第5話
文字数 2,510文字
「私の時と違って、こうめちゃんの場合、お金は取られてないのよね?」
「うん」
「ただね、デート代を出し合うっていうのも、例えば婚約してて、結婚資金を貯めるためとかだったら分かるよ。彼、銀行員だから、なるべくお給料の口座から出金しないほうが良いものね」
そう、金融関係者の口座は、金利が一般の定期預金の比ではありません。但し、出金してしまうと再入金は出来ないものですから、なるべく引き出さないことが肝心。
「でも、これまで結婚のお話って、一度も出てないんだよね?」
「うん、ない」
「それ以上に、5年も付き合ってて、一度もお家に行ったことも、向こうの家族と会ったこともないっていうのが、どうしても変だよ」
私も、そこが一番引っかかっていた部分ではありました。
「これって、梨花さんなら、どういうことだと思う?」
「一般的に考えられることとしては、家族に会わせたくないか、自宅に呼びたくない理由がある、かな?」
「例えば?」
その理由を、二人であれこれ考えてみました。
① 私のほうが家に行く(家族に会う)ことを拒否していると思い、あえて誘わない。
② 家族が私と会うことを拒否している。
③ 家族と私が会うと、何か不都合がある。
④ 自宅が狭い・汚いなどの理由で、自分が呼びたくない。
⑤ ④の理由で、自宅に呼ぶことを、家族が拒否している。
⑥ 自宅自体(場所・建物・環境含め)に、人を呼べない何らかの理由がある。
大まかに、こんなところが上がり、さらに詳しく検証してみることに。
①に関しては、まずあり得ません。というのも、ずっと以前に、彼の実家が新築することになり、
「今は古くて狭い家だから、来てもらうことが出来ないけど、家が完成したら、一番に招待するから、遊びにきてよ」
「勿論! 楽しみにしてるね!」
しばらくして、お家が完成したと聞きましたが、
「まだ引っ越し荷物が片付かなくて、もう少し落ち着くまで待ってて」
何度かそういわれ、私も快く了承し、招待される日を待っていました。私のほうは、お声が掛ればいつでもお伺いする意思表示をしていましたが、あれから幾年月が経過、ここ数年は話題にすら出ることもなくなりました。
②に関しては、いろんな方向から、可能性が高いような気もします。
彼の家族とは、電話の取り次ぎで何度も言葉を交わしている顔なじみならぬ『声』なじみで、相手の声の判別も出来ました。
ですが、世間話や社交辞令的な会話はなく、『お待ちください』か『出掛けてます』、伝言を頼んだ際『分かりました』以外の言葉を交わしたことがありません。
彼から聞いていた家族構成では、母親は一人っ子の跡取り娘で、父親は婿養子。同居する母方の祖母も一人っ子の跡取り娘で、亡き祖父も婿養子だったそうです。更に、曽祖母もご健在で同居、おまけに未婚の妹が一人。
なので、彼は三代目ぶりに生まれた男の子で、女系家族の中、溺愛されて育ったのだと、なぜか自慢げに話してました。
そんな目に入れても痛くない大切な大切な長男を、どこの馬の骨とも知れない女に渡してなるものかと、家族一丸となって、私を拒否している可能性は考えられます。
ただ、一般的に考えた場合、大半の女性は、この条件で結婚には踏み切らない、ということ。
嫁姑の苦労を知らない『一人っ子の跡取り娘』が二代続く女系家族、舅姑を始め、大姑、大大姑、おまけに小姑まで付いてくるという、お嫁さんにとっては完全アウェイな、もっとも敬遠される最悪の条件ですから。
かなり強い気持ちがあるか、余程のメリットを確約されない限り、踏み切るのは無理。それでもお嫁に来てくれるという女性が、非常に非常に非常に貴重であることを、嫁姑の苦労を知らない跡取り娘には、分からないのが相場です。
③に関しては、家族から『馬の骨』扱いされた私に対し、酷く傷つける言動を取る可能性。
または、私を交際相手として家族に紹介できない別の理由がある可能性。例えば、私とは別に、すでに家族公認の女性がいて、私を家族に紹介することで、お互いの存在がバレる危険がある場合。
