第17話 終わり、そして後日談
文字数 3,863文字
「くそーーー!!もうどうでもいいや!腹一杯食ってやる!」
カラフルな可愛い角砂糖の袋を開けて、ひとつかみ口に入れてボリボリかじった。
激甘が体中にしみこんで、たまりにたまったストレスが解放されて行く。
「ああ、これこれ、これ〜、ああ、ボリボリボリ、気持ちいー……」
次に手元にあったピーナッツチョコレートの袋を開けて、一袋ざーっと口に流し込み、バリバリ食べる。
ボックスクッキーの箱から10枚くらい取って口に放り込んだ。
もしゅもしゅ噛むと、口の中の水分が全部吸い取られる。
「うわ〜、お前甘いものばっか、よく食えるなー。
ていうか、お前いくつ?」
「うぶへえジジイ!11だ!うぐっ」
口にいっぱい頬張って、叫んだ瞬間、喉に詰まった。
「 うーーー、」
「あっ、馬鹿!ちょ、待て!水!水!」
どんどん胸を叩いていると、ツンツンが慌てて車内から水のパック持ってくる。
ごくごく水で流し込むと、意外とツンツンは優しくて、背中をさすってくれた。
「はー、死ぬかと思った。」
「なんでお前のお目付役が俺なんだろうなー、まあ、ラクっぽいからいいけどよ。
お前逃げんなよ。」
「んー……そうだなあ、家に帰ろうかなあ。
もう人殺し嫌だし。」
空を呆然と見ながら呟くと、横に並んでしゃがんで座る。
そして、優しくサトミの肩に手を回し、ポンポンと叩いた。
「何があったか知らねえけどよ、今は戦争だ、どこいたって人殺しだらけよ。
相談あったら俺に相談しろ、他に友達作るなよ?
お前逃げると俺がヤバいから逃げんな。な?
俺の為に、絶対逃げるなよ?」
は?何だこいつ、マジクソ野郎じゃん…優しいって感じた俺に謝れ。
「お前がどうなろうと知らねえし、つか、友達作るなとか、大人が子供に言う事じゃネエだろ。
お前、マジでクソ野郎だな。」
「はあ?!このガキ、それが年長者に言う事かよクソガキ!
てめえ、絶対逃がさねえから。あーー!!便所まで付いてってやる!!」
「クソ野郎にクソしてるとこ見られたって何ともネエや!
ついでに俺のケツ拭きやがれ!」
ぴょんと立ち上がると、ケツを向けてパンパン叩いてみせるサトミの挑発に、ツンツン頭が顔を真っ赤にして、バンと立ち上がった。
「付き合ってらんねえ!このクソガキ、帰る!」
「よし、じゃあ俺も家帰る!」
お菓子をバサバサ箱に放り込むサトミに、ハッとツンツン頭が我に返り、慌てて滝汗ですがりついた。
「え、そりゃ駄目だろ、俺、有罪で処刑されちまう。
お前ボスのお気に入りだし、
ボスがこないだテスト結果満点だって、すげえいいブツ手に入れたって喜んでたのに」
はあ?やっっっっっぱり中止命令出してない!じゃん!
