第1話 目には目を
文字数 2,201文字
史上最悪と言われた少年犯罪も死刑にはならなかった。
当たり前だ。 少年犯罪で死刑にならないのは、少年法で定められている。
それに、死刑になる決め手は、計画的犯行であることと、ふたり以上の被害者。
世間がどんなに騒いでも、彼らはこの条件に満たないから、死刑にはならなかった。
女のアナウンサーは叫んだ。
「許せません。軽すぎます。少女が報われません」
昭和の終わりの、犯罪史上類をみない残虐な少年犯罪があったのは、比較的住んでいるところに近かった。
知らなければよかった。興味を持たなければよかった。
怒り心頭……はらわたが煮え繰り返り、脳みそまで沸騰した。
明け方、目が覚めてしまう。娘を持つ親だから余計に許せない。
許せない。許さない。
報復を。どうする?
本気で考えた。宝くじで大金が当たったら、殺し屋を雇って同じような目に合わせてやる。
去勢してやる……
週刊誌を買い、本名を控えた。
新聞にも投書した。採用されなかったが。
年月が過ぎ、出所した犯人のひとりが再犯事件を起こした。
主犯格もその後、再犯。
更生などしない。更生させないのは世間のせいか?
今でも思う。宝くじが当たったら……
✳︎
鬼畜と言われた少年達は、ある朝、消えた。忽然と。
少年たちはよその国の過去に来ていた。
なぜなら、日本にそれは伝わらなかったから。
中国や韓国は儒教の国で日本は仏教国だ。根本的に両国とは違う文化の上に成り立っている。
それは遊牧民族の習慣で、家畜が発情すると扱いにくくなるため、行うのが一般的だった。
ゆえに人に行うことにも抵抗がなかったようだ。
暗い部屋で、少年たちは泣き喚いた。
「ああ、あの報いなのだな」
少女の顔が浮かんだ。もう思い出せもしない。親達でさえ見分けがつかなかったほどに変わり果てた姿で見つかった。
少年たちは、順番に3人がかりで押さえつけられ、刃物で切りとられた。
すぐに切断部分に棒が差し込まれた。
その後、執刀者にかかえられて2〜3時間部屋を歩き回ってから横になって回復を待つのだが、手術後3日間は水を飲んではならず、大変な苦しみだった。
水を飲めば尿が排出されず、栓を抜けば切ったところの肉がもりあがり尿道を閉ざし、死に至る。
3日後、尿道の栓を抜いて噴水のように尿が出れば手術は成功であるが、死亡率は高い。
1番年下のZは死んだ。
生き延びたのは3人だ。
それからは宦官としての訓練が行われた。どんな時でも王様を守らねばならない。
重いものを背負い走る。
体力のないYは、辛さに耐えきれず首を吊った。
XとWは体格も良かったし知恵もあった。
年月が経ちふたりは出世していった。
Xは女官たちにモテた。
死んだ少女も最初Xを頼った。
「助けて。なぜ助けてくれなかったの?」
Xは側室にもかわいがられた。側室は王が滅多に訪れないので、寂しいのだ。王妃を陥れることばかり考えていた。
ある日、女官のひとりが妊娠し大騒ぎになった。女官は責められたが、相手の名も言わずに自害した。
女官の妊娠など、王宮ではありえないことだ。宦官たちが順番に機能を確かめられていく。
Xは逃げたが捕まり、再び去勢された。そして、足の腱を切られ王宮を追い出され死んだ。
主犯格だったWは王にも信頼され、部下にも慕われた。
弁護士が、家庭環境を理由に減刑を訴えた。環境が違えば、リーダーにもなれた男だったのに……と。
Wは人が変わったように王に尽くした。命の危険も顧みず王を守った。
自分の罪を償うかのように。
いや、手術によって性格に変化が生じたのかもしれない。
寛大になり、むごいことを好まず、女性や子どもに対しても愛情をもった。正直で慈悲深かった。
ついにWは宦官のトップになった。栄華も想いのまま。妻も娶れるし養子もとれる。
が、Wは貧しい者のためにすべて恵んだ。
王に尽くした。
王は聖君だった。世のために、民のために、Wは王に尽くした。
敬愛していた王が亡くなると、太子を聖君にするよう努めた。
太子も幼い頃から賢く、聖君になるとWに誓っていた。
誓いどおり貧民を救済して、多くの書籍を編纂し、外勢の侵略を阻んで城を築くなど、安定した政治を行った。
しかし、自分の母親が側室に陥れられ、死んでいったことを知ると、変貌した。
母親の死に関わった者たちを次々捕え、残虐に殺していった。
王は暗君になった。暴君になった。鬼畜になった。
諫言する功臣たちはことごとく残酷な刑罰で処刑した。
暗黒の時代。Wも何度も王をいさめ、怒りを買った。幼い頃は背におぶった優しかった方だ。
Wは王を諭した。
ついに疎まれ、拷問された。
思い出した。
自分がなにをしたか……
どんなに酷いことをしたか……
少女の顔が浮かんだ。
Wは詫びながら拷問に耐えた。
そして、またもや王を諭した。王はついに刀を振り上げた。
臣下たちの怒りが頂点に達した結果、宮廷クーデターによって王は失脚した。この時、王の側近、寵姫は反対勢力の手により斬首刑。また正妃は廃位され、残された王子たちは全て処刑され、更に残された王女たちは全て奴婢にされた。
✳︎
『材料集め』88話に事件のことを少し書きました。あとは韓国の歴史ドラマ『王とわたし』で宦官のことを調べたので、ずらずらコピペして、削って削りました。
投稿するの勇気がいりました。
当たり前だ。 少年犯罪で死刑にならないのは、少年法で定められている。
それに、死刑になる決め手は、計画的犯行であることと、ふたり以上の被害者。
世間がどんなに騒いでも、彼らはこの条件に満たないから、死刑にはならなかった。
女のアナウンサーは叫んだ。
「許せません。軽すぎます。少女が報われません」
昭和の終わりの、犯罪史上類をみない残虐な少年犯罪があったのは、比較的住んでいるところに近かった。
知らなければよかった。興味を持たなければよかった。
怒り心頭……はらわたが煮え繰り返り、脳みそまで沸騰した。
明け方、目が覚めてしまう。娘を持つ親だから余計に許せない。
許せない。許さない。
報復を。どうする?
