第13話 電話の向こうの策略家
文字数 2,683文字
肩に手を置くサトミの手をギュッと握り、夫人が力なく微笑んだ。
「あなたなら、託せると思う私は、馬鹿かしら。
あなたのその自信は、どこから来るの?少年兵さん。」
サトミがニッと笑って、ひょいと肩を上げる。
「俺も、自分の自信がどこから来るのかわからねえ。
でもさ、言えるのは、きっとここにいる人間、誰も死なないって事だ。
俺のカンは外れたことがない、それだけは自慢なんだぜ?おばさん」
夫人が、サトミに手を伸ばして、頬を撫で、そして彼の頭を片手で抱いた。
柔らかな胸が、母さんを思い出す。
目を閉じて、お母さんの匂いを嗅いで、大きく息をつくと彼女の手の赤ん坊を撫でた。
「俺が確かに預かる。出発まで、できるだけおっぱい飲ませてくれよ。
駐屯地で会おう、あんたはこいつらと先に安全なところに戻ってくれ。
おばさん、あんたはもっと生きる事に、がむしゃらになれ。
それが、この子への義務だ。
あんたが生きなきゃ、誰が育てるんだ?
この子は俺が必ず助ける。
だからあんたは、この子の為に必ず生きろ、もっと、もっと強くなってくれ。」
息をのんで、夫人が目を大きく見開く。
ギュッと手を握りしめ、力強くうなずいた。
小屋を出る手はずを話し合い、水と携帯食を食べて腹ごしらえを済ませ準備する。
赤ん坊はギリギリまで乳を飲ませ、看護婦の手を借りて、赤ん坊をカーテンでくるみサトミの胸にくくりつける。
夫人も、なんとか自分で歩いて頑張ると告げた。
どこから見張られているかわからない。
すでに囲まれている事も考えられる。
森に接している小屋の後ろから森に入り、二手に分かれる計画だ。
「よしっ!行くぞ!お前ら全員生きて帰れ!俺も生きる!!」
サトミが、皆にカツを入れる。
3人の男たちが、声を上げて敬礼した。
「了解した!」「また会おう!」
「おう!」
サイが窓を外そうと進み出る。
が、サトミがそれを制して離れろと告げた。
「窓から出るとかショボい事言ってんじゃねえよ!
行くぜ!」
背から雪雷を抜き、一気に壁を切り裂く。
ザンッ!バーンッ!
壁の粗雑な作りの横板の羅列をを縦に平行に切り裂くと、切られた板がバラバラと落ちて大きな穴が空く。
目の前にデカい石が鎮座していたので、刀の峰を当て、気を集中した。
「ハッ!!」
ガッと音を立てて真っ二つに割れる。
影になる方をドカッと蹴ると、石の半分が転がり、森への入り口が出来た。
「良し!行くぜ!」
と、言った物の返事が無い。
振り向くと、皆が呆然と口を開けて立ち尽くしていた。
「どしたの?行こうぜ?」
「お、おう」
「い、行こうか」「うん」
バラバラに返事が返って、森に出て歩き出す。
「お前、何者?」
サイが聞く。
サトミが、ニッコリ子供っぽい顔で返した。
「普通の、その辺のガキ。」
「はあ〜」
口はなかなか閉じず、ポカンとしたままうなずくしか無かった。
すでに日は傾いて、時間がたつごとに暗くなる。
サトミは北へ降りる彼らと別れると、一人南に下り始めた。
しばらく歩いて周囲を見て、ため息をつく。
ジャケットのポケットから衛星電話を取り出し、一つの短縮ボタンを押す。
コールが数回鳴って、相手が出た。
「よう、俺、サトミ。サトミ・ブラッドリー。
覚えてる?
ああ、そう。なら良かった。
…………………
なあ、
なあ、
あんた、俺試す為に派手な作戦やらかすの、やめてくれない?
俺が最初の目標と違うとこにいるの、知ってンだろ?
俺がこっちに来るの、予定通りってわけ?いい性格してるよなあ。
俺、だんだんあんたのやり方読めてきたぜ。」
いっとき、時間をおいて、相手が笑った様な気がした。
どうしてそんな事を思うのかと。
「わかるさ、森の中の館、テキトーにやったあと、こっちの奴ら確保?それとも逮捕?
殺しちゃいないよなあ。
え?ああ……
あれじゃさ、銃声少なすぎだろ!
あれじゃあ余裕の無い奴くらいじゃね?騙されンの。
それにさ…、俺にはわかるのさ。
人の気配がね。
まあ、それはそれでいいさ、こんな事で死んだらそれこそ無駄だ。
ハハッ、隊長もグルじゃねえの?
こっちによこしたのたった一班、それもあんたらとグルの奴、選んだところで丸見えだろ?
あんたさー、俺は役者じゃねえんだ。
ヘタな芝居、させんなよ。
俺、教会のお遊戯会じゃ木の役だったんだぜ?
………………ハッ、バーカ。
みんな隊長だけは!って信じてんだ。
バラしたら、やる気が落ちるだろ?
