第5話 帰国

文字数 912文字

 惑星Xでは、A国、C国それぞれの基地が建設された。その際に分かったことだが、惑星Xには地球上と似た生物が存在していた。空を飛ぶ鳥類。海を泳ぐ魚類。そして地上を駆ける哺乳類。しかし、人類に相当するような、知的生命体は確認されなかった。A国、C国どちらの陣営もまずは資源を地球に輸出する方向で動いていた。S主任は、A国初の有人探査船が地球への帰還を成功させた後に母国へと戻る予定になっていた。これでも当初の予定を何度も延ばし、今や二年が過ぎ去っていた。いい加減に帰国したいなあ。S主任は思い詰めていた。画面越しの面会は毎日できるし、アバターを使った家族の交流も可能だが、やはり愛する妻に直接会いたい。労働時間を厳格に守るなど、被雇用者の権利が保障されるA国ではあるが、S主任は国家の権益に関する技術者と目されているので、任務期間途中での帰国は認められていないのだった。

 C国の有人探査船が帰還し、その一週間後にA国の探査船が地球に戻って来た。そしてS主任は航空宇宙局長から呼び出しを受けた。今までこうした呼び出しを受けることはなく、任用期間の延長通知が届くだけだったので、今回は帰国できるのだと思った。
 重厚な扉を開けると、局長が笑顔で待っていた。「ドクターS。これまでの協力に感謝する」握手しながら、これまでの苦労話に花を咲かせた。「ところでドクターS、今後のことなんだが……」ついに帰国を告げられるのか。期待に胸が膨らむ。
「君も知っての通り、今後我が国とその友好国は惑星Xへの移住を推進する。地球を守り続ける必要はあり、それも続けていくがC国に惑星Xを取られる訳にはいかない。先手を打つ必要がある。分かるかい?」S主任は頷かざるを得なかった。そして局長は続けた。「そこで、やはりドクターSの力が必要だ。一旦解任するので母国に帰ってもよいが、次のプロジェクトはサブリーダーのポストを用意する。必要なら家族を連れて来てくれて構わない」
 最後の一言がS主任の背中を押した。家族の同意、といっても子供のいないS主任にとっては妻の意見だけが必要だったのだが、それさえあれば喜んで話をお受けしたい。S主任はそう答えて、局長室を辞した。


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