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文字数 1,620文字
「――それがお前の答えだな、タツヤ」
「……お父様、」
薄く笑みを浮かべた彼が、問いかけながらこちらへ向かってきた。その斜め後ろにはオハラの姿もいた。俺の横にいる神崎玲を見て「久しぶりだね、お嬢さん」と挨拶をすると、彼女は曖昧に首を動かした。どう反応したらいいのか分からなかったのだろう。
「……何故、わざわざこちらへ来たんです? 一昨日みたく、オハラを通じてやり取りすれば良かったのでは」
「まぁ、それは後で分かるさ。取り敢えず、試験の件だけ先に済まそう。……あぁ、お嬢さん。これは聞きたければ聞いていても構わんから、好きになさい」
そう言われた彼女は、聞くことを選択したというよりも、その場から動けなかったために聞くことになったといった様子で、その場で立ち竦んでいた。
「タツヤ。結果は……もう分かっているな」
「勿論です。……対象を死に導けなかったため、失格。死神の権利は金輪際剥奪……ですね。もう覚悟はできています」
「その通りだ。オハラ、やってくれ」
「――かしこまりました」
彼の奥にいたオハラが、真っ直ぐ目の前に向かってきた。そして俺を見るなり、寂しそうに笑って言った。
「……ご自分なりの答えを、無事に見つけられたようですね。最後にそれだけでも見届けられて、私は安心いたしました」
「オハラ……ありがとうな」
「とんでもございません。では……大変心苦しいのですが、手続きさせていただきますね」
彼は俺の額の直線上に手を翳し、小声で何かを呟いた。すると、瞬時に眩い光が周囲を覆った。あまりの眩しさに目を閉じたが、それは一瞬で終わったようだった。
「……ん?」
通常、死神の権利が剥奪されれば、もう死神の姿は見えなくなるはずだった。しかし、目を開けると王の姿もオハラの姿も、先程と変わらずに認識できるのだ。何か手続きのミスがあったのだろうか、と思い、試しに「気」を出してみようとしたが、それは全くできそうになかった。どうやら、権利の剥奪自体は成功しているらしい。
「オハラ、これはどういうことだ? 今ので手続きは済んだはずだろう。それなのに、何故二人の姿が今も……?」
「あぁ、それは私が命じたのだよ。視認能力だけは残しておいてくれ、とな」
王の言葉に、横でオハラも首肯する。
「何故そんなことを? 視認能力を残したところで、もう死神界と接することはなくなるはずでは……」
「まぁ、そうだな。ただ、取り敢えずは私の話を聞いてくれるか。……あぁ、ここからはお嬢さんも一緒に聞いてほしいことなんだが」
「えっ、私もですか……?」
「そうだ。君にも関係することだからな」
展開に困惑している彼女をよそに、目を閉じて頷いた彼の瞳が、ゆっくりと開かれた。
「タツヤ、まず質問だ。お前の母親は、どうして今はいない?」
「えっ? それは……ずっと前に、亡くなったと聞いていますが」
「その『亡くなった』原因は知っているか?」
「いえ、詳しいことはお父様からも、他の誰からも一切聞いていないので、病死だと思っていましたが……」
「本当のことを言おう。ミワは『殺された』のだ」
そして彼は、スッと視線を向けて言い放った。
「――彼女の、実の両親によってな」
その視線の先にいるのは……勿論、神崎玲しかいない。
「……はっ!?」
「……!!」
彼女は声こそ出さなかったものの、俺と同じように驚いた表情を見せた。
「そんな……あの人たちのせいで、あなたたちの母親が……?」
「あぁ、お嬢さん。この事実を伝えたことで追い詰めてしまったのなら申し訳ない。だが私はお嬢さんに責任があるとは一切思っていないし、悪いのはあなたの両親だ。そこは分かっているし、今から話す内容もどうか気に負わないで聞いてほしい。いいかね?」
「…………はい」
未だに動揺を隠せずにいた彼女だったが、少々時間をかけて首肯した。それを確認した彼は一度薄く息を吐いた。そしてまた、言葉を発す。
