第4話 危ない方が、面白いじゃん!

文字数 2,766文字

駐屯地に着くと、作戦に参加する面々と顔合わせがあり、そして説明が始まった。
参加する面々と言っても、駐屯地の歩兵部隊にサイと少年の飛び入りだ。
黒服はここで待つらしい。
ずっと監視役をになっているようなのに、なぜここだけサイに任せるのかはわからない。

「……と、報道で周知のように、今大統領補佐官夫人が誘拐されたことは知っているだろう。

情報機関から、夫人が拉致監禁されている場所は特定出来ている。
場所はグレイス山、1合目付近の廃屋だ。
一次救出隊が編制されて向かったが、北の森でトラップに半数やられて撤退した。
まだ遺体の回収が出来てない。と聞いている。」

グレイス山は、この辺でも高い方と言っても1000メートル満たない山だ。
山自体は木も少ない岩山だが、2合目付近から東の裾野には森が広がっている。
廃屋を正面に山を見ると、北から南に向かうに従って、森は大きく扇状に広がる。
ここは唯一、この地方でも緑が多く、貴重な水源といわれる場所だ。

「山でそんな作戦が?気がつかなかったな。」

「秘匿性が強い、小規模作戦らしい。まあ、民衆に宣伝するのは救出後だな。
いきなり仕掛けんと、場所を移されたら面倒だ。
だが、今のところ動きはないと判断されている。」

「で、補給は?ゲリラはどこから移動しているんですか?」

「衛星から監視したのでは、北側から物資を運んでいるのが確認された。
侵入ルートは確認している。ただ、森の中では見失ったらしいがな。」

「で、同じ場所から侵入して、なんでトラップに?」

「さあな。俺は話を聞いただけだ。」

指揮官が、ひょいと肩を上げる。

「えーと、補佐官夫人だったら、第一師団付属の特殊機動中隊って〜部隊の出番では?
俺らでいいんですかい?」

指揮官が、渋い顔で首を振る。
それはまあ、誰しも思うことだろう。
特殊機動中隊は、大統領が一番金をかけている特殊部隊の集団だ。

だが、夫人が監禁されているのは山中の森の中だ。

「あれはな〜、金のかかった武器を山ほど持っているらしいが、こういう森林戦には向かないんだ。
一次がトラップで半分死んだと聞いて、こっちに回しやがった。
俺としても、寝耳に水だ。
まあ、俺らが失敗したら、ゲリラ側が請求してるって話の勾留中の仲間の開放か、爆撃でもやるだろうさ。
あとは補佐官のお涙頂戴で、ゲリラ掃討に国民の支持も高くなって、強攻策も取りやすくなるしな。」

「で、トラップって何が?わかってるだけでも……」

「聞いたところによると、ゲリラ得意のブービートラップだ。
尖った木は飛んでくるし、手榴弾が飛んでくるし、縄で釣り上げられてナイフ刺さるし、帰った半分も重傷者半数だ、無傷は二人とか聞いた。」

全員の顔を見ると、今にも帰りたそうな気配だ。

「え?爆撃した方がマシじゃ無いですかね。
それか森に直接部隊降下して一気にやるとか。」

「さあな、だが向こうの構えは万全だ、ヘリが一機RPGにやられたそうだ。
降下しても下は森だ、どこからでも撃ってくるさ。森じゃ装甲車も大型の重火器も使えない。
あと、爆撃は最後だ、夫人の存在を忘れるな。」

「はっ、じゃあ俺らが次の死体候補ですか。」

まあまあ、と、指揮官が押さえて、地図を指す。

「と言うわけで、気休めの作戦の指示が来た。

まあ、地図見て森の浅い方から入りたいと思うのは人のサガだ。
恐らく、奴らはそれで北の方角にトラップ多めに仕掛けているのだろう。
北から物資運んでいたというのは、誘導、引っかけと思われる。