何だこいつ、スッゲえ口が軽い。
あの野郎、人をブツ呼ばわりしやがって。
と言うか、こいつこんなに口が軽くてあの鉄仮面と同じチームって信じらんねえ。
サトミが、箱片手にツンツン頭を指さした。
「お前、軽口野郎のギルティ(有罪)だな。ギルティって呼ぶから。
俺が上司なら、お前5回くらい殺すわ」
「はあ?!」
お菓子片手に、自分の部屋に戻り始める。
「あ、待って、待ってくれよ〜!」
あのエンプティ野郎より、今の自分には幾分マシかと思う。
そうやって彼は監視役を常に付けられ、一般の部隊で身体を慣らしていった。
2度ほどギルティの目を盗んで脱走しかけたが、妙に気弱な奴で泣きながら探すので同情して失敗した。
結局、今考えても自分はボスの手の平で踊らされたんだと思う。
あの山での出来事は、自分の心に諦めを植え付けて、軍に縛り付ける事に成功したボスの勝ちだった。
—— 後日談
後日、数ヶ月後、都市部に近い部隊にいた時のことだ。
サトミは「あの人」を通じて大統領補佐官の家に招待されて、夫人にお礼を頂くことになった。
赤ん坊の顔も見たかったし、何より優しかった夫人に会いたいと思ったので、喜んでオッケーする。
だぶだぶの軍服の正装に、武器の携帯については何も言われなかったが、一本差しの普通の鞘に雪雷だけ刺して背に背負っていった。
見たこと無いほどデカい館に案内されて、ギルティはずっとポカンと口を開けてキョロキョロしている。
夫人は変わらず優しくて、他の子供たちは庭で遊んでいた。
赤ん坊は夫人に抱っこされ、もう目が開いている。
サトミはのぞき込むと、嬉しそうにほっぺをつついた。
「おー可愛くなってる、心配だったけど、無事育ってるな〜よしよし。」
「あなたのおかげよ、ありがとう。今日はゆっくりしていってね。
今日はお食事、美味しいもの沢山用意したのよ。喜んでくれると嬉しいわ。
あなたも無事のようで良かった。」
頭を撫でてハグされると、いい匂いでなんだかほんわり心が柔らかになる。
まるでお母さんのような夫人の部屋でくつろいで楽しんでいると、昼には見たことも無いような食事がテーブルに並べられた。
が、サトミにはイマイチ豪華な食事に馴染めない。
現場のような濃い甘みも塩気も遠く、辛みも無く、風味や食感など、楽しむにはまだちょっとお子様だった。
「うーん、そうだなあ…あっ、この肉うめえ。すっげえ柔らかくて美味しいなー」
「あら、ニンジンも食べなきゃ駄目よ?」
「うーん…ニンジンは俺の生涯の敵だから……食ったら駄目なんだ。きっと死ぬから。」
「まあ!悪いお兄ちゃんね。ホホ…」
ほくほくして食べてると、急に外が騒がしくなった。
「ごめんなさい、主人だわ。」
やっぱり何故か、夫人はちょっと暗い顔で立ち上がり廊下に出て行く。
激しい叱責の声を聞いて、サトミは肉を全部食べると、ゆっくり立ち上がった。
「行くのか?やっぱ、挨拶した方がいいよなー,俺達も。」
ギルティーも、ため息付いて口元をナプキンでふく。
ドアへ歩き出すサトミを追って、二人で歩き出した。
「あ、言っとくけど、補佐官殴るなってボスが。
相手は大統領の次に偉い奴だから。」
「わかってるよ、当たり前じゃん。クソ野郎でも、挨拶しなきゃマズいだろ?」
「いや、分かってるならいいんだけどな。」
ふうと息をついて襟を正す。
廊下に出ると、SPを連れたテレビで良く見る補佐官という男が、夫人に怒鳴ったあと苦い顔をしてサトミを見て舌を打った。
サトミが、ニッコリ笑顔で返す。
グーを作って口に手を当て、わあっと声を上げた。
「あっ!テレビで良く見る偉い方ですね?!
僕…、僕!お目にかかれて光栄です!」
「えっ?僕?……」
ギルティが、怪訝な顔で嫌な予感がする。
サトミが頬を紅潮させて、キラキラした瞳で妙に可愛らしくトコトコ歩くと、補佐官の前に出てぴょこんと敬礼した。
「あ……ああ、妻が世話になったとかで……?」
「はいっ!僕、奥様のお役に立てて嬉しかったです!
いつか、お偉い方たちのお役に立てるように、もっともっと頑張ります!」
ギルティの目が死んでいる。
何故か妙に怖くて寒風の中、氷の海に立っているような気分だ。
「うむ、期待しているぞ。」
フッと余裕を持って補佐官が笑い、手を上げるとサトミの前を通り過ぎて、使用人の皆が頭を下げる。
どこかで小さくガンッと音がして、ギルティーが補佐官に敬礼しつつ音の方を向いた。
視線を戻すと、サトミが背に手を回して頭を掻いている。フリしてる。
「ん?」
補佐官には、特に変化が無い。SPも、下げた頭を上げ静かにあとを追い始める。
夫人がようやく息をついて、サトミに微笑みかけた。
「さあ、食事が冷めるわ、部屋に戻って続けましょう。」
何か違和感がありつつも、夫人に急かされ部屋に向かう。
「お前、………なんかした?」
「挨拶したじゃん。」
「え?ん、したな、なんか気持ち悪いほど可愛かったけど。」
「昨日寝る前、練習した。良くできただろ?キシシ……」
嫌な笑い方だ。ドアを閉める時、ふと補佐官の後ろ姿に目が行く。
「あれ??」
もう一度、ジッと見る。
ハラハラと、歩く振動で補佐官のグレーの背広に何かが落ちて目をこらす。
すると突然、後頭部の髪がひとかたまりで落ちて、大きく丸く剥げた。
「ひいっ!」
ギルティが、息をのんで部屋に入り思わず鍵をかけた。
クルリと振り向くと、サトミがまた食卓についてのんびり食事を続ける。
ギルティが滝汗で駆け寄り、不思議そうな夫人にニッコリ作り笑いを浮かべ、サトミに囁いた。
「お、おい!てめえ挨拶だけって言ったよな!」
「だから挨拶だけって言ったじゃん。ただしオレ流の。キシシシシ」
ニイッと笑う不気味なサトミに、悲鳴が出そうで口を覆う。
「どうかなさいまして?」
「い、いいえ〜、はっはっは」
「大丈夫だよ、あめ玉でカメラ先に潰したから。他はみんなクソ野郎に頭下げて見てねえし。」
そう言えば、ガンッてなんか音したな!
