第1話:真辺家の歴史

文字数 2,033文字

 湯河原の農家に1940年6月23日に真辺紳吉が、生まれた。昭和の初期は、真辺家は旧華族として東京の議員の一族だった。しかし、戦争が激化してくると考えた真辺家の当時の当主の真辺一蔵が、親類のうち数家族を工場のない湯河原にあった別邸に引っ越させた。その中に生まれて間もない真辺紳吉が一緒にいた。やがて1945年、敗戦となり終戦を迎えた。

 その頃、真辺家では、豪華な着物、美術品、金や銀細工品、ダイヤ、ルビー、パールなどの宝飾品を一族が食べていくために、ほとんど金に換えた。その結果資産は、激減したが、食料品、海産物を手に入れて、何とか食いつなぐことができた。さらに終戦後、昭和21年「1946年」戦後処理のために戦時補償特別税と財産税が創設された。

 戦時補償特別税は、戦後の財政再建を図るため、戦時補償請求権の要求額を全て日本が支払うために日本の富裕層信じられない程の高い税金を課税することで戦時補償の支払いを賄うための措置。また財産税は、10万円以上の財産を所有する個人に課税された。戦後の本格的な税制改正は、昭和22年に実施され、所得税・法人税などに申告納税制度が導入された。

 しかし深刻な財政危機のもと納税の金額が巨額となった。新制度への不慣れや職員の大量補充、各地の軍政部の徴税への関与など、終戦直後の税務行政には多くの混乱が生じた。また、その財産税の計算方法が無茶苦茶であった。そのため、旧貴族、華族、大名などは、身ぐるみはがされた。その点で、真辺家の当主の判断は、その財産税の被害を被らず食料品に替えられた。

 その結果、一族から餓死者を出すこともなく子孫を大事にすることができた。真辺紳吉は、手先が器量であった。そして湯河原温泉を管理する湯守さんの仕事を興味深げに見ていた。そのため1953年4月、湯河原中学に入学すると近所の農家の稲刈りや野菜取りなどの手伝いをした。また、農家の人から農機具の整備の仕方なども教わった。

 その手先の器用さを買われて中学を卒業すると湯河原の農協の農機具、機械類の整備の仕事についた。その他、温泉の配管掃除や温泉を送る温泉菅の掃除の仕方なども地元の湯守さんから教えてもらった。湯守さんが、70歳で体が自由に動かなくなってきた。そのため、真辺紳吉が、一緒に手伝って回るようになった。

 この頃になると真辺家も普通の家族になっていた。豪華で広い家に住んでいること以外は、地元市民と全く変わらなかった。1960年になると真辺紳吉が、熱心に湯河原で湯守をした。そのうわさが熱海にも広まった。その当時、湯守さんは、ほとんどが、高齢で若い人は、真辺紳吉だけと言っても良いくらい、若手がいなかった。

 そこで、紳吉は、いろんな湯守りさんに可愛がられ、湯守の技術を身につけて行った。そのため、大忙しだった。その代わり米、みかんなど果物、魚、卵、豚肉、鶏肉を現金代わりにもらって、生活をしていた。1961年、真辺紳吉が、熱海の老舗旅館の3女の下妻紗代さんと親しくなった。そうして1962年5月に湯河原の真辺家で結婚式を挙げた。

 熱海には、いくつもの温泉旅館があり湯守の仕事をすると温泉を引くマンション、旅館から温泉の管理費をもらった。そのため、毎年50万円以上の貯金ができた。その後、1964年3月に奥さんの紗代さんの妊娠が判明し9月11日、長男、真辺益一が、誕生した。その2年半後、1967年3月には、長女の真辺良江が、誕生した。

 やがて1968年が明け、1月29日、東大医学部で、無期限スト突入した。そして、東大闘争が始まった。2月16日、成田空港問題、成田空港阻止三里塚闘争集会、デモ隊と警官隊が衝突、戸村一作、反対同盟代表が、重傷を負った。3月10日、成田空港問題が、前月に引続き、成田市街で大規模な衝突が、繰り返された。

 5月8日、イタイイタイ病を公害病に認定した。10月11日、西日本一帯で発生した皮膚疾患に関して福岡県衛生部と北九州市衛生局が調査を開始した。そして、北九州市衛生局が同市小倉区のカネミ倉庫に立ち入り調査を実施した。その結果、同社製のこめ油「カネミライスオイル」にPCBが、混入したことによる中毒症状が発覚した。

 1968年12月10日、東京都府中市で白バイを使い警察官に扮した男が三億円強奪する事件「三億円事件」が発生した。やがて1969年となった。4月1日、日本人の一般海外旅行における1回あたりの外貨持ち出し制限が、従来の500USドルから700USドルに緩和された。5月13日、三島由紀夫と東大全共闘が、東大駒場キャンパス900番教室「講堂」で公開討論した。

 10月21日、国際反戦デーにあたるこの日、新左翼各派は新宿を中心に各地で機動隊と衝突した。この事件での逮捕者は1594人に上り過去最大となった。11月21日、佐藤栄作首相が、ニクソン大統領と会談し、日米共同声明を発表。3年後の沖縄返還合意を取り付ける。
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