見捨てられたら2度とチャンスは巡ってこないという極度の緊張感の中、踊りだせば身体は応えてくれた。

 それに、自画自賛するようで恥ずかしいけれど、歌声はこんな場所でさえも塗り替えてしまうように響き渡ったと思う。

 私の姿を見ていた社長の目が、どんな言葉よりも強く物語っていたからこそ、そう思えたのだ。

 その結果、両者の思惑が一致して引き抜かれることとなった。

 だが、金づるである私を簡単にお店が引き抜かせるわけもなかった。

 社長と私は、お店から吹っ掛けられ、本来私が稼ぐはずだった金額以上の借金を背負わされることになる。

 そして、店長から「ノーマニーなプアーガールたちは、トラッシュボックス行きよ、ゲットレディ?」と借金を払えなかった者の末路まで見せられた。

 私がその光景を目の当たりにした時、深い憎悪と共に、これが同じ生き物の所業なのかという疑問が湧き上がった。

 吐き気を我慢できずに、その場で垂れ流してしまう。涙も止まらず、冷や汗が全身を覆った。

 目の前の光景はあまりにも異様で、その物体の元々の姿を想像することはできない。

 部屋の奥から這い出てきたソレは、私の放ったものを舐め取った。ソレの嬉しそうな様子に、胃が再び痙攣する。もう見ることはできないと、床に視線を移し、口からは、誰にも向けられたでもない謝罪の言葉と、酸っぱい液体が漏れ出るばかりだった。

 社長が店長を怒鳴りつける声が聞こえた時には、私はもう外にいた。

 その地獄の光景が、よっぽど脳裏に焼きついた私は、そうなりたくない一身でアイドルとしてお金を稼ぎ続けた。しかし、生活に困らなくなった今でさえ、その悪夢にうなされ、お金への執着は捨てられずにいる。

 お金がなくなってしまえば、家族も住む場所も、人権すらも失ってしまう。

 それが異世界交易コロニーの真実である。

 その強烈な事実が私を縛りつけ、呪いの様に私を追い立ててくる。

 次のライブも、次のイベントも成功させなくてはならない。

 売り上げを出さなくてはならない。

 まだまだお金が足りないと、心の底から焦りの感情が沸いてくる。

 私は今回のライブも必ず成功させて、「金庫を埋め尽くすだけの売り上げをだす!」といつものように心に強く強く誓った。
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