第13話

文字数 1,110文字

「ただ伝えたかっただけなんだ。あの…だな……。もうちょっと頑張れ。辛いのは分かっている。分かっているわけないと思うだろうけど、分かるんだよ。天川、言ってなかったけど、俺も大切な人を失ったことがあるんだ。」
「え……。」
先生も大切な人を失っ……ていた?
「俺と同じで教師を目指していた人だった。一緒に必死になって勉強していた。教員免許を取ろう!ってな。」
一度言葉を切った先生の目に影が落ちた。
「必死に勉強して、絶対に試験に合格するところまで来た。だが、試験当日の朝、そいつが事故で亡くなったんだ。」
何も言えなかった。相槌すら打てない。
「突然のことで、俺は試験を受けられなかった。ショックだったんだろうな。しばらくして、教員免許を取り直そうと思った。でも、試験会場に行くと、体の震えが止まらなくなるんだ。何度も試したけど、ダメだった。こんなに辛い思いをするなら、もう教員免許は取らずに、普通に働こうと思った。いわば、諦めたんだ。」
でも先生は、免許こそ無いものの、生徒に勉強を教える立場に立っているんだ。それって……。
「先生はまだ諦めきれて無いんですね。」
「え?」
先生が驚いたような顔をした。あ!っと思ったけど、もう取り消せない。言うつもりなかったのに、思わず言葉が口をついた。
「す、すいま……。」
「そうかもしれないな。」
「え?」
肯定した。認めてしまったのだ。
「だって、そうだろ?諦めたとか言いながら、今もこうやって塾講師として、教えることを諦めてないんだもんな。」
先生は自嘲気味に笑った。何も言えなかった。自分の境遇と同じ人を初めて見た。「辛いよねー。」と共感するとか、「大丈夫?」って自分の事を棚に上げて話すとか、どうすることもできない。正解は何?何も分からない。もう泣きたい。
「泣くな。自分を責めるな。お前のせいじゃないし、お前の気持ちを分かっておきながら、傷つけるような発言をした俺が悪い。」
先生は悪くない!って自分の気持ちを伝えなくちゃいけないのに。頭の中で言いたいことが絡まっていて、ぐちゃぐちゃ。何から話せばいいか分からない。そんな時、ママと塾長が戻ってきた。
「ふうかさん、白井先生。お話は済みましたか?」
「はい。大丈夫です。」
「ふうかも大丈夫?ちゃんと言えたの?」
頷けない。まだ言いたいことはたくさんある。まずは謝りたい。しっかり謝らないと、自分の中で折り合いがつかない。
「ふうか、答えて。」
ママに急かされて頷くことしかできなかった。声を出したらきっと泣き出しちゃう。ママはまだ私の答えを待とうとしたけど、塾長が少し焦ったように言った。早く終わらせたいとでもいうように。
「白井先生の処分が決まりました。」
「え!?」


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登場人物紹介

天川ふうか

夢の国でふうか姫としてお仕事してます!!

中学受験のために塾で頑張ってます!勉強はへっぽこだけど笑

白浜佳凛

ふうかの親友です。

しっかり者で頭もまあそこそこ……笑(いや!めっちゃいいです!Byふわ)

国本陽翔

ふうかのクラスメイトだ。

勉強は佳凛には及ばないけど、ふうかよりはいいだろ。(こんな感じだけど根は優しいよね!Byふわ)

港山拓也

天川ちゃんのクラスメイトで~す!

皆にチャラいって言われるけど、そんなことないよ~?ところでそこの君!可愛いね。

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