第4話 発表

文字数 782文字

 地球上においてA国に対抗する勢力の中心であるC国からの発表だった。C国は翌月に惑星Xへの有人探査船を打ち上げるという。全行程で六か月を超す長期プロジェクトの、あまりにも詳細で綿密な内容に、S主任は度肝を抜かれる思いだった。しかも、非の打ちどころがほとんどない。これ程のものを、これまで惑星Xに関してはなりを潜めていたC国が立ち上げる。一体C国は、どうやって……と思いあぐねていると、やはり湧き起らざるを得ない。C国のスパイがA国航空宇宙局には存在するのだ。有能な研究者をA国に多数送り込むC国だが、国家利益を鑑み航空宇宙局は帰化希望者しか就職できない規則になっている。その中のT研究員やR研究員が情報を流しているとすれば、あの計画をC国が立てることは不可能ではないのかもしれない。疑いたくはなかったが、S主任はT研究員とR研究員の履歴を確認した。二人はC国の宇宙船研究開発における第一人者、M教授の研究室出身だった。何かあると考える方が自然だった。S主任はA国出身の主だった開発責任者に接触し、その懸念を伝えた。

 情報の漏えい、盗み出しは一切なく、航空宇宙局が公表したデータだけでC国の計画は立案可能である。C国はM教授を中心とした団体の名で主張した。そして有人探査船の打ち上げを予定通り成功させた。A国が有人探査船をようやく送り出したのは、その二か月後だった。研究職や技術職にも厳しく労働時間制限が適用されるA国では、これが限界だった。故国では何時間もの無給労働を経験してきたS主任には、これがもどかしい。無実を訴え、勤務を続けるT研究員やR研究員はいかなる思いでいるのだろう。それを考えるとみぞおちがうずくような感覚が生じる。S主任は紫のスーツの男に、薬の増量を依頼した。一回二包の服用をはじめ、症状は消失した。もはやこの薬なしで生活することは不可能だろう。
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