第19話 同じ質問

文字数 974文字

横山の話では、幸恵は祥子の付き添いで、サチは祥子だということだった。
誠一はそう話されてもまだ信じていなかった。
何かある。
その核心はなかったが、誠一はそう思っていた。

自宅では、いつもと変わらないように見える祥子がいた。
しかし誠一はいつものように祥子を感じられなかった。
そこにいる祥子に、まったく誠一の知らない別の人物であるかのような違和を感じていた。
それは横山が話したことが関係していることは明らかだった。

「幸恵は元気にしているのか?」

誠一は思ってもないことを祥子に聞いた。

「そうね」

祥子はいつものようにただ答えていた。
誠一はやはりいつも通りの祥子を見て、もうそれ以上何も聞くことはないと思った。

「風呂」

誠一はその場から逃げたのではない。
ただこれ以上もう話すことなんて何もなかっただけだ。
そう自分に言い聞かせていた。

誠一はこれ以上サチに連絡をするつもりはなかった。
でもやはり納得ができなかったのだ。
横山は信用できないと思っていた。

「今日はありがとうございました。表参道にも絵本専門店があるのですがまたご一緒にいかがでしょうか? もしよろしければ今度は二人で」

誠一はさすがに強引すぎるとは思った。
でも他に方法はないと思ったのだ。
誠一はどうしてもサチが祥子だと思えなかった。
というよりも信じたくなかった。
しかしその誠一の願いは叶わなかった。

その待ち合わせ場所に来たのは祥子だった。
誠一は待ち合わせ場所にはかなり前に訪れていた。
しかし、なかなか祥子に会うことはできなかった。
待ち合わせの時間が過ぎても祥子は待っていた。
誠一は自分が待たせているとことは知っていたが、これ以上祥子をそこで待たせたくなかった。
仕方なしに、偶然を装い、誠一は祥子と会うことにした。
ぎこちない誠一に祥子はどう思っただろうか。
でもそれでも誠一は祥子をこれ以上待たせられなかったのだ。
誠一は祥子に不自然に挨拶した後、またこう聞いていた。

「幸恵は元気にしているのか?」

それは誠一にとっては大した質問ではなかった。
むしろ勝手に出てくる言葉のような自然なものだった。
でも祥子はこの質問をされる度に何を思っていたのだろうか。
誠一は自分のことでいっぱいでそこまで考えられなかったのである。

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