「少々長くなるかもしれないが、最後まで聞いてくれ」
「……お父様、」
薄く笑みを浮かべた彼が、問いかけながらこちらへ向かってきた。その斜め後ろにはオハラの姿もいた。俺の横にいる神崎玲を見て「久しぶりだね、お嬢さん」と挨拶をすると、彼女は曖昧に首を動かした。どう反応したらいいのか分からなかったのだろう。
「……何故、わざわざこちらへ来たんです? 一昨日みたく、オハラを通じてやり取りすれば良かったのでは」
「まぁ、それは後で分かるさ。取り敢えず、試験の件だけ先に済まそう。……あぁ、お嬢さん。これは聞きたければ聞いていても構わんから、好きになさい」
そう言われた彼女は、聞くことを選択したというよりも、その場から動けなかったために聞くことになったといった様子で、その場で立ち竦んでいた。
「タツヤ。結果は……もう分かっているな」
「勿論です。……対象を死に導けなかったため、失格。死神の権利は金輪際剥奪……ですね。もう覚悟はできています」
「その通りだ。オハラ、やってくれ」
「――かしこまりました」
彼の奥にいたオハラが、真っ直ぐ目の前に向かってきた。そして俺を見るなり、寂しそうに笑って言った。
「……ご自分なりの答えを、無事に見つけられたようですね。最後にそれだけでも見届けられて、私は安心いたしました」
「オハラ……ありがとうな」
「とんでもございません。では……大変心苦しいのですが、手続きさせていただきますね」
彼は俺の額の直線上に手を翳し、小声で何かを呟いた。すると、瞬時に眩い光が周囲を覆った。あまりの眩しさに目を閉じたが、それは一瞬で終わったようだった。
「……ん?」
通常、死神の権利が剥奪されれば、もう死神の姿は見えなくなるはずだった。しかし、目を開けると王の姿もオハラの姿も、先程と変わらずに認識できるのだ。何か手続きのミスがあったのだろうか、と思い、試しに「気」を出してみようとしたが、それは全くできそうになかった。どうやら、権利の剥奪自体は成功しているらしい。
「オハラ、これはどういうことだ? 今ので手続きは済んだはずだろう。それなのに、何故二人の姿が今も……?」
「あぁ、それは私が命じたのだよ。視認能力だけは残しておいてくれ、とな」
王の言葉に、横でオハラも首肯する。
「何故そんなことを? 視認能力を残したところで、もう死神界と接することはなくなるはずでは……」
「まぁ、そうだな。ただ、取り敢えずは私の話を聞いてくれるか。……あぁ、ここからはお嬢さんも一緒に聞いてほしいことなんだが」
「えっ、私もですか……?」
「そうだ。君にも関係することだからな」
展開に困惑している彼女をよそに、目を閉じて頷いた彼の瞳が、ゆっくりと開かれた。
「タツヤ、まず質問だ。お前の母親は、どうして今はいない?」
「えっ? それは……ずっと前に、亡くなったと聞いていますが」
「その『亡くなった』原因は知っているか?」
「いえ、詳しいことはお父様からも、他の誰からも一切聞いていないので、病死だと思っていましたが……」
「本当のことを言おう。ミワは『殺された』のだ」
そして彼は、スッと視線を向けて言い放った。
「――彼女の、実の両親によってな」
その視線の先にいるのは……勿論、神崎玲しかいない。
「……はっ!?」
「……!!」
彼女は声こそ出さなかったものの、俺と同じように驚いた表情を見せた。
「そんな……あの人たちのせいで、あなたたちの母親が……?」
「あぁ、お嬢さん。この事実を伝えたことで追い詰めてしまったのなら申し訳ない。だが私はお嬢さんに責任があるとは一切思っていないし、悪いのはあなたの両親だ。そこは分かっているし、今から話す内容もどうか気に負わないで聞いてほしい。いいかね?」
「…………はい」
未だに動揺を隠せずにいた彼女だったが、少々時間をかけて首肯した。それを確認した彼は一度薄く息を吐いた。そしてまた、言葉を発す。
「少々長くなるかもしれないが、最後まで聞いてくれ」