第1話 好きって何だ?

文字数 824文字

「夫との離婚を考えています」

私はひょんなことから妻のブログを見つけてしまった。

「夫のあらゆることが許せません」

思っていた以上に早く退社し帰ってきた日、妻はトイレに入っており、パソコンがそのまま開かれたままだったのだ。
普通ならロックがかかり見られないはずだが、パソコンのロックがかかっていない状態でそのまま開かれていた。
妻は私がパソコンを盗み見たことに気づいただろうか。
スマートに私を出迎え、何食わぬ顔でパソコンを片付けた。
もしかしたら何かの思い違いかもしれない。
その時はそう思い直した。

数日後、念のため、妻のブログを検索してみた。

「危なかった。もしかしたら気づかれたかもしれない。思っていた以上に早く帰って来て本当に驚いた」

それが綴られていたのが、あの日だった。
これは夢じゃない。


子どもは娘1人だった。
その娘が離れ、妻と二人暮らしになってからもうすぐ10年は経とうとしている。
大学で上京した娘は今年32歳になる。
28歳で結婚し、もう子どももいる。
妻とは仲は悪くないと思っていた。
必要以上に喋ることはないが、それが自然なことだとも思っていた。

「コメント:大丈夫。旦那は何も気づいていない。今までだってそうだったでしょう?」

誰だ?
私の頭に浮かんだ疑問を解決するかのように、私はそのコメントした相手を探していた。

「もう好きじゃない」

妻のそんな言葉を見つけてしまった。
何かが崩れた。
自分が思っていた現実とは違う。
自分が今まで当然のように築き上げてきたと思っていたものが一気になくなってしまう感じだ。

好きじゃない?
好きって何だ?

誠一ももはや好きとかそういうふうに妻のことを思っていなかった。
ただ信じていたのだ。

自分の思考に沈黙が流れた。
その時、誠一はあることに気づいてしまった。
自分は妻の名前をいつ呼んだのだろうか。
それはもう覚えていないくらい前のことだった。
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