そのくらい馬鹿でもわかる。」
電話の向こうで、笑い声が聞こえる。
ふと、顔を上げた。
兵の動きが……
マズい、行くな…行くな…行くな……
駄目だ、能力を装備で埋めるあいつらに…装備の無いあいつらに、そんなスキルは無い。
目を閉じて、大きくため息をつく。
子供の背を、優しく撫でた。
サトミは、北へ向かう敵兵の動きを感じて、自分のGPSのスイッチを入れた。
敵をできるだけ引きつけるつもりで。
「とにかく!
俺に向かってくる奴、全部死んでもいいなら続行しろよ。
俺?
俺はなー、あんた笑ってっけど、俺はブチ切れてっから。
俺、本気しか出せないぜ?
もう、俺の本気を止めていたオヤジはここにいない。
俺は、生きて帰る為に本気を出すしか無い。
今回の…本当の、スケープゴートは、俺達じゃ無い、俺達を追う奴らだ。
兵隊は、あんたのおもちゃじゃねえ。
こいつらみんな、一人一人生きた人間だ。
それでも仕掛けるなら、俺はあんたを軽蔑するよ、クソ野郎。」
目を閉じる。
北へ向かう兵の動きが止まった。
目を開けて、赤ん坊の顔を見る。
目をしっかり閉じた顔に、ため息をついてまた目を閉じた。
「なあ、クソ野郎。俺は………、子供だ。
それでも、覚悟して軍に入った。
目が見える為なら、人殺しになっても構わないのかって、俺はあんたにスカウトされた時、ずっと泣いて泣いて、迷った。
でも……………
俺は、それでも見たかったんだ。
だから、こんな事する必要は無い。
あんたの都合なんか知らねえ。
でも…これだけは、子供の俺から言っておく。
あんたは、俺に殺させる奴の分、自分で責任を負え。
大人なら、あんたは残された奴に償うべきだ。
戦争だからとテキトーに誤魔化すな。
こいつらは、国を守る為に軍人になったんだ。
あんたの遊びで死ぬ為になったんじゃ無い。
なあ、クソ野郎、まだちょっとしか生きてないガキの俺なんかに、こんなセリフ言わせんな。
こんな事やるような奴なら、俺はあんたと組まない。」
電話の向こうでため息が聞こえる。
ガキの言う事がどれだけ伝わるのか、相手が飲むのかまったくわからない。
組まないと言っても、結局自分は軍の中で生きていくならこの人の思うように動かなければならないのだから。
あの人の、大きく息を吸う音が聞こえる。
そして、わかったと告げた。
「あなたなら、託せると思う私は、馬鹿かしら。
あなたのその自信は、どこから来るの?少年兵さん。」
サトミがニッと笑って、ひょいと肩を上げる。
「俺も、自分の自信がどこから来るのかわからねえ。
でもさ、言えるのは、きっとここにいる人間、誰も死なないって事だ。
俺のカンは外れたことがない、それだけは自慢なんだぜ?おばさん」
夫人が、サトミに手を伸ばして、頬を撫で、そして彼の頭を片手で抱いた。
柔らかな胸が、母さんを思い出す。
目を閉じて、お母さんの匂いを嗅いで、大きく息をつくと彼女の手の赤ん坊を撫でた。
「俺が確かに預かる。出発まで、できるだけおっぱい飲ませてくれよ。
駐屯地で会おう、あんたはこいつらと先に安全なところに戻ってくれ。
おばさん、あんたはもっと生きる事に、がむしゃらになれ。
それが、この子への義務だ。
あんたが生きなきゃ、誰が育てるんだ?
この子は俺が必ず助ける。
だからあんたは、この子の為に必ず生きろ、もっと、もっと強くなってくれ。」
息をのんで、夫人が目を大きく見開く。
ギュッと手を握りしめ、力強くうなずいた。
小屋を出る手はずを話し合い、水と携帯食を食べて腹ごしらえを済ませ準備する。
赤ん坊はギリギリまで乳を飲ませ、看護婦の手を借りて、赤ん坊をカーテンでくるみサトミの胸にくくりつける。
夫人も、なんとか自分で歩いて頑張ると告げた。
どこから見張られているかわからない。
すでに囲まれている事も考えられる。
森に接している小屋の後ろから森に入り、二手に分かれる計画だ。
「よしっ!行くぞ!お前ら全員生きて帰れ!俺も生きる!!」
サトミが、皆にカツを入れる。
3人の男たちが、声を上げて敬礼した。
「了解した!」「また会おう!」
「おう!」
サイが窓を外そうと進み出る。
が、サトミがそれを制して離れろと告げた。
「窓から出るとかショボい事言ってんじゃねえよ!
行くぜ!」
背から雪雷を抜き、一気に壁を切り裂く。
ザンッ!バーンッ!