衛星で見えるのも、中央一本道のここまで、あとは生い茂っていて追跡不可能。
そしてその先には左右に分かれ道がある。本物の補給はどっちに行ったかわかりゃしない。」

なんだか不鮮明な衛星写真がパネルに写される。
人の姿は小さすぎて、写真では確認不可能だ。

「さて、トラップは地雷と同じくらいやっかいだ。
しかし、奴らはそれほど多人数のゲリラ部隊じゃ無いと思われる。

そこで、近道が駄目なら地道に侵攻する。
夫人は臨月だ、一刻も早く救い出せとの指示だ。
北山側からと、南側の森、2方向から行く。

ただ、山にはトラップが仕掛けにくい反面、低木と岩場で発見されやすい。
そこで、行動開始は早朝だ。
ルートは山の南側、山班は北から山に入って山沿いに進み、目標を目指す。
森班はこの山の手前から森に入って目標を目指す。
各自GPSに緯度経度、目標を登録しろ。

どちらも森は深く、特に森班は距離が長い。
そしてトラップの可能性は森が高い。
そこで希望者を募る。
それともクジでもするかね。」

指揮官が、指し棒でパンパンと肩を叩く。
一同は、しんと静まり率先して手を上げるものはいない。
森を選ぶほど命知らずでは無いし、山を選ぶほど腰抜けでは無い。
とにかく、制圧する以上に、ここへ行き着くのが大変なのだ。


スッと、後ろで聞いていた一人が手を上げた。

「おっさん、俺、森行く。森の方が面白そうじゃん?」


それは、飛び入りの小さな黒い戦闘服の少年。
オリーブドラブの戦闘服の自分たちとは違う色違いの戦闘服が、妙に目立つ。
黒い戦闘服は、上層部の特殊部隊の装備にあった記憶だが、何故こんな新兵の子供が着ているのか奇妙な事だ。
指揮官は、渋い顔でプイと相手にしなかった。

「制圧したら、通信入れると夫人はヘリが迎えに来る。
我々は北の山側、もしくは南の山側1合目付近を山に沿って撤退する。
夫人は臨月だ、まさか生まれないとは思うが、一応側近の看護婦が一人付いてはいるらしい。
二人とも生存は確認されている。
まあ、今でも生きているかどうかはわからんがね。

よし、メンバーは俺の判断で決める。
森は俺コリン班、ケイル、セリル、ジョルジュ、ゲイル、各班5人ずつ。
俺、コリンを隊長とする。
山は他の6班、アインを隊長とする。
各班長は隊長の補佐に努めろ。

その新入りのガキは山班の後ろ付いてこい。戦場を舐めるな。
まあ、本当は来るなと言いたいんだがね。」

少年が、ひょいと肩を上げた。
なぜかひどく重苦しい空気の中で、清々しく笑っている。
こう言う恐怖を知らないのだろう。

「俺は空気だ、気にしないでくれ。俺は森班と行く。
この人は俺の影、俺の監視役。
俺自身、あんま実戦経験無いから、足引っ張らないようにがんばるよ。」

ニッコリ笑う少年に、愕然と兵たちが指揮官を見る。

「ここはいつから林間学校になったんですかい?」

「さあ、知らねえが、上からの命令だ。とにかくチームに入れろとよ。
死んでも構わんそうだ。俺たちは自分たちの生き延びることに全力で向かう。
お前さんは好きにしろ。俺たちはあんたには構わない。

よし、出発は3時。
装備はCで。あまり重装備にするな、移動で体力持って行かれる。
山に入るから補給が出来ない、半日分の水とレーション忘れるな。」

「了解」

命がけの救出劇だ。
彼らは、装備に細心の注意を払い、手抜かりの無いように準備して臨んだ。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀。

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・サイ・ロイン軍曹

第11歩兵師団、軍曹。負傷して治療後、兵の教育を行っていた。サトミの監視、行動の把握、逃がすなと命令される。気のいい奴。おっさん。

・黒服

カラン・グレイル、30代。白髪、ブルーの瞳。

ある部隊から派遣された。サトミの監視と逃亡防止、行動の報告の為に常に同行している。

サトミから一時離れる為、サイに監視を頼む。

・ボス

ある部隊のトップ。軍人では無い。

ある部隊は軍では第一師団の特殊部隊と言う認識で通っている。殺し屋、殲滅部隊。

サトミは自らスカウトした。

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