第11話 黒蜜、閃く
文字数 2,260文字
ゴーグルを外し、目を閉じた。
目からの情報がそぎ落とされ、意識がすべて暗闇の中に集中する。
昔の感覚が容易に戻り、清々しくさえ感じた。
“ お前は目が見えないくらいで丁度いいんだ ”
オヤジはそう言って、いつも見えないことにいらだつ俺の肩を、何度も叩いて抱いてくれた。
それは神が与えた、適切なハンデだと。
そんなもの、……そんなこと言われたって、俺には納得出来ない!
自分が異常なほどの感能力を持っているのは自覚があった。
小さい頃、感じることが出来たのは自分の周りの人間動物だけだったものが、成長すると知覚距離が伸び、草木、近くの無機物とどんどん増えていく。
ただ、見えないだけだ。
杖は飾りで生活に困ることは無く、転んだことなど一度も無い。
戦争が激しくなって身を守るものが欲しいと、オヤジに会いに来ていた鰐切のおっさんにもらしたら、最初試作品の刀を譲ってくれた。
銃はリーチが遠くて誰に当たるかわからない、でも、刀なら相手を知って戦えるだろうと。
サトミは思った以上に刀を使いこなし、町外れで遊んでいた妹たちがゲリラにさらわれそうになった時には、大人たちが来る前に敵の半分を倒して守り切った。
その時、刀は折れて鰐切のおっさんは、今度は正式にサトミの為に打った刀を送ってくれた。
出世払いだと。
それが今、サトミの背にある。
見えなくても家族は守れる。
それでも、家族の顔が見たい。
空の色がどんな色か、澄み渡る青い空がどんなものか。
だから、目の治療をエサに軍に釣られた。
それでも後悔はしていない。
シャープなセンサーが敏感に周囲を探り、追跡する敵の気配を容易に感じ取った。
サトミがふと顔を上げてニイッと笑い、その場から飛び出す。
やがて、木が倒れ、ひらけている場所で立ち止まった。
追跡者は音も立てず、ぐるりとサトミの左に回り込む。
左手のサバイバルナイフを背後の腰に直す。
投げナイフを一本取って投げた。
避けられた、と同時に撃ってくる。
パンッパン!
避けると同時にもう一本投げる。
金属音がして、相手はまだ倒れない。
「チェッ、銃で弾かれたか。」
敵はなかなか手強い。
なのに、サトミは楽しくてワクワクしてくる。
「俺、本気になっていいのかなあ、なあオヤジ。
怒るなら、帰ってからにしてくれよ?俺は生きて帰るから。
ククックッ、さあて久しぶりだな、黒よ付き合ってくれよ、俺の本気によ」
雪雷を鞘に直し、そのまま柄を握って鞘をグッと倒す。
パンパンパンッパン!
「ハハッ!当たるかよ!」
避けながら、数歩退いて鞘の下のフックを外しスライドさせた。
中から黒い柄紐の鍔の無い刀の柄が現れる。
それを逆手で掴み、グッと引き出した。
「黒蜜よ、オヤジはいねえぞ、怒られないから存分に暴れろ!」
クルリと手の中で刀を返し、一気に追っ手に向けて走り出す。
パンッパン!
スッと避けて、ナイフベルトからナイフを取る。
追っ手は後ろに引いて行く。
「ハハッ!そのスーツの性能を見てやるぜ!」
2人の間の木の気配が途切れた。
その瞬間、一気に黒蜜を左から振り下ろす。
ガキンと小さな衝撃音がして、柄から外れた刃が飛んで行く。
「ひっ!」
ワイヤーを伝い、ドスンと手応えを感じたあと小さく悲鳴が聞こえた。
間髪入れず、黒蜜を引く。
「くっ、ハハッ!何が高性能の防弾防刃スーツだよ!なあおっさんよ!」
柄の中のモーター音が響き、ワイヤーが巻き取られて黒蜜の刃が柄に戻ってくる。
キュウウウゥゥンッ!ガキンッ!