本気で考えた。宝くじで大金が当たったら、殺し屋を雇って同じような目に合わせてやる。
去勢してやる……
週刊誌を買い、本名を控えた。
新聞にも投書した。採用されなかったが。
年月が過ぎ、出所した犯人のひとりが再犯事件を起こした。
主犯格もその後、再犯。
更生などしない。更生させないのは世間のせいか?
今でも思う。宝くじが当たったら……
✳︎
鬼畜と言われた少年達は、ある朝、消えた。忽然と。
少年たちはよその国の過去に来ていた。
なぜなら、日本にそれは伝わらなかったから。
中国や韓国は儒教の国で日本は仏教国だ。根本的に両国とは違う文化の上に成り立っている。
それは遊牧民族の習慣で、家畜が発情すると扱いにくくなるため、行うのが一般的だった。
ゆえに人に行うことにも抵抗がなかったようだ。
暗い部屋で、少年たちは泣き喚いた。
「ああ、あの報いなのだな」
少女の顔が浮かんだ。もう思い出せもしない。親達でさえ見分けがつかなかったほどに変わり果てた姿で見つかった。
少年たちは、順番に3人がかりで押さえつけられ、刃物で切りとられた。
すぐに切断部分に棒が差し込まれた。
その後、執刀者にかかえられて2〜3時間部屋を歩き回ってから横になって回復を待つのだが、手術後3日間は水を飲んではならず、大変な苦しみだった。
水を飲めば尿が排出されず、栓を抜けば切ったところの肉がもりあがり尿道を閉ざし、死に至る。
3日後、尿道の栓を抜いて噴水のように尿が出れば手術は成功であるが、死亡率は高い。
1番年下のZは死んだ。
生き延びたのは3人だ。
それからは宦官としての訓練が行われた。どんな時でも王様を守らねばならない。
重いものを背負い走る。
体力のないYは、辛さに耐えきれず首を吊った。
XとWは体格も良かったし知恵もあった。
年月が経ちふたりは出世していった。
Xは女官たちにモテた。
死んだ少女も最初Xを頼った。
「助けて。なぜ助けてくれなかったの?」
Xは側室にもかわいがられた。側室は王が滅多に訪れないので、寂しいのだ。王妃を陥れることばかり考えていた。
ある日、女官のひとりが妊娠し大騒ぎになった。女官は責められたが、相手の名も言わずに自害した。
女官の妊娠など、王宮ではありえないことだ。宦官たちが順番に機能を確かめられていく。
Xは逃げたが捕まり、再び去勢された。そして、足の腱を切られ王宮を追い出され死んだ。
主犯格だったWは王にも信頼され、部下にも慕われた。
弁護士が、家庭環境を理由に減刑を訴えた。環境が違えば、リーダーにもなれた男だったのに……と。
Wは人が変わったように王に尽くした。命の危険も顧みず王を守った。
自分の罪を償うかのように。
いや、手術によって性格に変化が生じたのかもしれない。
寛大になり、むごいことを好まず、女性や子どもに対しても愛情をもった。正直で慈悲深かった。
ついにWは宦官のトップになった。栄華も想いのまま。妻も娶れるし養子もとれる。
が、Wは貧しい者のためにすべて恵んだ。
王に尽くした。
王は聖君だった。世のために、民のために、Wは王に尽くした。
敬愛していた王が亡くなると、太子を聖君にするよう努めた。
太子も幼い頃から賢く、聖君になるとWに誓っていた。
誓いどおり貧民を救済して、多くの書籍を編纂し、外勢の侵略を阻んで城を築くなど、安定した政治を行った。
しかし、自分の母親が側室に陥れられ、死んでいったことを知ると、変貌した。
母親の死に関わった者たちを次々捕え、残虐に殺していった。
王は暗君になった。暴君になった。鬼畜になった。
諫言する功臣たちはことごとく残酷な刑罰で処刑した。
暗黒の時代。Wも何度も王をいさめ、怒りを買った。幼い頃は背におぶった優しかった方だ。
Wは王を諭した。
ついに疎まれ、拷問された。
思い出した。
自分がなにをしたか……
どんなに酷いことをしたか……
少女の顔が浮かんだ。
Wは詫びながら拷問に耐えた。
そして、またもや王を諭した。王はついに刀を振り上げた。
臣下たちの怒りが頂点に達した結果、宮廷クーデターによって王は失脚した。この時、王の側近、寵姫は反対勢力の手により斬首刑。また正妃は廃位され、残された王子たちは全て処刑され、更に残された王女たちは全て奴婢にされた。
✳︎
『材料集め』88話に事件のことを少し書きました。あとは韓国の歴史ドラマ『王とわたし』で宦官のことを調べたので、ずらずらコピペして、削って削りました。
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