第1話 発見

文字数 1,007文字

「おい、この波形と軌道は……」
「間違いない。惑星だっ!」 
 世紀の大発見だった。地球と全く同じ公転軌道上に、もう一つ惑星が存在する。ちょうど地球とは太陽を挟んで正反対に位置するため、これまで見つけられることはなかったのだ。その惑星を惑星Xと名付け、報告した。
 宇宙開発局観測課のS主任はこの新発見で時の人となった。知人たちからの祝福、世界中のメディアからの取材、多くの企業や団体からの商談。これまで趣味と実益を兼ねてのんびりと宇宙観測を行ってきたS主任だから、この忙しさは彼の体調を崩すのに十分だった。
「ふう、なんだかみぞおちの辺りに違和感があるなあ」
 ようやく取れた休日、自宅マンションのベランダでS主任は自身の心窩部をさする。その時、右腕に装着したAI内蔵ウオッチが赤く点滅した。
「精密検査を受けてください。胃、あるいはその近辺に異常があります」
 無機質な母語が聞こえてくる。S主任は目を閉じたまま考えていた。
「そうかもしれないが、この忙しさでは……。全てを仕切ることのできる部下もまだ育っていないし」
 自身の興味のまま観測と研究に没頭し、次世代の教育に注力しなかったことを悔やみつつ、検査はもう少し後にしようと決めた。
 数日後の昼時だった。みぞおちがキリキリと痛み出した。ああ、これは今までで一番ひどいかもしれない。そう感じたS主任は、医務室にあった胃薬を服用した。医務室と名前はついているが常駐する医師はいない。ただ誰がどの薬を使用したかは自動的に記録される。そのデータは年次の職員検診の際にまとめられ、産業医に報告される。もちろん常時の監視も行われているので、置き薬の使用頻度によっては検診を待たずに介入が入る仕組みだ。S主任は科学者の端くれと自任しているが、自分の体のことに関してはやはり無頓着になってしまう。何度も胃薬を医務室から持ち出すと、仕事を止められてしまうかもしれない。だから耐えられる痛みの時は我慢した方がよいだろうな、と思っていた。
 なんとか帰宅したS主任を、マンションの前で待ち構える男がいた。長身で紫色のスーツを着ている。そしてサングラスだ。大変目立つ。自宅で仕事の交渉をすることは労働規約に反するため避けなければならない。だからお引き取り願いたいと伝えるつもりだった。が、頭上からその男が言う。「Sさん、貴方の痛み、すぐに取り除いてあげられますよ。ただし、理由を聞いてはいけません」
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