第3話 いきなり殴るな!クソ気分わりぃ!

文字数 2,083文字

「ハァ……帰りてえなあ……」

作戦行動の為、指示された場所に移動する。
近くの駐留基地だが、朝早くから荷物と装備品積んで黒服と3人で移動した。

黒服の運転する軍用車で移動中、少年はずっと教科書で勉強している。
のぞき込むと、本当に子供の教科書で驚いた。

この国は教会に学校が併設しているところが多いので、戦時下だが識字率が高い。
親のない子は教会が引き取るので、学校に行けないと言う事もない。
誰もが最低限の教育が受けられる。
この国で評価されるのは、そのくらいだ。

「本当に読み書き出来ないのか?!」

「出来ないって言ってるじゃん。まだ俺ABCの字を覚えてねえんだって。
おっさん、これ、これなんて読むの?」

「え?どれ……えーと、それはこっち見れば、この流れがヒントになってだな。」

「違う違う、文法はわかってんだよ、俺は読み方がわかんねえんだ。
目で見る文字と、点字の感触で読んでたイメージを繋ぐのに苦労する。
だってさ、大文字小文字が全然違う形してるなんて知らなかった。マジで信じらんねえ。
くそ、軍来て覚えることもあるのに、俺は頭が爆発する。」

「そりゃあ……大変だな。」

「まあ、俺がもっとやる気出せばいいんだけどさ、俺、勉強元々嫌いなんだもんなあ。
山でバンバン石割ってる方が、面白いじゃん?」

サイが大きくため息をつく。
まったくこいつは

「お前は目上に敬語もつかえんのか?え?」

子供はひょいと肩を上げ、わかってないなあと言った風だ。

「考えて喋るのは言葉の上っ面より中身だ。
俺はオヤジからそう言われて育ってきたし、これで怒られたことねえもん。」

そう言って、揺れる車内で紙にたどたどしくつづりを書き始める。
車がはねるたび、ペンが横にそれても少しも気にしない。
人間ってのは、動いて書きにくい、線が真っ直ぐ引けないと普通イライラするものだ。
だが、この子はまったく気にしない、そう言うタフさに驚く。
サイが少し気になって、声を潜めて彼に聞いた。

「お前、何で軍に入ったんだ?」


キイイイィーーザザーーーッ


突然車が急停止した。
黒服が運転席から下りて、サイ側のドアを開ける。
サイの襟首つかんで引きずり出すと、いきなり一発顔を殴った。

「ぐっ!」

驚いて、地面に倒れたまま表情の無い黒服の顔を見上げる。
少年は、まるで関係ないことのように変わらずノートに書き取りやっている。
黒服は少年をチラリと見て、サイに人差し指を左右に振った。

「深く詮索すると、命はないと思え。」

動揺もしない少年に、首を振る。
サイが階級もわからない黒服にため息をつき、砂を叩いて立ち上がり敬礼した。

「承知しました。申し訳ありません。」

イレギュラーで特別扱い…か………
なんで俺みたいな下っ端が選ばれたんだろう。

理不尽さを感じながら、サイが恐らく上官なのだろう黒服に身を引き締める。
相手は全くのアンノウンで、どう言う対応していいのかわからない。
とりあえずは上官と思って、敬礼するしかなかった。


黒服に殴られて髪を乱したサイが、足をそろえて手の指までピッと伸ばし、緊張感みなぎらせて敬礼する。
少年が、チラリとその様子を見て舌打ち、ペンをノートに挟んでシートに置く。
そして、車を降りてきた。

バンッ!

腹立たし紛れに、思い切りドアを閉める。
小さな少年は、ため息ついて歩み寄り、サイの前に立った。
そして、恐れもせずに黒服を見上げる。
黒服の顔が、かすかに歪んだ。

「なあっ!あー、なあなあ、黒服おっちゃん。
俺、特別扱いすんのいいけどさ、あんた、自分が何者かも知らせずさ、


態度がでけえ !!!


いきなり殴るな!クソ気分わりぃ!!」


声の限りのデカい声で怒号を飛ばし、目を見開いて黒服を睨めつけた。
あの無表情の黒服が、見ていてわかるほどに苦虫かみつぶしたような顔をしている。
それも構わず無言で向き合う黒服に、少年は詰め寄って歯を剥いた。

「なあ!俺のダチにケンカ売ると手加減無しであんた殴るぜ?
俺、軍来てから、ずっとイラついてんだ。

あんた、俺が気持ちよく喋ってると、すぐ横から割り込むじゃん?
俺、そう言うの嫌いなんだよ。

喋っていいことと駄目なことは、あの人から言われてわかってる。
俺馬鹿だけど、馬鹿扱いされんの嫌いだ。

つまり!!今、俺とってもムカついてるワケよ。

わかる?!」

黒服がギュッと手を握りしめ、忍耐力と戦っている。
やがて少年を冷たく見下ろし、大きく手を振り上げた。

「ははっ!いいぜ!!
ただし、あんたの手をへし折ってやるけど。
俺はここから歩いたって、ちっとも構わねえ。
オヤジが俺忘れて、真夏の荒野に水無しで一人置き去りにされた時より、うんとラクだからな。」

黒服と少年がにらみ合う。
黒服が挙げた手をスッと手を少し動かし、フェイントをかけた。
が、少年はびくとも動かない。

「ヒヒヒ、俺にフェイントは効かねえよ。
あんたの動きは読めてる。俺にその無表情作戦は無意味だ。

あんたは俺を、打つ気は無い!!」

少年のすごみに負けて、黒服が臆したか手を下ろし車に戻る。
サイが驚いて、少年の背中を見つめた。

なんだ?こいつ、本当にガキなのか?

なんて自信だ、なんて……本当に、こいつは………


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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀。

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・サイ・ロイン軍曹

第11歩兵師団、軍曹。負傷して治療後、兵の教育を行っていた。サトミの監視、行動の把握、逃がすなと命令される。気のいい奴。おっさん。

・黒服

カラン・グレイル、30代。白髪、ブルーの瞳。

ある部隊から派遣された。サトミの監視と逃亡防止、行動の報告の為に常に同行している。

サトミから一時離れる為、サイに監視を頼む。

・ボス

ある部隊のトップ。軍人では無い。

ある部隊は軍では第一師団の特殊部隊と言う認識で通っている。殺し屋、殲滅部隊。

サトミは自らスカウトした。

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