第16話 ツンツン頭の変な奴

文字数 2,362文字

夫人は翌日朝、慌ただしく迎えが来て、ニュース速報で世間は一気に騒がしくなった。
テレビを見ると彼女の旦那は涙を流して夫人の救出を喜び、救出に赴いた兵には勲章が与えられるという。
救出に関わった11師団のメンバーの名前が読み上げられ、死んだ奴らには階級特進と遺族への特別恩給が約束された。
だが、サトミの名は、一切表に出なかった。


そして4日後、黒服の乗っていた車とは違う、第一師団のマークの入った新車っぽい軍用車両が、基地にやって来た。

ようやくやって来た黒服の次の奴は普通のおっさんぽくって、ツンツンに立てた黒髪に無精ヒゲ、ヨレヨレのグレーのスーツ着て妙に軽口叩く奴で、そう言う普通の奴もいるんだと少し安心した。

サイは、奴が来た事で、ここでお役御免だ。
ツンツン頭のスーツ野郎から、任務完了で自分の部隊へ帰るよう告げられて交代する。
サイは、サトミに握手を求めたあと、ビックリするほど優しく彼の頭を撫でて引き寄せると、何度も何度もポンポン背中を叩いてくれた。

「お前さんが何処行くのか知らんけどな、自分を大事にしろよ。
あの子と同じ、お前さんはお前さんの人生があるんだ。
絶対に自分を投げ出すな。」

「うん、うん、わかってる。
ありがとう。」

「生きろよ。俺も生きる。」

「うん、あんたも生きろ。」

サイが、身体を離すとサトミに右手の平を広げた。
サトミが、笑ってパンと叩く。

「じゃあな!また会おう!」

「ああ、いつかまた!」

そうして、サイは11師団本部に行く車に同乗して、自分の部隊に戻っていった。


少し寂しさもあって、顔を上げると車の前でツンツン頭が手を上げる。
彼は、黙って待っててくれた。
しかし、奴が乗ってきた軍用車両はピカピカだ。
こんなにきれいな軍用車見たこと無い。

「ずいぶんピカピカの軍用車じゃん?軍用車に新車ってあんの?」

ツンツン頭がニッと笑う。

「ヒヒッ!いいだろー、一番いいのに乗ってきた。
お前に付き合うと、車移動が多いって聞いたからな。
シート硬くて痔になったら嫌だから、ふかふかクッションも乗せてきた。」

痔???痔ってなんだ???

「あー、荷物、無くて困っただろ?
あの野郎、そう言うの全然頭にないからな。
マジでアレじゃ女にももてねえっての。
次の指令、5日後移動だから、荷物降ろそうぜ。」

「ふうん」

車から荷物もらってると、気楽に喋りかけてくる。
なんだか前の奴とのギャップが凄くて、気が抜ける。

「ボスにはお前を新兵扱いすんなって言われて来てんだけど、お前の事呼ぶの、ガキんちょでいい?
なんでお前、ボスに気に入られてんの?」

妙に馴れ馴れしくて、変な奴だ。

「なんでお前らの部隊は、俺を名前で呼べないんだよ。」

ちょっとあきらめ混じりでなんとでも呼べと言った。
ふと、前の黒服の顔を思い出す。

「あ、そうだ。前いた奴、生きてんの?あのガビガビの顔の奴。」

「ああ、カランか、生きてるぜ。
あいつ車にひかれたんすかねー、ポカする奴じゃねえんだけどな。
ちょっと重傷ってボスが言ってたけど、まあ、ケロッと戻ってくるんじゃねえの?
なんか知ってねえ?」

「ふうん、スゲえ、生きてんだ」

しぶとい野郎だと、プッと笑う。
どうやらサトミがやったとは知らないようだ。
のんびりぼやいて首を傾げる。

「あんたら、階級どっちが上になんの?」

「カラン…すっかね。
ま、俺達の部隊じゃ、階級はどーでもいいんすよ。
強けりゃピョンと上に上がる実力主義、階級はあとから付いてくるの。
ってか、おめーになんで俺、敬語使ってんの?なんでおめー、そんなに偉そうなの?
ませたガキ。」

「これで敬語かよ!ひゃははっ!」

ブッと笑ってカバンを肩に、ため息付く。

「ああそうそう、あの人に連絡すっとき言っといてよ。
軽蔑したから、帰るってさ。」

ツンツン頭が、ビビッと軽蔑という言葉に反応する。
荷台に回ると、幌を開けて大きな箱を取り出しサトミに渡した。

「帰っちゃ駄目だろ、お前なんか条件付きで入ったんだろ?でも、お前のご機嫌を損ねたことは認めるってさ。
お前に軽蔑言われたら、これを献上しろって言われてきたんだわ。
もう一箱あるから、好きなだけ食えって。牛乳もロングライフ二箱積んできた。
お前、子供かよ?…ああ、子供か。

中止命令出したけど……、ちゃんと出したけどってさ。電話で言った遺族保証もちゃんとやるってよ。
なんの話か、俺ぜんぜん見えねえんだけど。
お前さ、あんま、うちのボスいじめんなよ。だいたいお前さ、敬語って言葉知ってんの?」

「良く喋る奴だなー。
敬語は知ってるけど、敬語使いたいような奴にまだ会ってねえ。
ろくでもない大人ばっかだ。みんなクソ野郎だ。」

腐っていると、ドサリと、サトミが隠れるくらいの大きな荷物を渡された。
ほどほどの重さに、まあ、何かがほどほど入ってるように感じる。
これがあと一箱か。

「ボスってどんな奴?」

「そうだなあ、表面上は悪い奴じゃねえけど、腹ん中は真っ黒だろうなあ。
よくわかんねえや。ボスの頭ん中は、策略が常に渦巻いてるから。
ああ…命令はエグい。これだけははっきりしてるな、うん。」

うんと、何度も自分にうなずく。
やっぱり、とんでもねえ奴に目えつけられたよなあ…と、ぼやきながら箱を開けた。

「うわぁ」

「何だこれ!ガキへのクリスマスプレゼントかよ!」

ツンツン頭がゲラゲラ笑う。
だが、サトミはなんだか中身を見て、箱を持ち上げ地面に座ると、思わず中身を頭からぶちまけた。

お菓子とココアと砂糖とキャンディがみっちり入ってる。
頭から、ドサドサと甘いものが落ちてきて、サトミの身体がお菓子に埋まった。


「ああああああーーーーーー!!!!クソ野郎!今はめっちゃ嬉しい!!」


身体に落ちたお菓子を、両手でつかんでバッと上に舞い上がらせ、お菓子の上に寝っ転がる。
身体に染みついた血の匂いが、お菓子の香りで消えてしまいそうな気がした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀。

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・サイ・ロイン軍曹

第11歩兵師団、軍曹。負傷して治療後、兵の教育を行っていた。サトミの監視、行動の把握、逃がすなと命令される。気のいい奴。おっさん。

・黒服

カラン・グレイル、30代。白髪、ブルーの瞳。

ある部隊から派遣された。サトミの監視と逃亡防止、行動の報告の為に常に同行している。

サトミから一時離れる為、サイに監視を頼む。

・ボス

ある部隊のトップ。軍人では無い。

ある部隊は軍では第一師団の特殊部隊と言う認識で通っている。殺し屋、殲滅部隊。

サトミは自らスカウトした。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み