あ、あの音はカメラ壊した音か!
ヒヒッと笑うサトミに、ゾオッと寒気が走る。
帰るまでに騒ぎになりませんようにと願いつつ、彼らはその日無事に部隊に帰っていった。
その後しばらく補佐官は、何故か公式の場で突然帽子を着用し始め話題となったが、ある日強風に帽子が吹っ飛び突然ハゲた頭の写真がスクープされた。
サトミはタナトス入隊後、部隊のトップに最短で駆け上り、そして終戦時の混乱の中で彼の部隊は、補佐官暗殺にも関わることになる。
——— と、言うわけさ、
俺の入隊ん時の話、マジありえねえだろ?
ま、こう言うこともあるって事よ。
いつだって、ボケッとしてたらあっという間に死んじまう。
敵も味方も関係ねえ、戦争なんて、そんな物。……ああ、嫌だ嫌だ!!
てめえら、クソみたいな平和が一番だってことさ!ハハッ!!
じゃあ、またな!!
速達配達人 ポストアタッカー 3 〜 キラキラ星の歌う夜〜
おわりだっ!!黒蜜、行けーー!!
ドンッッ!!
カラフルな可愛い角砂糖の袋を開けて、ひとつかみ口に入れてボリボリかじった。
激甘が体中にしみこんで、たまりにたまったストレスが解放されて行く。
「ああ、これこれ、これ〜、ああ、ボリボリボリ、気持ちいー……」
次に手元にあったピーナッツチョコレートの袋を開けて、一袋ざーっと口に流し込み、バリバリ食べる。
ボックスクッキーの箱から10枚くらい取って口に放り込んだ。
もしゅもしゅ噛むと、口の中の水分が全部吸い取られる。
「うわ〜、お前甘いものばっか、よく食えるなー。
ていうか、お前いくつ?」
「うぶへえジジイ!11だ!うぐっ」
口にいっぱい頬張って、叫んだ瞬間、喉に詰まった。
「 うーーー、」
「あっ、馬鹿!ちょ、待て!水!水!」
どんどん胸を叩いていると、ツンツンが慌てて車内から水のパック持ってくる。
ごくごく水で流し込むと、意外とツンツンは優しくて、背中をさすってくれた。
「はー、死ぬかと思った。」
「なんでお前のお目付役が俺なんだろうなー、まあ、ラクっぽいからいいけどよ。
お前逃げんなよ。」
「んー……そうだなあ、家に帰ろうかなあ。
もう人殺し嫌だし。」
空を呆然と見ながら呟くと、横に並んでしゃがんで座る。
そして、優しくサトミの肩に手を回し、ポンポンと叩いた。
「何があったか知らねえけどよ、今は戦争だ、どこいたって人殺しだらけよ。
相談あったら俺に相談しろ、他に友達作るなよ?
お前逃げると俺がヤバいから逃げんな。な?
俺の為に、絶対逃げるなよ?」
は?何だこいつ、マジクソ野郎じゃん…優しいって感じた俺に謝れ。
「お前がどうなろうと知らねえし、つか、友達作るなとか、大人が子供に言う事じゃネエだろ。
お前、マジでクソ野郎だな。」
「はあ?!このガキ、それが年長者に言う事かよクソガキ!
