第10話 出発

文字数 1,045文字

 数日後、痛むみぞおちをさすりながら、S氏は惑星Xからの報告を受けた。見たこともない宇宙船が惑星Xに出現したという。綿密な調査で、C国が打ち上げたものではないことも確実だった。現地からの映像を確認する。古臭いSF映画に出て来そうな円盤型のそれは、確かに空中に浮かび上がっている。釣り下げ型の室内灯のような形をしたアダムスキー型UFOといわれるものにそっくりだった。
 目を疑うS氏達に気付いているのか、その円盤から信号が発せられる。数分遅れで地球に届いている信号は、地球のあらゆる言語に対応できる翻訳AIでは対処できなかった。皆が頭を抱えたその時、あるスタッフが叫んだ。「これは、古代の言語だ!」
 かつて古代史を専攻し、オカルト文化に憧れ宇宙を目指したそのスタッフがいう。UFOのような壁画を残して消え去った古代文明がある。近年はその暗号のような文字も解読され、一部は表音文字だと考えられるようになっている。あのUFOが発する音の配列は、それに近いのではないか、と。

 科学技術の進歩の陰に隠れていた古代史や言語の専門家たちが集められ、解読と交信を試みた。惑星Xからの通信は怒りに満ちていた。彼らの棲み処である惑星Xに地球人が入ってくることに。地球の廃棄物を処理するのは簡単だが、そんなことを請け負う義務はないのだと主張している。いつでも地球には戻れるし、攻撃も容易だと言っているようだ。

「戻れる?」現場から離れていたS氏が気付いた。「誤訳じゃないのか?」
 通訳係に連絡をとり、彼らがUFOに問いただす。千年以上前に地球を脱出し、この星を見つけ移住したのだと説明を受けた。つまり彼らは、地球人の子孫だったのだ。

 地球は大パニックに陥っていた。A国とC国で争い、分断がより進んでいる間に、偉大なる外敵を呼び起こしてしまったのだ。もはや、同じ地球で争っている場合ではない。彼らを覚醒させたのは、A国でもC国でもなく、地球に残った全人類なのだった。
 A国では急遽、C国との関係修復を検討する。あの映像は、C国でも視聴できたはずであり、C国も同じ気持ちだろう。情報漏洩について責任を問われ取り調べ室で生活していたS氏だったが、その紫のスーツの男との再接触を図るように当局から依頼されるに至った。

 痛むみぞおちを抑えながら、S氏は自宅に戻れることになった。数日振りの自宅前だ。やはりここが落ち着く。ふと木陰から長身の男が顔を出す。スーツは紫。

 ここから、地球人が一丸となる時代が、ようやく始まるのだった。
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