第8話 なあ、どうしよう。マジありえねえじゃん?

文字数 2,556文字

サトミが山小屋の方向を指さし、兵たちが慎重に進む。
木立の間から、チラリと廃屋のような小さな小屋が見える。
サトミが皆を止めて囁くように話した。

「奴ら、外に出てきたな。2人ずつ左右を見張って、女に1人付いてる。
だが恐らく敵にはこっちの数もバレてる、向こうはこちらに躊躇無く撃ってくるだろう。
敵が見えたら撃て。
俺とおっさんで向こうに回る、あんたらにはこっち任せた。
監視役のおっさん、行くぞ。」

「俺はサイだ、サイでいい。」

「わかった、行こう」

兵の一人がサトミに手を上げる。

「ガキと一人じゃ無理だ、そっちに一人行こう。」

「いや、あんたらはチームとして均整が取れてる。
それは崩すべきじゃ無い。こっちには手練れのおっさんがいるから心配いらない。
山小屋で合流しよう。」

「俺が手練れなんて初めて聞いたぞ」

苦笑するサイとサトミが等距離を取って、横に移動する。
その動きに一切迷いが無いことは、敵の位置が丸見えなのだろうと思う。

「何だよ、あのガキは。本当に作戦行動初めてかよ。
信じられねえな」

「まあ、あの小屋に夫人がいるってんなら、行ってみようじゃないか。
行くぞ。」

「了解」

兵たちは、互いに合図を送りながら慎重に進んで行く。
敵は前方2人。わかっているだけにやりやすかった。




サトミが木立の間を走る。
サイはそれに追いつくので精一杯だ。

「あんたは自分で自分の身は守れ」

走る前にサトミはそう言ったが、彼は追いかけるのに精一杯で余裕がない。

「伏せろ!」

ビクッとして、慌てて木に隠れた。
サトミは身を低く落とし、一本の木の幹を蹴って一気に方向を変えると、山小屋の方角に走り出す。
サイが息をつきながらその先に目を移すと、チラチラと黒い服が見える。

タタタンッ!タタタンッ!
パンッパン!

その時、先ほど別れた兵たちが撃ち合いを始めた。
ふと、こちらに歩いてくる男たちが足を止めて音の方を見る。

その隙を待っていたように、サトミがナイフを一本取ると手前の男に投げた。
男がどさんと倒れ、間髪入れず、もう1人にもナイフを投げる。
ナイフはヒットしたが、今度は男が倒れない。
サイが我に返って銃を構える。
が、サトミは何の躊躇も無く男に迫ると数発撃ってくる弾を避け、ジャンプして男の首元を蹴り、そのまま体重を乗せて倒した。

パンッパパン!

タタタンッ!タタタタタンッ!

まだ向こうは撃ち合っている。
サトミは先に進み、蹴り倒した男は起き上がろうともしない。
駆け寄って見ると、首が折れている。
男は、その一撃で死んでいた。
あまりの手際の良さに愕然とする。

「何で……素人上がりのガキが、こんな簡単に……人を殺すんだ」

サイが、呆然と立ちすくむ。
サトミが彼を振り向くと、手招きする。
走り出そうとして、足が何故かすくんでいることにハッとした。

「しっかりしろよ、俺!」

パンと足を叩き、気を取り直して駆け寄ると、サトミは山小屋を指さす。

「あいつらがグズグズやって気を引いてる間に、あっち片づける」

「え?合流するんだろ?」

「たった2人に遅すぎだろ、待てねえよ」

「お、おい!」

サトミはしっと指を立てて小屋へ向かう。
小さな小屋だ、狩りの休憩所かゲリラの隠れ家に使っていたかもしれない。

小屋の裏に回り、そっと壁沿いに進む。
小さな窓がある。
中を覗こうとするが、窓は意外と高いので背が低くて届かない。
変なところで子供が出て、腹立たしそうに親指下に向けるので、サイが苦笑しつつ下にしゃがんで足台になってやった。
サイの大腿部に足をかけてそうっと覗き、そして何故かゆっくり降りて頭を抱えている。
少し離れ、耳打ちしてきた。