てめえ、絶対逃がさねえから。あーー!!便所まで付いてってやる!!」
「クソ野郎にクソしてるとこ見られたって何ともネエや!
ついでに俺のケツ拭きやがれ!」
ぴょんと立ち上がると、ケツを向けてパンパン叩いてみせるサトミの挑発に、ツンツン頭が顔を真っ赤にして、バンと立ち上がった。
「付き合ってらんねえ!このクソガキ、帰る!」
「よし、じゃあ俺も家帰る!」
お菓子をバサバサ箱に放り込むサトミに、ハッとツンツン頭が我に返り、慌てて滝汗ですがりついた。
「え、そりゃ駄目だろ、俺、有罪で処刑されちまう。
お前ボスのお気に入りだし、
ボスがこないだテスト結果満点だって、すげえいいブツ手に入れたって喜んでたのに」
はあ?やっっっっっぱり中止命令出してない!じゃん!
何だこいつ、スッゲえ口が軽い。
あの野郎、人をブツ呼ばわりしやがって。
と言うか、こいつこんなに口が軽くてあの鉄仮面と同じチームって信じらんねえ。
サトミが、箱片手にツンツン頭を指さした。
「お前、軽口野郎のギルティ(有罪)だな。ギルティって呼ぶから。
俺が上司なら、お前5回くらい殺すわ」
「はあ?!」
お菓子片手に、自分の部屋に戻り始める。
「あ、待って、待ってくれよ〜!」
あのエンプティ野郎より、今の自分には幾分マシかと思う。
そうやって彼は監視役を常に付けられ、一般の部隊で身体を慣らしていった。
2度ほどギルティの目を盗んで脱走しかけたが、妙に気弱な奴で泣きながら探すので同情して失敗した。
結局、今考えても自分はボスの手の平で踊らされたんだと思う。
あの山での出来事は、自分の心に諦めを植え付けて、軍に縛り付ける事に成功したボスの勝ちだった。
—— 後日談
後日、数ヶ月後、都市部に近い部隊にいた時のことだ。
サトミは「あの人」を通じて大統領補佐官の家に招待されて、夫人にお礼を頂くことになった。
赤ん坊の顔も見たかったし、何より優しかった夫人に会いたいと思ったので、喜んでオッケーする。
だぶだぶの軍服の正装に、武器の携帯については何も言われなかったが、一本差しの普通の鞘に雪雷だけ刺して背に背負っていった。
見たこと無いほどデカい館に案内されて、ギルティはずっとポカンと口を開けてキョロキョロしている。
夫人は変わらず優しくて、他の子供たちは庭で遊んでいた。
赤ん坊は夫人に抱っこされ、もう目が開いている。
サトミはのぞき込むと、嬉しそうにほっぺをつついた。
「おー可愛くなってる、心配だったけど、無事育ってるな〜よしよし。」
「あなたのおかげよ、ありがとう。今日はゆっくりしていってね。
今日はお食事、美味しいもの沢山用意したのよ。喜んでくれると嬉しいわ。
あなたも無事のようで良かった。」
頭を撫でてハグされると、いい匂いでなんだかほんわり心が柔らかになる。
まるでお母さんのような夫人の部屋でくつろいで楽しんでいると、昼には見たことも無いような食事がテーブルに並べられた。
が、サトミにはイマイチ豪華な食事に馴染めない。
現場のような濃い甘みも塩気も遠く、辛みも無く、風味や食感など、楽しむにはまだちょっとお子様だった。
「うーん、そうだなあ…あっ、この肉うめえ。すっげえ柔らかくて美味しいなー」
「あら、ニンジンも食べなきゃ駄目よ?」
「うーん…ニンジンは俺の生涯の敵だから……食ったら駄目なんだ。きっと死ぬから。」
「まあ!悪いお兄ちゃんね。ホホ…」
ほくほくして食べてると、急に外が騒がしくなった。
「ごめんなさい、主人だわ。」
やっぱり何故か、夫人はちょっと暗い顔で立ち上がり廊下に出て行く。
激しい叱責の声を聞いて、サトミは肉を全部食べると、ゆっくり立ち上がった。
「行くのか?やっぱ、挨拶した方がいいよなー,俺達も。」
ギルティーも、ため息付いて口元をナプキンでふく。
ドアへ歩き出すサトミを追って、二人で歩き出した。
「あ、言っとくけど、補佐官殴るなってボスが。
相手は大統領の次に偉い奴だから。」
「わかってるよ、当たり前じゃん。クソ野郎でも、挨拶しなきゃマズいだろ?」
「いや、分かってるならいいんだけどな。」
ふうと息をついて襟を正す。
廊下に出ると、SPを連れたテレビで良く見る補佐官という男が、夫人に怒鳴ったあと苦い顔をしてサトミを見て舌を打った。
サトミが、ニッコリ笑顔で返す。
グーを作って口に手を当て、わあっと声を上げた。
「あっ!テレビで良く見る偉い方ですね?!
