第2話 計画

文字数 926文字

 惑星Xについての調査は急速に進展した。S主任を中心とする研究員の解析により、惑星Xの大きさや公転、自転の周期、さらには地軸の傾きなどが明らかにされていった。驚くべきことにこれらは地球と瓜二つであった。地球と同程度の割合で陸地と水面とが存在することも突き止められた。惑星Xを地球のために利用できるのではないかとの思惑が世界を駆け巡る。惑星Xについての最初の発表以来、世界中の研究者や企業がS主任の元にやってきていたが、ここにきてその動きに拍車がかかる。中心となったのは宇宙産業では圧倒的な強さを誇るA国の企業たちだった。S主任の所属する宇宙開発局は元来A国とのつながりが強い。S主任自身もA国留学の経験があり、知人も多い。だからこそ余計に企業間の駆け引きが熾烈であり、受ける接待も過剰なものとなってしまった。S主任はしかし、体調の悪化を懸念することなくそれらをこなしていった。あの紫色のスーツの男が置いていった秘薬を朝服用するだけで、痛みは二日後に消えた。試しに一日飲まずにいたら激痛が走ったので、それ以降は欠かさずに服用した。薬がなくなりそうになるタイミングであの男がS主任の元に現れた。そして、また去って行く。代金は要求されない。タダほど怖いものはない、とはS家の家訓であったが、何度も繰り返されるうちにそのことは気にならなくなってしまった。また当初は疑い、警戒心を絶やさぬよう心掛けていたが、これもやがては消えてしまった。

 それから一年が過ぎ、惑星Xへ探査船を送る計画が本格化した。A国とその友好国が中心となって実現に向け動き出している。S主任は探査の専門家ではないが、惑星Xのことを最も知っている人物としてこの計画に関わることになった。そのためA国航空宇宙局への長期出張という形で、A国に滞在する必要が生じた。とても名誉なことであるが、元来忙しいことはあまり好きではない。それに例の薬が入手できなくなるのは困る。A国で痛みが再燃したら、とてもやっていけないだろう。
 そう思っていたある夜、やはりマンションの入り口で紫のスーツを身にまとった男がS主任に近寄って来た。S主任がしゃべりだす前に、男が言う。「A国でも薬はお届けします。ご安心ください」
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