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文字数 957文字
突然のお手紙、ごめんなさい。一年の時同じクラスだった加納沙詠です。覚えていますか?
ろくに話したこともないのに、こんな手紙を出すのは違うのでしょうが、わたしが藤谷くんに手紙を書くのはこれが最初で最後。どうか見逃してください。
くだらない話を長々と続けるのはいやなので、要点だけ伝えます。
わたしは対外的に、今年の夏休みはずっと沖縄に旅行に行っていることになっています。少なくとも母はそう信じているはずです。でも、消印、見ればわかりますよね。わたしはこの街にいます。
沖縄行きは嘘です。
わたし、しばらくの間、誰とも会いたくないのです。誰にも探されないままでいられるように。わたし、もう、煩わされたくなかったのです。
本来この手紙は書くべきではないとは解っています。でも、もし出さなかったらわたしの十七年が、ただ惨めなだけになってしまう。その気持ちがこの手紙をわたしに書かせました。巻きこんでごめんなさい。
わたし、藤谷くんの笑顔が好きです。恋愛じゃなくてごめんなさい。嫌なことしかなかったわたしの世界の中で、たぶん、初めて好きになったのが藤谷くんの笑顔でした。藤谷くんの笑顔を見ていると、いつかわたしもそうやって笑うことができるのではないかと思うことができました。そう考えられるだけでも、わたしにとって驚きでした。すぎた望みだというのは理解しています。それでもいつか、わたしもそういう笑顔になりたい、そうなりたいと思える唯一でした。
本当にわたし、藤谷くんみたいに笑いたかった。
でももう、無理。ごめんね。
わたしはよく、何の疑いもない、おちびのさよみちゃんのままでいられたらよかったと思うことがあります。そうだったら、こんな思いも知らないままでいられたのだろうかと考えるのです。それでもわたしは、加納沙詠としてきちんと生きたかった。おちびさんとしてではなく、ひとりの人間として、女性として、わたしとして。藤谷くんの笑顔を見て、そう思えたの。嬉しかった。藤谷くん、ありがとう。
長くなってごめんなさい。
それでは体に気をつけて。夏風邪なんて引かないでください。わたしは藤谷くんにはずっと笑っていてほしいと思っています。わがまますぎるお願いですか?
なんて。
さようなら。本当に。
加納沙詠