僕…、僕!お目にかかれて光栄です!」
「えっ?僕?……」
ギルティが、怪訝な顔で嫌な予感がする。
サトミが頬を紅潮させて、キラキラした瞳で妙に可愛らしくトコトコ歩くと、補佐官の前に出てぴょこんと敬礼した。
「あ……ああ、妻が世話になったとかで……?」
「はいっ!僕、奥様のお役に立てて嬉しかったです!
いつか、お偉い方たちのお役に立てるように、もっともっと頑張ります!」
ギルティの目が死んでいる。
何故か妙に怖くて寒風の中、氷の海に立っているような気分だ。
「うむ、期待しているぞ。」
フッと余裕を持って補佐官が笑い、手を上げるとサトミの前を通り過ぎて、使用人の皆が頭を下げる。
どこかで小さくガンッと音がして、ギルティーが補佐官に敬礼しつつ音の方を向いた。
視線を戻すと、サトミが背に手を回して頭を掻いている。フリしてる。
「ん?」
補佐官には、特に変化が無い。SPも、下げた頭を上げ静かにあとを追い始める。
夫人がようやく息をついて、サトミに微笑みかけた。
「さあ、食事が冷めるわ、部屋に戻って続けましょう。」
何か違和感がありつつも、夫人に急かされ部屋に向かう。
「お前、………なんかした?」
「挨拶したじゃん。」
「え?ん、したな、なんか気持ち悪いほど可愛かったけど。」
「昨日寝る前、練習した。良くできただろ?キシシ……」
嫌な笑い方だ。ドアを閉める時、ふと補佐官の後ろ姿に目が行く。
「あれ??」
もう一度、ジッと見る。
ハラハラと、歩く振動で補佐官のグレーの背広に何かが落ちて目をこらす。
すると突然、後頭部の髪がひとかたまりで落ちて、大きく丸く剥げた。
「ひいっ!」
ギルティが、息をのんで部屋に入り思わず鍵をかけた。
クルリと振り向くと、サトミがまた食卓についてのんびり食事を続ける。
ギルティが滝汗で駆け寄り、不思議そうな夫人にニッコリ作り笑いを浮かべ、サトミに囁いた。
「お、おい!てめえ挨拶だけって言ったよな!」
「だから挨拶だけって言ったじゃん。ただしオレ流の。キシシシシ」
ニイッと笑う不気味なサトミに、悲鳴が出そうで口を覆う。
「どうかなさいまして?」
「い、いいえ〜、はっはっは」
「大丈夫だよ、あめ玉でカメラ先に潰したから。他はみんなクソ野郎に頭下げて見てねえし。」
そう言えば、ガンッてなんか音したな!
あ、あの音はカメラ壊した音か!
ヒヒッと笑うサトミに、ゾオッと寒気が走る。
帰るまでに騒ぎになりませんようにと願いつつ、彼らはその日無事に部隊に帰っていった。
その後しばらく補佐官は、何故か公式の場で突然帽子を着用し始め話題となったが、ある日強風に帽子が吹っ飛び突然ハゲた頭の写真がスクープされた。
サトミはタナトス入隊後、部隊のトップに最短で駆け上り、そして終戦時の混乱の中で彼の部隊は、補佐官暗殺にも関わることになる。
——— と、言うわけさ、
俺の入隊ん時の話、マジありえねえだろ?
ま、こう言うこともあるって事よ。
いつだって、ボケッとしてたらあっという間に死んじまう。
敵も味方も関係ねえ、戦争なんて、そんな物。……ああ、嫌だ嫌だ!!
てめえら、クソみたいな平和が一番だってことさ!ハハッ!!
じゃあ、またな!!
速達配達人 ポストアタッカー 3 〜 キラキラ星の歌う夜〜
おわりだっ!!黒蜜、行けーー!!
ドンッッ!!