第14話 終わっている男

文字数 1,268文字

誠一は横山に心の内をすべて曝け出したかった。
でも8時まであと10分しかない。

「もうそろそろだな」

誠一が言うと、横山は「別の日に変えてもらった」とあっさり答えた。
それが本当かどうかは分からない。
ただ誠一はそれで横山に全て話すことに決めた。
誠一は酒を飲んでいたが、酔ってはいなかった。
だからうまく伝えられなかったとしたら、それは横山が酔っていたからか、誠一が伝えるのが下手だったかのどちらかしかなかった。
祥子が離婚を考えていることを知ってしまったこと、ハジメとしてメールで祥子とやりとりしたこと、最近、祥子に問い詰められたこと等、祥子との不調和で思い当たることは全て話した。
一通り、誠一が話すと、横山は神妙な顔つきで誠一を見た。

「まだ終わったわけじゃない」

誠一は何を言われているかすぐには分からなかった。
横山曰く、まだハジメは終わっていないというのだった。
誠一は終わっているとでもいいたいのか。
分かっているような口の利き方をする。
誠一は横山の言うことを真に受けていなかった。
祥子のことはよく知っている。
少なくとも、横山よりは知っているはずだった。
納得はしていなかったが、どういうことか話は聞こうとは思った。

まず横山が言うところによれば、今の誠一が当時の横山と瓜二つなのだそうだ。
横山からしてみれば、誠一が今どんな状態で、どんな顔して、ご飯を食べているかさえも想像できてしまうというのだ。
それを聞いた誠一は呆れていた。
馬鹿にするのもいい加減にしろ。
そう心の中では思っていたが、口には出さなかった。
横山が言うことを全く信じていなかったが言わせておいた。
信じていなかったが、横山が何を言うか少しは興味があったからだ。
ある意味、この男は結末を迎えてしまったのだ。
話を聞いてやるだけの価値はあると思った。

「ただ考えがある」

どうせ大したこと言わないとは思っていたが、一応最後まで話は聞こうと思った。
誠一は腕時計を見た。
時間は8時半になっていた。

「ハジメを会わせてみないか?」

話が唐突過ぎて、何を言われているかすぐには分からなかった。
横山は、ハジメを祥子に会わせてみようと提案しているのだった。
横山が言うには、ハジメには希望があると言った。
ハジメを通じて、祥子との仲を深め、祥子のことを知り、最後にハジメは実は誠一だったと言えばいいというのだ。
祥子にとって幻滅されてしまっている誠一にはできないが、ハジメであれば、まだ可能性はあるとのこと。
でもどうやって?

横山は横山がハジメを演じると言った。
誠一は反対だった。
横山は何を考えているのか分からなかった。
それをする横山のメリットは何なんだ?
誠一が黙っていると、横山は聞いてもいないのに答えた。

「他人事のように思えないんだ」

横山は、誠一のことをじっと見つめた。
誠一は横山から、目を逸らした。
この男は急に慈善活動でも始める気にでもなったのだろうか。
誠一はこの時点では、まだ反対だったのだ。

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