第2話 異常で普通のガキ

文字数 2,301文字

サイが、少年の姿に怪訝な顔をする。

まさか、こいつがあのうわさの、イレギュラーで特別扱いな奴か?

「この、少年兵の監視?サポート?
軍に入ったばかりのこの子を、俺がサポート?
変じゃないですか?
実戦経験は?お前いくつだ?」

「あー、俺11,もうすぐ12になるよ。
実戦はなー、訓練でちょっとやった。訓練ぬるくて、すぐ飽きちゃった。
めっちゃ怒られんのは、敬礼のやり方と言葉遣いかな。
教官さ、病気?人間の顔って、赤くなったり青くなったり面白え。」

ククッと笑って、ソファーの背もたれに座り足をブラブラさせる。

「あれこれさ〜、短期で色々詰め込んだって俺はそんな頭良くねえよ、すぐ忘れちまう。
とりあえず今は、文字覚えるので精一杯。あとは挨拶だけ覚えとくわ。」

そう言って、手の向きが微妙な敬礼してみせる。

「飽きた?!訓練を?!」

舐めた野郎だと、サイが歩み寄り、椅子から降ろそうと殴るつもりで拳を上げた。

ブン!

拳が、風を切ってガキの頬を目指すが、ひょいと避けられ空振りした。

「チッ!避けるな!」

「やだよ、当たると痛いじゃん?」

「この!」

顔を諦め、腹を狙うが、パンと払われ横に流れる。

なんだ?俺は、思い切り力を入れていたぞ?

奇妙さに引っかかりながらムカついて蹴りを繰り出そうと足を引くと、首を振った。

「やめときなよ、マジで膝砕くよ。」

「うるさい!」

構わず蹴り出す足を、上へパンッと蹴られてひっくり返る。
妙に力が強い。子供の力と思えない。
何だ?何だってんだ、このガキは!

「く、くそっ!」

カッと頭にきたサイに、司令がコンコンとデスクを叩く。
サイはさっと立ち上がって、敬礼した。

「失礼しました。」

「そいつは見かけより強いらしい。
なんでもわしらが知らぬ上の方の気に入りらしくてな、普通の少年兵の扱いじゃ無い。」

司令と二人、怪訝な顔でガキを見る。
どうにも解せない。

「普通じゃ無い?
お前、じゃあ銃は?銃の扱いとか、爆発物に長けてるとか?」

「俺、ごく普通〜のガキだし、そんな物騒な奴じゃねえもん。」

「じゃあ、スナイパー?」

「えーと、あの長ーい銃?ん、まあまあ当たる。マジメにやれば、もっと当たるかな。
外じゃ、まだ俺、ゴーグルと目薬離せないんだ。あんま目を酷使すんなって言われてるから。」

言葉を失う。
一体何が特別なんだ?

「俺たちは戦争しているんだぞ?子供の遊びじゃ無いんだ。
お前に人が殺せるって言うのか?
いいからここに立て!」

舐めた様子のガキに、大尉の前だという事も忘れて突っかかってみる。
だが、子供は足をブラブラしたまま、至極真面目な顔で少し考えて目を閉じ、大きく息を吐いて顔を上げた。

「うん、…今は、戦争だろ?殺さなきゃ殺される。俺が殺さなきゃ、誰かが殺される。
それで色々あってさ……こんなとこにスカウトされたんだ。

俺は、ずっとオヤジに鍛えられてた。俺が死んだらお前が守れって。
遊びの中で俺がやってたのは、訓練と同じ事だった。
俺、ビックリしたよ。

俺の住んでたところは何度も市街戦やってる。
俺、……軍に来る前ももう、人を殺しちゃった事…あるんだ。」

「引き金を引けるのか?人間に。お前みたいなガキが。」

真顔でそう言ったのに、子供はプッと吹き出す。
本当に大人を舐めたガキだ。

「あんた、ほんとに軍人?少年兵なんてさ、この国ワンサカいるじゃん。
クソみたいな扱いされててバカじゃね?俺はあんなもの見たくねえよ。

上の大人って、頭ゆるんでんじゃねえの?
ガキなんてさ、褒めて美味いものでもやっとけば、今の倍働かせても喜んでやるぜ?
ガキの使い方考えろよな?」

「わかった風なことを言うな!
貴様、軍を舐めているな?ここに来る前は?」

「えっと、第5……歩兵師団……って言ってたっけ?
俺の指導になったおっさん、ストレスで体調崩しちゃってギブアップ。ハハッ!
俺、こう言う救出作戦に参加するの初めてだから、きっと迷惑かけると思うけど、よろしく。」

そう言って、やっとソファーの背もたれから下りてサイに手を出す。
サイは火を噴く思いを抑えて、思ったより少し大きな手を思い切り力をこめて握る。
だが、逆にもの凄い力で握りしめられて、悲鳴を上げた。

「き…さまっ!握力は?!」

「握力って、握る力?わかんねえや、メモリ振り切れたから。」

「  はあ???  」

「俺の馬鹿力はオヤジ譲りさ、おかげで家壊してしょっちゅう怒られてたんだ。
俺に部屋決めるなら、頑丈なドアのところにしてくれよ。
物壊しても、不幸な事故だから怒るな。」

言い捨てると、ドアを開けてキョロキョロ見回す。
ため息ついて、胸をさすった。

「黒服おっさんいねえな〜、あーなんかモヤモヤする。
腹減ったなあ、えーと、なんだっけ?あんた偉い人?なんか食わせてよ。
お菓子あったら嬉しいなあ、あっ!無くてもノープロブレム、ここ戦場だし。

あとさ、牛乳ある?ココア飲みてえんだ。
ココアと砂糖は買ってもらっていっぱい持ってるから、牛乳!」

大尉が、青筋立ててヒクヒクしている。
こんな無礼なガキは初めてだ。
緊張のかけらも無い。

「あ、俺、言葉はしゃべれるけど、文字の読み書き出来ないから。
あと、俺を殴ろうとするな。ビックリして殴っちまうかもしれねえ。
なんか、今まで三人ばかり病院送りになっちまって、バレたらオヤジに石持ち5時間とかさせられちまう。
は〜、怖い怖い、俺は気が小さい普通のガキなんだぜ?」

そう言うこの異常で普通のガキは階級なんて全然気にしない馬鹿野郎で、ヒマさえあればどこからせしめたのか牛乳持ち出して、携帯コンロでココアを作って、幸せそうに飲んでいる。
ポケットの袋にはキャンディや角砂糖が沢山入っていて、見ていて嫌になるほどガリガリかじっていた。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀。

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・サイ・ロイン軍曹

第11歩兵師団、軍曹。負傷して治療後、兵の教育を行っていた。サトミの監視、行動の把握、逃がすなと命令される。気のいい奴。おっさん。

・黒服

カラン・グレイル、30代。白髪、ブルーの瞳。

ある部隊から派遣された。サトミの監視と逃亡防止、行動の報告の為に常に同行している。

サトミから一時離れる為、サイに監視を頼む。

・ボス

ある部隊のトップ。軍人では無い。

ある部隊は軍では第一師団の特殊部隊と言う認識で通っている。殺し屋、殲滅部隊。

サトミは自らスカウトした。

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