第45話 自分には何もない

文字数 827文字

それからどれくらい時間が経っただろうか。
時計塔の時報が鳴った。
公園に来てから、まだ1時間も経っていなかった。
誠一は今まで時間を持て余したことはなかったことがどんなに幸せなことか気づいた。

スマホが鳴った。
無意識の習慣というのは不思議なものだ。
誠一は自分がスマホを持ったことを覚えていなかった。
幸恵からだった。
そして幸恵からの着信が並んでいた。
誠一は嫌な予感がした。
幸恵に連絡を返しても出ることはなかった。

そういえば祥子はどこへ行ったのだろうか。
誠一は横山のところへ行ったのだと勝手に決めつけていたが本当にそうなのだろうか。
幸恵のところに行ったのだとしたら、こんなに誠一に着信があるのだろうか。
誠一はますます嫌な予感しかなかった。
誠一は幸恵からの連絡を待つしかないような気がした。
でも待っていられなかった。
誠一はもう一度幸恵に連絡をした。
何度も何度も。
でも幸恵は電話に出なかった。

そしてついに誠一は祥子に連絡をした。
しばらく着信が鳴った後、誰かが電話に出て、しばらくして切れた。
もはや誠一はどうすればいいか分からなかった。
ベンチに座り頭を抱え、立ち上がるを繰り返した。
誠一の前にまた猫が現れた。
さっきとは違う猫だった。
そういえばさっきの猫はどこに行ったのだろうか。
誠一はいまさらながら、そんなことを考えた。
みんな自分の目の前からいなくなってしまう。
そして誠一はただそれを悔やむことしかしなかった。
自分にできることはあったのだろうか。
誠一はさっきと同じことを考えていた。
誠一は時計塔を見た。
時計はまだあれから30分しか経っていないことを示していた。
孤独。
誠一は孤独だと思った。

そして誠一はゆっくりベンチに腰を下ろし、もう立ち上がることはなかった。
自分には何もない。
誠一は今更ながらあることに気がついた。
失うものが何もないのが強みだ。
誠一は立ち上がり、横山に連絡をした。

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