第8話 決別

文字数 633文字

 S氏は当然、A国側の人間である。これまで以上にC国との関わりを絶ち、情報漏洩に細心の注意を払う必要が生じている。地球上では表向き、この二陣営は分断されているかにみえる。が、深く関わり合っているのも暗黙の了解であった。お互いの富裕層が相手側に資産を保有していたという事実。国家そのものがお互いの国債を保有し合っていた現実。個人レベルでも同じ構造をみてとることは簡単だ。一つの工業製品、口にする食料。その多くが実はお互いに融通しあっているものだった。最終ブランドの名前がAなのか、Cなのか。そこだけの問題であったはずが惑星Xに関わりだし、新たな資源を目にした途端に取り返しのつかない分断が生じてしまった。

 A国内でも目立つポストに就いたS氏は身の回りにあるC国関連製品をどうしても拒否せざるを得なくなった。日用品や食肉を割高なA国陣営の品に替えていくとともに、産地不明のものを洗い出す。そして、疑問が生じてしまった。あの薬の出所は、どこだ?
 薬の残数から考えると、紫のスーツの男はおそらく、一週間以内にS氏の元を訪れるであろう。しかし彼に直接聞いても答えてくれるとは思えなかった。そのことで薬が入手できなくなるのも望ましくない。そこでS氏はツテを頼って、薬の分析をその道の権威に依頼した。それが明らかになることは即ち、S氏自身の病名が判明する可能性を持つ。そのためS氏は恐れ、先延ばしにしていたのだが、万一C国産の薬であればそれをA国産に置き換える必要があると考えた。
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