第5話 知っている顔
文字数 1,027文字
今日は傘を持ってきていなかった。
天気予報では曇りだと言っていたのに、帰ろうと思った時にちょうど雨が降り始めたのだ。
会社は駅直通のため傘はいらなかった。
しょうがないから駅から家まではタクシーで帰ることにした。
今日は予定よりも早く仕事が終わった。
それに加えてタクシーで家まで向かったため、だいぶ早く家に着く予定だった。
だから家に帰って映画の一本でも見ようと思っていたのだ。
その時だった。
男が誠一の家の玄関から出てきた。
声を掛けようと思ったができなかった。
誠一は思わず隠れたが、その男に見つかってしまった。
それは偶然にも知っている顔だった。
誠一はすぐには思い出せなかった。
誠一よりも先にその男が思い出したようだった。
「お世話になっております」
その男は、さも誠一が覚えているのが当然だと思っているようだった。
「実は副業で化粧品の販売もやっているんです。いずれはこっちを本業にしたくて。会社には言わないでおいていただけますか?」
いかにも隠れていたような誠一の佇まいは恥ずかしかったが、その男は気にしていないようだった。
家に帰ると祥子がいた。
すっかり雨に濡れている誠一に祥子は話しかけた。
「タクシー使って帰ってくればよかったのに」
「ああ」
久しぶりに会話ができた。
誠一は密かに感動していた。
祥子はあの男からもらったパンフレットと名刺を持っていた。
それを無造作に玄関の適当な場所に置いた。
あまり興味はないのかもしれない。
誠一は名刺を見た。
名前は横山啓太だった。
誠一は名刺をポケットに入れた。
「私はコーヒーを飲むのが好きです。好きなカフェでコーヒーを飲みながら、小説を読んでいる時が一番幸せです」
もはや祥子はハジメに心を許し、自分の好きなことさえ、普通に教えてくれるようになっていた。
誠一はやはり複雑ではあったが、嬉しかった。
「実は私もコーヒーもカフェも小説も好きです。もしよろしければ今度・・・」
デリート。
誠一は時々自分がハジメではないことを忘れてしまうことがあった。
「実は私もコーヒーもカフェも小説も好きです。私たち、気が合いますね」
なんか違う。
デリート。
「実は私もコーヒーもカフェも小説も好きです。どこかいいカフェご存知ですか?」
誠一は送ろうかどうか迷っていたが送信ボタンを押した。
誠一はポケットから名刺を取り出し、机の引き出しの中に入れた。
天気予報では曇りだと言っていたのに、帰ろうと思った時にちょうど雨が降り始めたのだ。
会社は駅直通のため傘はいらなかった。
しょうがないから駅から家まではタクシーで帰ることにした。
今日は予定よりも早く仕事が終わった。
それに加えてタクシーで家まで向かったため、だいぶ早く家に着く予定だった。
だから家に帰って映画の一本でも見ようと思っていたのだ。
その時だった。
男が誠一の家の玄関から出てきた。
声を掛けようと思ったができなかった。
誠一は思わず隠れたが、その男に見つかってしまった。
それは偶然にも知っている顔だった。
誠一はすぐには思い出せなかった。
誠一よりも先にその男が思い出したようだった。
「お世話になっております」
その男は、さも誠一が覚えているのが当然だと思っているようだった。
「実は副業で化粧品の販売もやっているんです。いずれはこっちを本業にしたくて。会社には言わないでおいていただけますか?」
いかにも隠れていたような誠一の佇まいは恥ずかしかったが、その男は気にしていないようだった。
家に帰ると祥子がいた。
すっかり雨に濡れている誠一に祥子は話しかけた。
「タクシー使って帰ってくればよかったのに」
「ああ」
久しぶりに会話ができた。
誠一は密かに感動していた。
祥子はあの男からもらったパンフレットと名刺を持っていた。
それを無造作に玄関の適当な場所に置いた。
あまり興味はないのかもしれない。
誠一は名刺を見た。
名前は横山啓太だった。
誠一は名刺をポケットに入れた。
「私はコーヒーを飲むのが好きです。好きなカフェでコーヒーを飲みながら、小説を読んでいる時が一番幸せです」
もはや祥子はハジメに心を許し、自分の好きなことさえ、普通に教えてくれるようになっていた。
誠一はやはり複雑ではあったが、嬉しかった。
「実は私もコーヒーもカフェも小説も好きです。もしよろしければ今度・・・」
デリート。
誠一は時々自分がハジメではないことを忘れてしまうことがあった。
「実は私もコーヒーもカフェも小説も好きです。私たち、気が合いますね」
なんか違う。
デリート。
「実は私もコーヒーもカフェも小説も好きです。どこかいいカフェご存知ですか?」
誠一は送ろうかどうか迷っていたが送信ボタンを押した。
誠一はポケットから名刺を取り出し、机の引き出しの中に入れた。