刃を柄に戻し、一気に駆け寄りながらスローイングナイフを投げる。
相手がよろめきながら避けた瞬間、サトミが刀を振りかざし、追っ手の黒い戦闘服の男に飛びかかった。
「くっ!」
とっさに銃で受けるその銃身ごと、黒蜜が肩口から切り裂く。
ガインッ!ザンッ! 「がっ!」
切られながら男は、サトミにナイフを振りかざす。
サトミがその刃を黒蜜の柄の頭で弾き、更にもう一太刀、腹を切った。
「ぐがっ!お、ぐうゥ!!」
ドサリと男が倒れ、血を吐きながら起き上がろうと身じろぎした。
更に切られた傷から血があふれ、諦めて天を仰ぐ。
辺りには、男のヒューヒューと荒い呼吸の音が響き、一瞬で負けた自分に信じられないのか自分の胸を押さえると、血に濡れた手を見つめてブルブルと震えた。
血にまみれて息をつきながら、じろりと視線を向ける。
サトミが笑って彼の首元に刃を向けた。
「よう、あんたがサイに見張り頼んだのってこう言うこと?
へえ、やっぱ高性能なのかな?
普通の服ならあんた3つ4つに分かれてると思うんだけど。」
男は、サトミの監視役の黒服の男だ。
血を吐きながら、相変わらず無表情でサトミがククッと笑う。
「ま、いいや。
あんたがあの人の部下なの知ってるけど、これって俺の入隊テスト?
それとも単に気に入らねえから殺す気だった?
テストだったら合格なのか、あんたに聞いても答えはわかんねえよなあ。
判断すんの、あの人だろうし。
あんたなかなか面白かったぜ、差し詰めあんたに名前付けるなら、空っぽの“エンプティ”かな?
悪口じゃねえぜ?賞賛さ。俺が手こずったの久しぶりだ。おかげで黒蜜まで出しちまった。
ハハッ!じゃあな、生きてたらまた会おう。
とどめは、あんたの部隊に入った時の楽しみに取っといてやるよ」
とどめを刺す時があるのか無いのか、まあ普通なら生きてまた会えるとは思えない状況だ。
だが、サトミはそう言い捨てて、ポケットから新聞紙の切れ端取ると刀を拭いて鞘に戻す。
倒れた男の顔にパッと血の付いた紙切れを散らし、先ほど投げたナイフを拾ってナイフベルトに戻すと、その場をあとにして山小屋へ向かった。
目からの情報がそぎ落とされ、意識がすべて暗闇の中に集中する。
昔の感覚が容易に戻り、清々しくさえ感じた。
“ お前は目が見えないくらいで丁度いいんだ ”
オヤジはそう言って、いつも見えないことにいらだつ俺の肩を、何度も叩いて抱いてくれた。
それは神が与えた、適切なハンデだと。
そんなもの、……そんなこと言われたって、俺には納得出来ない!
自分が異常なほどの感能力を持っているのは自覚があった。
小さい頃、感じることが出来たのは自分の周りの人間動物だけだったものが、成長すると知覚距離が伸び、草木、近くの無機物とどんどん増えていく。
ただ、見えないだけだ。
杖は飾りで生活に困ることは無く、転んだことなど一度も無い。
戦争が激しくなって身を守るものが欲しいと、オヤジに会いに来ていた鰐切のおっさんにもらしたら、最初試作品の刀を譲ってくれた。
銃はリーチが遠くて誰に当たるかわからない、でも、刀なら相手を知って戦えるだろうと。
サトミは思った以上に刀を使いこなし、町外れで遊んでいた妹たちがゲリラにさらわれそうになった時には、大人たちが来る前に敵の半分を倒して守り切った。
その時、刀は折れて鰐切のおっさんは、今度は正式にサトミの為に打った刀を送ってくれた。
出世払いだと。
それが今、サトミの背にある。
見えなくても家族は守れる。
それでも、家族の顔が見たい。
空の色がどんな色か、澄み渡る青い空がどんなものか。
だから、目の治療をエサに軍に釣られた。
それでも後悔はしていない。
シャープなセンサーが敏感に周囲を探り、追跡する敵の気配を容易に感じ取った。
サトミがふと顔を上げてニイッと笑い、その場から飛び出す。
やがて、木が倒れ、ひらけている場所で立ち止まった。
追跡者は音も立てず、ぐるりとサトミの左に回り込む。
左手のサバイバルナイフを背後の腰に直す。
投げナイフを一本取って投げた。
避けられた、と同時に撃ってくる。
パンッパン!
