第36話

文字数 1,148文字

「緊張してる?」
三人に聞く。佳凛ちゃんの顔色は悪く、スカートの裾を強く握りしめている。国本君もいつもよりは元気ない気がする。ニヤニヤ男の港山君さえ笑顔がちょっと引きつってる気がする。
「私は変な気分。緊張してるのかは微妙。でも私なら、私たちなら絶対に合格できるって信じてるから、テンションは低くないよ。」
誰も答えそうにないから、私が自分で答えた。それから、佳凛ちゃんの手をそっとスカートから剥がす。
「受験前なのに手が痛くなっちゃうよ。」
「だって、緊張しかしないよ。もし、落ちたら……。」
「大丈夫。」
私は佳凛ちゃんを抱きしめる。絶対に大丈夫だから。大丈夫の一言に込めた思い。これは絶対伝わる。
「大丈夫。」
国本君もそう言って私の肩に手を置いた。
「大丈夫。」
港山君も佳凛ちゃんの肩に手を置く。
「大丈夫。」「大丈夫。」「大丈夫。」
私たちの大丈夫が広がっていく。気が付けば、クラス全体が「大丈夫。」の言葉をそれぞれ口にするようになり、自分を皆を落ち着かせる。
「静かに。」
塾長と何人かの先生が部屋に入ってきた。みんなが席について、先生が前に立つ。
「これから激励会を始める。まずは先生の言葉だ。」
頑張ってください。今までの自分を信じて。時間配分に気を付けて。皆さんと勉強できて嬉しかった。合格して帰ってこい!同じようなことを先生たちが言う。その後、先生たちがプロジェクターを準備し始めた。プロジェクターに映ったのは……白井先生だ。クラスがざわつく。
「皆久しぶり。びっくりしたか?俺から言う事は少ないけど、ちゃんと聞いて欲しい。まず、今までの事を忘れるな。」
誰よりも短い言葉。でも、その言葉に涙を流す生徒は何人もいて。全て忘れない。ここで学んだ知識はもちろん、クラスメイトのことも、先生に怒られたことも。何度も流した涙も。その百倍ぐらい輝いた笑顔も。全部心の中にしまう。覚えておく、忘れない。
「それから、受験を楽しんで来い!!」
白井先生の動画が止まり、塾長が一言告げた。
「これにて激励会を終える。」
みんなが拍手をして、誰からともなく泣きだして、最後の別れを惜しんだ。
「帰って勉強しなきゃね。」
佳凛ちゃんは言うけど、体は全然動かない。私と国本君も静かに頷いて。でも、国本君が後ろから来た港山君に筆箱を取られて、それを国本君が取り返そうとして、なぜか私もそこに加わった。到底足りない身長だし、なんなら邪魔になったぐらいだけれど、その筆箱をクラス皆で取ったり取り返したり、意味のないことを繰り返して、皆で笑いあう。それだけでみんなの心が落ち着いて。
「私たちならできるーーー!!」
私が大きな声で叫ぶと、皆が「おー!」と続き、また「大丈夫。」の輪が広まる。明後日が受験なのに。このメンバーでいられる最後の瞬間を味わったんだ。

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登場人物紹介

天川ふうか

夢の国でふうか姫としてお仕事してます!!

中学受験のために塾で頑張ってます!勉強はへっぽこだけど笑

白浜佳凛

ふうかの親友です。

しっかり者で頭もまあそこそこ……笑(いや!めっちゃいいです!Byふわ)

国本陽翔

ふうかのクラスメイトだ。

勉強は佳凛には及ばないけど、ふうかよりはいいだろ。(こんな感じだけど根は優しいよね!Byふわ)

港山拓也

天川ちゃんのクラスメイトで~す!

皆にチャラいって言われるけど、そんなことないよ~?ところでそこの君!可愛いね。

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