もっと別次元では、実は彼は超ド級のマザコンで、ママに逆らえないというケース。と言いますか、実はこれ、あながち外れてはいないというか、常々そうした兆候は感じてはおりました。
他には、会わせることを躊躇うような、変な家族がいる(変な習慣がある)可能性。
④⑤⑥に関していえば、⑤は一部②に含まれるとしても、新築したお家ですから、普通に考えれば建物的な問題はないはずです。
また、これも彼から聞いたお話ですが、実家は結構な資産家で、祖父も父も教育関係のお仕事をし、特にその分野では代々名士とされる家柄で、必然的に地位のある方々とのお付き合いも多いとのこと。
自宅を新築するに当たっても、相当な豪邸が建つようなことを言っていましたから、人を呼べないような建物ではないと考えるのが妥当です。
となると、建物に関して考えられることは、私に語ったような豪邸が存在しない、という可能性。訪ねた先が新築の豪邸ではなかったら『あら??』ということになりますので、呼びたくても呼べないという状況です。
「大体、考えられることとしては、このくらいかしらね。特に、どれか思い当たることってある?」
「それがね、どれも思い当たるような気がするんだ」
「どうする? 最悪、別れ話になることも覚悟出来るなら、一度、お家に遊びに行きたいって言ってみる? 今まで通り、何も知らん顔して付き合い続けるのも、こうめちゃんがそのほうが良いと思うなら、それもありだし」
「分からないけど、一度そう言ってみようかな。もし、拒否するようなら、やっぱり何かあるってことだから」
「大丈夫? 辛いことになるかも知れないよ?」
「うん、でも、いつかははっきりさせないといけない時が来るだろうし、やり直すなら早いほうが良いもん」
「そっか」
「もしそうなった時は、うんと慰めてくださいね」
「勿論! っていうか、思い過ごしであることを祈っているから」
「ありがと。頑張ります」
不安がないと言えば嘘になりますが、いずれは通る道だと思い、自分自身に言い聞かせたのでした。
「うん」
「ただね、デート代を出し合うっていうのも、例えば婚約してて、結婚資金を貯めるためとかだったら分かるよ。彼、銀行員だから、なるべくお給料の口座から出金しないほうが良いものね」
そう、金融関係者の口座は、金利が一般の定期預金の比ではありません。但し、出金してしまうと再入金は出来ないものですから、なるべく引き出さないことが肝心。
「でも、これまで結婚のお話って、一度も出てないんだよね?」
「うん、ない」
「それ以上に、5年も付き合ってて、一度もお家に行ったことも、向こうの家族と会ったこともないっていうのが、どうしても変だよ」
私も、そこが一番引っかかっていた部分ではありました。
「これって、梨花さんなら、どういうことだと思う?」
「一般的に考えられることとしては、家族に会わせたくないか、自宅に呼びたくない理由がある、かな?」
「例えば?」
その理由を、二人であれこれ考えてみました。
① 私のほうが家に行く(家族に会う)ことを拒否していると思い、あえて誘わない。
② 家族が私と会うことを拒否している。
③ 家族と私が会うと、何か不都合がある。
④ 自宅が狭い・汚いなどの理由で、自分が呼びたくない。
⑤ ④の理由で、自宅に呼ぶことを、家族が拒否している。
⑥ 自宅自体(場所・建物・環境含め)に、人を呼べない何らかの理由がある。
大まかに、こんなところが上がり、さらに詳しく検証してみることに。
①に関しては、まずあり得ません。というのも、ずっと以前に、彼の実家が新築することになり、
「今は古くて狭い家だから、来てもらうことが出来ないけど、家が完成したら、一番に招待するから、遊びにきてよ」
「勿論! 楽しみにしてるね!」
しばらくして、お家が完成したと聞きましたが、
「まだ引っ越し荷物が片付かなくて、もう少し落ち着くまで待ってて」
