第8話 女友達その後

文字数 1,604文字

 娘の女友達が亡くなった。まだ40才前だ。
 娘が彼女に最後に会ったのは、昨年のクリスマス前だった。娘の子ども達にプレゼントを持ってきてくれた。

 その時、異様だったという。
 太っていた。
 目が飛び出ていた。
 聞くと、健康診断の数値が悪かった。

 彼女は2度離婚して、もう男は懲り懲りだと聞いていたが同棲していた。
 誰もいない時に亡くなっていたらしい。
 地方にいる娘さんから電話が来たそうだ。

 娘は会いに行ってきた。


『材料集め』42話に投稿した女友達が亡くなりました。


✳︎

 娘が小学校高学年の時に、同じクラスになったカンナ。
 いろいろ話は聞いていた。姓はすでに2度変わっていた。日中は母親の彼氏が部屋に来ているので、カンナは千円渡され外に出される。
 夕方まで帰ってくるな、と。

 雨の日には滑り台の下で雨宿り。
 そのうち、寂しさからか、仲良くなった女友達とべったり。何人かいたらしい。
 その頃はまだ携帯電話はない。家に何度もかかってくる。親はカンナをよくは思わない。母親は近くの飲み屋のママ。自分たちよりかなり年配だ。
 カンナはひとりの少女を独り占めし、家に上がり込み、親に嫌われ友達を渡り歩いた。

 ついに私の娘と親しくなった。
 カンナは運動神経がいい。娘は体操教室に通っていた。カンナもあとから入った。あとから入ったのにすぐに娘を超えた。
 行き帰りは教室の送り迎えのバスで一緒。帰って来てからも電話責め。切れたと思うとまたすぐにかかってきた。私はイライラして娘を叱った。手紙も毎日もらってくる。小さく折ったものが箱にたくさん。

 家にもよく来た。外で遊んでカカトを切ってきた。私は応急処置をし、家に帰した。
 おかあさんに、病院に連れて行ってもらった方がいい、と。
 翌日カンナはまた遊びにきた。素足でカカトは切れたまま。病院へは行っていなかった。そのあと膿んだので、ようやく連れて行った。
 歯科検診では娘は褒められたが、カンナはすでに歯周炎だった。

 娘は様子がおかしくなっていった。髪型、服装がカンナと同じになる。家庭科で作るものもそっくり同じ。
 電話責め。出ないと家に来る。娘は具合が悪くなった。微熱が出る。
 学校を休んだ。不登校。
 私は担任に相談に行った。担任の対応が良かったのか、悪かったのか、カンナは今度は娘の悪口を言いだした。しかし離れて行った。
 娘も弱いだけではなかった。数日休み保健室登校。他の女子と遊ぶようになった。女子は言った。
 私もカンナは嫌い!

 そのことは尾を引いた。娘は皆とは違う中学へ。
 陸上部に入り頑張っていた。
 大会でカンナと再会した娘は、また時々会うようになった。娘も強くなっていた。

 カンナは17歳でママになった。近くに住んでいた。金髪のロングヘアーでベビーカーを押していた。
 引っ越しして行き、旦那のために尽くしているようだった。
 娘が高校を卒業してしばらくした頃、カンナは覚醒剤で捕まった。離婚し子どもは祖母が、飲み屋のママが引き取った。
 カンナはその後、また別の男との間に子ができて結婚した。しかし再犯。

 娘に連絡してきた。娘は拘置所に何度か面会に行った。やがて遠くの刑務所に。
 手紙がきた。私はかかわって欲しくはなかったが。
 刑務所を出たあともカンナは地方で暮らした。絶望して首を吊ったこともあるという。首が紫色に……
 そして地元に戻ってきた。
 娘は結婚していた。
 誕生日にはカンナからプレゼントが届く。真面目に働いているらしい。

 母親のことは大嫌いらしい。子どもを育ててもらったが。母親はカンナに金を無心する。
 その母親も亡くなった。もうひとりの子は父親が育てている。会わせてはもらえない。

 娘とは知り合って30年近く経っていた。

✳︎
 
 私は最初は同情したが関わりたくなかった。
 私がどうにかできるような少女ではなかった。
 小学生ですでに私以上の悲しみを経験していただろう。




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