避けると同時にもう一本投げる。
金属音がして、相手はまだ倒れない。
「チェッ、銃で弾かれたか。」
敵はなかなか手強い。
なのに、サトミは楽しくてワクワクしてくる。
「俺、本気になっていいのかなあ、なあオヤジ。
怒るなら、帰ってからにしてくれよ?俺は生きて帰るから。
ククックッ、さあて久しぶりだな、黒よ付き合ってくれよ、俺の本気によ」
雪雷を鞘に直し、そのまま柄を握って鞘をグッと倒す。
パンパンパンッパン!
「ハハッ!当たるかよ!」
避けながら、数歩退いて鞘の下のフックを外しスライドさせた。
中から黒い柄紐の鍔の無い刀の柄が現れる。
それを逆手で掴み、グッと引き出した。
「黒蜜よ、オヤジはいねえぞ、怒られないから存分に暴れろ!」
クルリと手の中で刀を返し、一気に追っ手に向けて走り出す。
パンッパン!
スッと避けて、ナイフベルトからナイフを取る。
追っ手は後ろに引いて行く。
「ハハッ!そのスーツの性能を見てやるぜ!」
2人の間の木の気配が途切れた。
その瞬間、一気に黒蜜を左から振り下ろす。
ガキンと小さな衝撃音がして、柄から外れた刃が飛んで行く。
「ひっ!」
ワイヤーを伝い、ドスンと手応えを感じたあと小さく悲鳴が聞こえた。
間髪入れず、黒蜜を引く。
「くっ、ハハッ!何が高性能の防弾防刃スーツだよ!なあおっさんよ!」
柄の中のモーター音が響き、ワイヤーが巻き取られて黒蜜の刃が柄に戻ってくる。
キュウウウゥゥンッ!ガキンッ!
刃を柄に戻し、一気に駆け寄りながらスローイングナイフを投げる。
相手がよろめきながら避けた瞬間、サトミが刀を振りかざし、追っ手の黒い戦闘服の男に飛びかかった。
「くっ!」
とっさに銃で受けるその銃身ごと、黒蜜が肩口から切り裂く。
ガインッ!ザンッ! 「がっ!」
切られながら男は、サトミにナイフを振りかざす。
サトミがその刃を黒蜜の柄の頭で弾き、更にもう一太刀、腹を切った。
「ぐがっ!お、ぐうゥ!!」
ドサリと男が倒れ、血を吐きながら起き上がろうと身じろぎした。
更に切られた傷から血があふれ、諦めて天を仰ぐ。
辺りには、男のヒューヒューと荒い呼吸の音が響き、一瞬で負けた自分に信じられないのか自分の胸を押さえると、血に濡れた手を見つめてブルブルと震えた。
血にまみれて息をつきながら、じろりと視線を向ける。
サトミが笑って彼の首元に刃を向けた。
「よう、あんたがサイに見張り頼んだのってこう言うこと?
へえ、やっぱ高性能なのかな?
普通の服ならあんた3つ4つに分かれてると思うんだけど。」
男は、サトミの監視役の黒服の男だ。
血を吐きながら、相変わらず無表情でサトミがククッと笑う。
「ま、いいや。
あんたがあの人の部下なの知ってるけど、これって俺の入隊テスト?
それとも単に気に入らねえから殺す気だった?
テストだったら合格なのか、あんたに聞いても答えはわかんねえよなあ。
判断すんの、あの人だろうし。
あんたなかなか面白かったぜ、差し詰めあんたに名前付けるなら、空っぽの“エンプティ”かな?
悪口じゃねえぜ?賞賛さ。俺が手こずったの久しぶりだ。おかげで黒蜜まで出しちまった。
ハハッ!じゃあな、生きてたらまた会おう。
とどめは、あんたの部隊に入った時の楽しみに取っといてやるよ」
とどめを刺す時があるのか無いのか、まあ普通なら生きてまた会えるとは思えない状況だ。
だが、サトミはそう言い捨てて、ポケットから新聞紙の切れ端取ると刀を拭いて鞘に戻す。
倒れた男の顔にパッと血の付いた紙切れを散らし、先ほど投げたナイフを拾ってナイフベルトに戻すと、その場をあとにして山小屋へ向かった。