何度かそういわれ、私も快く了承し、招待される日を待っていました。私のほうは、お声が掛ればいつでもお伺いする意思表示をしていましたが、あれから幾年月が経過、ここ数年は話題にすら出ることもなくなりました。
②に関しては、いろんな方向から、可能性が高いような気もします。
彼の家族とは、電話の取り次ぎで何度も言葉を交わしている顔なじみならぬ『声』なじみで、相手の声の判別も出来ました。
ですが、世間話や社交辞令的な会話はなく、『お待ちください』か『出掛けてます』、伝言を頼んだ際『分かりました』以外の言葉を交わしたことがありません。
彼から聞いていた家族構成では、母親は一人っ子の跡取り娘で、父親は婿養子。同居する母方の祖母も一人っ子の跡取り娘で、亡き祖父も婿養子だったそうです。更に、曽祖母もご健在で同居、おまけに未婚の妹が一人。
なので、彼は三代目ぶりに生まれた男の子で、女系家族の中、溺愛されて育ったのだと、なぜか自慢げに話してました。
そんな目に入れても痛くない大切な大切な長男を、どこの馬の骨とも知れない女に渡してなるものかと、家族一丸となって、私を拒否している可能性は考えられます。
ただ、一般的に考えた場合、大半の女性は、この条件で結婚には踏み切らない、ということ。
嫁姑の苦労を知らない『一人っ子の跡取り娘』が二代続く女系家族、舅姑を始め、大姑、大大姑、おまけに小姑まで付いてくるという、お嫁さんにとっては完全アウェイな、もっとも敬遠される最悪の条件ですから。
かなり強い気持ちがあるか、余程のメリットを確約されない限り、踏み切るのは無理。それでもお嫁に来てくれるという女性が、非常に非常に非常に貴重であることを、嫁姑の苦労を知らない跡取り娘には、分からないのが相場です。
③に関しては、家族から『馬の骨』扱いされた私に対し、酷く傷つける言動を取る可能性。
または、私を交際相手として家族に紹介できない別の理由がある可能性。例えば、私とは別に、すでに家族公認の女性がいて、私を家族に紹介することで、お互いの存在がバレる危険がある場合。
もっと別次元では、実は彼は超ド級のマザコンで、ママに逆らえないというケース。と言いますか、実はこれ、あながち外れてはいないというか、常々そうした兆候は感じてはおりました。
他には、会わせることを躊躇うような、変な家族がいる(変な習慣がある)可能性。
④⑤⑥に関していえば、⑤は一部②に含まれるとしても、新築したお家ですから、普通に考えれば建物的な問題はないはずです。
また、これも彼から聞いたお話ですが、実家は結構な資産家で、祖父も父も教育関係のお仕事をし、特にその分野では代々名士とされる家柄で、必然的に地位のある方々とのお付き合いも多いとのこと。
自宅を新築するに当たっても、相当な豪邸が建つようなことを言っていましたから、人を呼べないような建物ではないと考えるのが妥当です。
となると、建物に関して考えられることは、私に語ったような豪邸が存在しない、という可能性。訪ねた先が新築の豪邸ではなかったら『あら??』ということになりますので、呼びたくても呼べないという状況です。
「大体、考えられることとしては、このくらいかしらね。特に、どれか思い当たることってある?」
「それがね、どれも思い当たるような気がするんだ」
「どうする? 最悪、別れ話になることも覚悟出来るなら、一度、お家に遊びに行きたいって言ってみる? 今まで通り、何も知らん顔して付き合い続けるのも、こうめちゃんがそのほうが良いと思うなら、それもありだし」
「分からないけど、一度そう言ってみようかな。もし、拒否するようなら、やっぱり何かあるってことだから」
「大丈夫? 辛いことになるかも知れないよ?」
「うん、でも、いつかははっきりさせないといけない時が来るだろうし、やり直すなら早いほうが良いもん」
「そっか」
「もしそうなった時は、うんと慰めてくださいね」
「勿論! っていうか、思い過ごしであることを祈っているから」
「ありがと。頑張ります」
不安がないと言えば嘘になりますが、いずれは通る道だと思い、自分自身に言い聞かせたのでした。