壁の粗雑な作りの横板の羅列をを縦に平行に切り裂くと、切られた板がバラバラと落ちて大きな穴が空く。
目の前にデカい石が鎮座していたので、刀の峰を当て、気を集中した。
「ハッ!!」
ガッと音を立てて真っ二つに割れる。
影になる方をドカッと蹴ると、石の半分が転がり、森への入り口が出来た。
「良し!行くぜ!」
と、言った物の返事が無い。
振り向くと、皆が呆然と口を開けて立ち尽くしていた。
「どしたの?行こうぜ?」
「お、おう」
「い、行こうか」「うん」
バラバラに返事が返って、森に出て歩き出す。
「お前、何者?」
サイが聞く。
サトミが、ニッコリ子供っぽい顔で返した。
「普通の、その辺のガキ。」
「はあ〜」
口はなかなか閉じず、ポカンとしたままうなずくしか無かった。
すでに日は傾いて、時間がたつごとに暗くなる。
サトミは北へ降りる彼らと別れると、一人南に下り始めた。
しばらく歩いて周囲を見て、ため息をつく。
ジャケットのポケットから衛星電話を取り出し、一つの短縮ボタンを押す。
コールが数回鳴って、相手が出た。
「よう、俺、サトミ。サトミ・ブラッドリー。
覚えてる?
ああ、そう。なら良かった。
…………………
なあ、
なあ、
あんた、俺試す為に派手な作戦やらかすの、やめてくれない?
俺が最初の目標と違うとこにいるの、知ってンだろ?
俺がこっちに来るの、予定通りってわけ?いい性格してるよなあ。
俺、だんだんあんたのやり方読めてきたぜ。」
いっとき、時間をおいて、相手が笑った様な気がした。
どうしてそんな事を思うのかと。
「わかるさ、森の中の館、テキトーにやったあと、こっちの奴ら確保?それとも逮捕?
殺しちゃいないよなあ。
え?ああ……
あれじゃさ、銃声少なすぎだろ!
あれじゃあ余裕の無い奴くらいじゃね?騙されンの。
それにさ…、俺にはわかるのさ。
人の気配がね。
まあ、それはそれでいいさ、こんな事で死んだらそれこそ無駄だ。
ハハッ、隊長もグルじゃねえの?
こっちによこしたのたった一班、それもあんたらとグルの奴、選んだところで丸見えだろ?
あんたさー、俺は役者じゃねえんだ。
ヘタな芝居、させんなよ。
俺、教会のお遊戯会じゃ木の役だったんだぜ?
………………ハッ、バーカ。
みんな隊長だけは!って信じてんだ。
バラしたら、やる気が落ちるだろ?
そのくらい馬鹿でもわかる。」
電話の向こうで、笑い声が聞こえる。
ふと、顔を上げた。
兵の動きが……
マズい、行くな…行くな…行くな……
駄目だ、能力を装備で埋めるあいつらに…装備の無いあいつらに、そんなスキルは無い。
目を閉じて、大きくため息をつく。
子供の背を、優しく撫でた。
サトミは、北へ向かう敵兵の動きを感じて、自分のGPSのスイッチを入れた。
敵をできるだけ引きつけるつもりで。
「とにかく!
俺に向かってくる奴、全部死んでもいいなら続行しろよ。
俺?
俺はなー、あんた笑ってっけど、俺はブチ切れてっから。
俺、本気しか出せないぜ?
もう、俺の本気を止めていたオヤジはここにいない。
俺は、生きて帰る為に本気を出すしか無い。
今回の…本当の、スケープゴートは、俺達じゃ無い、俺達を追う奴らだ。
兵隊は、あんたのおもちゃじゃねえ。
こいつらみんな、一人一人生きた人間だ。
それでも仕掛けるなら、俺はあんたを軽蔑するよ、クソ野郎。」
目を閉じる。
北へ向かう兵の動きが止まった。
目を開けて、赤ん坊の顔を見る。
目をしっかり閉じた顔に、ため息をついてまた目を閉じた。
「なあ、クソ野郎。俺は………、子供だ。
それでも、覚悟して軍に入った。
目が見える為なら、人殺しになっても構わないのかって、俺はあんたにスカウトされた時、ずっと泣いて泣いて、迷った。
でも……………
俺は、それでも見たかったんだ。
だから、こんな事する必要は無い。
あんたの都合なんか知らねえ。
でも…これだけは、子供の俺から言っておく。
あんたは、俺に殺させる奴の分、自分で責任を負え。
大人なら、あんたは残された奴に償うべきだ。
戦争だからとテキトーに誤魔化すな。
こいつらは、国を守る為に軍人になったんだ。
あんたの遊びで死ぬ為になったんじゃ無い。
なあ、クソ野郎、まだちょっとしか生きてないガキの俺なんかに、こんなセリフ言わせんな。
こんな事やるような奴なら、俺はあんたと組まない。」
電話の向こうでため息が聞こえる。
ガキの言う事がどれだけ伝わるのか、相手が飲むのかまったくわからない。
組まないと言っても、結局自分は軍の中で生きていくならこの人の思うように動かなければならないのだから。
あの人の、大きく息を吸う音が聞こえる。
そして、わかったと告げた。