8話・サイキック、その2から

文字数 976文字

 すると彼女は

「母が失踪しまして。今、何処に居るのか当てて欲しいのです」

 当てて?欲しい・・・。
普通は捜して欲しいの筈だが。
危ないな・・・。私は嫌な予感がした。
彼女の脈は、まるで不整脈の様にダンスを踊っていた。この人はいかれている?
そう感じたのだ。

「いつから、いなくなったのです?」

 私は手を離すと、メモを始めた。
彼女はいなくなった日を、まるで記録でもしているかの様に、スラスラと口にした。
そして最後に、

「と、警察には申し上げましたわ」

と終わらせた。
 私は確信した。
彼女が殺して埋めたに違いない!
まずい展開だ。私は格闘技が出来ない。
この手の輩は苦手だ。
まさか早苗に助けを求める訳にもいかないし。
 多分彼女は、隣でヨダレを垂らして寝ているだろう。ここで電話を掛ける訳にもいかない。
 どうする?裕二!と思って固まっていると。

「あなた、テレビで失踪した人の遺体を発見しましたね・・・」

 ニヤリと笑う彼女は、バッグから何かを取り出そうとした。その瞬間、

「殺人容疑で逮捕する!」

知り合いの警官、三宅が現れ彼女を拘束した。
助かった。早苗はヤカンを手に持って、入口の傍に居た。
良かった彼女が電話してくれたようだ。
 そうだった、今日は私が焼肉弁当を奢る日だった。もし別の日だったら・・・。
 やっぱり、メンタリストに戻ろう。


 サイキック・その3

 私の名は緑川太人。サイキックではない。
間違いなく私は普通の人間だサラリーマンだ。
 そう隣にいる、穀潰しの犯罪者のじっちゃんを除けば。家の家系は、まともなサラリーマンが多い普通なのだ。
 私はじっちゃんに言った。

「ねぇ、早く家に帰りなよ。ばっちゃんが心配しているよ」

 すると、じっちゃん酒を飲みながら。

「お前、まだワシが死んだと信じてないのか?」

「まったく〜、何言ってんだい!死んだふりして。税金納めないつもりだろ!まったく、
この人ばかりは」

「アホ!ワシはもう無職。年金貰っとるわい」

「ハッ、語るに落ちたな。年金貰ってる死人が一体、何処にいるんだよ!」

「だから〜、既に止まってるし〜」

「何だって?悪い事は出来ないね。まあ、帰りづらかったら、俺が話してやるよ」

じっちゃんは、それから1か月ほどして帰っていった。良かった、良かった。
 母から葉書が来た。
じっちゃんの49日の法要をするそうだ。
 一体、何処のじっちゃんだぁ?

 おしまい。
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