第4話

文字数 1,662文字

のシティサイクルに近づき、後輪に付いているロックに鍵を差し込んだ。後輪のカンヌキが上がった。スタンドを蹴って自転車にまたがり、漕ぎ出した。
 低層住宅や工場が並ぶ地域を通り過ぎ、トラックが行き交う3車線の国道に入った。道路は歩道と車道がツツジの並木で仕切ってあり、歩道沿いを20分程進んで駅前に到着した。
 駅前は10階建てのマンションが建ち並んでいて、コンビニエンスストアが1階にある。
 中井は駅の出入り口の脇にある、駐輪場のスタンドに自転車の前輪をはめて止めた。スタンドに内蔵している爪が前輪をロックした。後輪のカンヌキを下ろして自転車の鍵を抜き取り、駅に入った。
 駅に入り、Suicaの入ったカードケースを取り出して自動改札機に通した。ゲートが開き、先へ進んだ。階段を上がり、プラットホームに着いた。
 列車がプラットホームに停車していた。ドアは開いている。
 中井は列車に乗った。間もなくドアが閉まり、列車が動き始めた。実家の最寄り駅に向かうには1回乗り換える必要があったが、同じ会社の列車だったので迷わなかった。
 最寄り駅に到着した。
 中井はドアが開くと降りて階段を降り、改札口で駅に入るのと同じ手段で自動改札機を通過して駅を出た。
 駅前は4メートル程の人通りの少ない通りで、個人商店が道に沿って並んでいた。
 中井は商店が並ぶ通りを曲がった。
 道路は土を被っていて、耕して間もない畑が生け垣で区切ってある。
 中井は土ボコリの匂いが漂う道路を進み、突き当りを曲がった。四角く白い壁の家があり、庭に入って玄関ドアに向かった。
 家の壁は土ボコリを被っていて、庇にはドロバチが作った巣の跡がある。ドアは片開きで、鉄色の鈍い金属のツヤを放っていた。
 中井はドアの脇に設置してある、カメラが付いたインターホンのスイッチを押した。
「はい」母の声がインターホンのスピーカーから聞こえてきた。
「あ、あ、あたし、佳苗で」中井は必死に声を出したが、発声の途中で詰まった。
 間もなくドアが開き、中井の母が出てきた。
 中井の母は白髪交じりの肩まである髪でくたびれたエプロンを付けている。中井の姿を見て、驚きと困惑が混じった表情をした。「あんた、平日でしょ。今日休みなの」中井に尋ねた。
「し、仕事、辞めた」中井は平静を装った。
 母は渋い表情をした。「遊んでる暇があるなら、仕事を探しなさい」中井に向かって怒り気味に声を発した。
「も、も、も、戻ってきたんじゃなくて、置き、ぱなしになっている、シーデーを、と、取りに来たの」中井は必死に早口で説明した。
 母は中井の表情を見て、玄関ドアを全開にして固定した。「入りなさい、出ていった時のままになっているから」
 中井は安堵した。「ありがと、おかさん」中井は玄関から家に入った。
 母は中井の後ろ姿を見て、あきれと共に安心した。プッシュプルハンドを手に取り、ドアを閉めた。
 中井は玄関で靴を脱ぎ、靴を靴入れに入れてホールに上がった。
 ホールは玄関から廊下があり、脇に階段がある。
 中井は階段を上がり、2階の廊下の脇にある扉を開けた。
 奥の窓際のカーテンは取り除いてあった。部屋に何が置いてあるか、大まかでしか分からない。
 中井は部屋の中央に移動し、天井からつり下がっている蛍光灯のスイッチひもを引いた。蛍光灯の輪が白く点滅してから点灯した。
 床はホコリを被っていて、透明なケースが無造作に置いてある。奥にはホコリを被ったチェストと棚がある。
 中井は棚に近づき、リュックサックを下ろしてから一番下の段に入っている、くすんだ透明のCDケースを取り出した。複数のジュエルケースがCDケースに入っている。ケースの爪を外し、入っているジュエルケースのラベルを目視で確認する。筆記体で「ロストヘヴン」と書いてあるラベルのジュエルケースを見つけた。
 「ロストヘヴン」のジュエルケースは、ジャケットと裏ジャケットは真っ黒に黄色の線が斜めに、かつ無数に引いてあるデザインになっている。
 中井はしばらくの間、ジュエルケースを眺めた。
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