「おばさんがお産してる」

「えっ……!!」

思わずデカい声上げかけて、サトミに口を塞がれた。

「なあ、どうしよう。マジありえねえじゃん?」

どうしようと言われても……それは頭になかった。

しかし、そうしている間に向こうの兵たちがようやく進んできて、1人とばったり出くわす。
しっと指を立て、皆を集めて中の様子を話した。

「こういう時どうすんの?」

「どうすると言われても、中にいる奴は一人だろ?なら……」

サトミが親指を立て、首に当ててスッと横に引く。
皆がうなずき、早速動く。

ドア脇に壁を背にして立ち、ドアの引き手を持ってそっと引く。
ドアは何かに引っかかって開かない。

バンバンッ!

中から撃ってきて、木のドアに穴が空いた。

一人のショットガン持ちに合図すると、皆一斉にドアから離れ、その瞬間フォアエンド引いて人のいない方角にショットガンでドアの鍵付近を撃った。

バンッ!!

中から撃って来た拍子にドアが開き、見ると看護婦を抱き込み盾にしていた。

「チッ!」

サトミが舌打ち、男の腕にナイフを飛ばす。

「ギャッ!」

「伏せろ!」

看護婦が男から飛び退き、後ろの夫人を庇って共に伏せた。

タタタンッ!

「ぐあっ!」ドサンッ!

ようやく男が撃たれて倒れ、他に敵がいないか警戒して室内に入る。
看護婦がホッとして顔を上げた。

「他の男たちは?」

「何人でした?」

「えっと、外に4人……ここに5人残して、後はどこかに行ってしまいました。」

看護婦は冷静だ、聞いた兵が大きくうなずき、みんな銃を下ろした。

「オーケー大丈夫だ、ギャラハント夫人ですか?」

「え、ええ、そうよ!あ、あ、ううう、そうです」

夫人はすっかり産気づいて、破水してしまっているのか、床には水が流れている。
どう見ても移動など出来そうもない。

「今すぐ移動したい。出来ますか?」

「む、無理よ!子供が…ああ!もう、もう、子供が生まれるわ!
待って頂戴!もう、もうすぐ…うっ!くっ!」

兵たちが首を振って、外に出る。

「なんてこった。
とにかく夫人発見の連絡を本部に入れる。
ヘリが来るのを待とう、周辺の見張りを頼む。」

それぞれうなずき散らばって、サトミも向かいかけた時、中から付き添いの看護婦が飛び出してきた。

「誰か、誰か手を貸して頂戴!」

「手を貸せと言われても…女性の出産に……」

困るおっさん兵に、看護婦がサトミの手を引いた。

「子供がいいわ、子供の小さな手が。
お願い来て頂戴。」

「え?!ええっ!?お、俺?俺、そんな手は小さくないよ?」

「いいのよ、おばさんに手を貸して頂戴、いい子ね」

中に入ると、夫人が苦しみ、カーテンを握りしめている。
サトミは思わず足を止め、看護婦にぐいと引かれて彼女の足下へと連れて行かれた。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀。

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・サイ・ロイン軍曹

第11歩兵師団、軍曹。負傷して治療後、兵の教育を行っていた。サトミの監視、行動の把握、逃がすなと命令される。気のいい奴。おっさん。

・黒服

カラン・グレイル、30代。白髪、ブルーの瞳。

ある部隊から派遣された。サトミの監視と逃亡防止、行動の報告の為に常に同行している。

サトミから一時離れる為、サイに監視を頼む。

・ボス

ある部隊のトップ。軍人では無い。

ある部隊は軍では第一師団の特殊部隊と言う認識で通っている。殺し屋、殲滅部隊。

サトミは自らスカウトした。

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