【第8話】入学の朝4
文字数 2,057文字
おでこに爪を立て頭の中を整理する。モカちゃん、彼女は一体何者なんだろう。一体今、ここで何が起こっているのだろう。
思考を巡らす最中、教室内に波が起きた。荒れ狂う波は小さな犬耳少女へと襲い掛かる。ショートカットの『浪花圭子』ちゃんが犬耳少女『モカ』ちゃんへと言葉を掛けた。
胸の前で指を組んで、おずおずと口にする。
モカちゃんは幾多の視線に揺るぐこと無く大きな瞳をぱちくりさせる。
という当然の質問にも、
と、モカちゃんは惑わず応えた。 友人は皆一様に首を振る。
なんて言っては座席を背にゆっくりと伸びをしている。戦いの証拠たる犬耳は、頬のススを扇ぐようにゆらゆらと揺れていた。
と、浪花さんは顔の向きを180度変え、教室前方の大柄な男の子へと顔を向ける。その視線に若干殺気がかったものを感じる。
大柄な男の子『いっくん』は左右の目を指圧し、浪花さんを蔑むように見つめた。
そう言い放つ。
「……魔法」「魔法?」「いや、あれは魔法というか……」「ま、魔法かぁ」
皆が頭を抱えている。
辺りは、うーうーと唸る声に満ち、宛ら何かの病気に感染したような有様だ。いっくんは瞳を伏せている。私には彼の考えていることがいまいち分からない。悔しくて、うーうー、だ。
不意にモカちゃんと目が合った。モカちゃんは満面の笑みで私へ手を振っている。
皆が頭を抱えている。
辺りは、うーうーと唸る声に満ち、宛ら何かの病気に感染したような有様だ。いっくんは瞳を伏せている。私には彼の考えていることがいまいち分からない。悔しくて、うーうー、だ。
不意にモカちゃんと目が合った。モカちゃんは満面の笑みで私へ手を振っている。
そんなモカちゃんの笑みを前にしたら、何もかもがどうでも良く思えて……、私もモカちゃんに笑いかけた。
私の言葉にクラスの皆が頷く。モカちゃんの、慌て、そして俯き頬を染める姿に皆が爆笑した。みんなみんなが全身を使って笑った。
皆のその笑顔は、他のどんな芸よりも心和ますものだと、有り難いものだと、笑顔の中で私は思ったんだ。
皆のその笑顔は、他のどんな芸よりも心和ますものだと、有り難いものだと、笑顔の中で私は思ったんだ。
帰宅した私とモカちゃんの声に応える音がある。
「わんわ」「にゃ〜」「きゃんきゃん」「うにゃ〜!」「ばうばう」「にゃ〜、にゃ」「わんでしゅ」「わんわん」「貴様、畜生の分際で俺の頭の上に乗るとは、……殺されたいようだな」「わん?」
この犬くん猫ちゃん達は全て、柊家の一員だったりする。
私の掛けた言葉に再び合唱が沸き起こる。
『パブロフ』と呼ばれた犬くんは私の飼っているセントバーナードだ。パブロフは前足をもたげいっくんの膝をぺろぺろと舐めている。
その反対側、『ぶっち』と呼ばれた猫ちゃんも私の飼い猫だ。彼女はモカちゃんの頭に飛び乗りその犬耳を引っ掻いている。
私の声に全ての犬猫、果ては外を跳ねていた小鳥までもが動きを止めた。
お外の小鳥を含む全ての動物が私の声に応えてくれた。
お外の小鳥を含む全ての動物が私の声に応えてくれた。
これらの動物は皆、(さすがに小鳥は違うけれど)私の家で育てられている子供達だ。私は捨てられた彼らを引き取り、新しい飼い主が現れるまで面倒を見ている。その数は家の中で可能な限り、というかその上限は既に突破しているのだけど、私は道端で鳴き続ける彼らを見過ごすことが出来ない。結果、その数を日ごとに増やしている。
私自身、そして真衣お母さんも喜んで行っていることである。
私自身、そして真衣お母さんも喜んで行っていることである。
私の声に家族が応えた。
改めて言うことではないけれど、私はみんなが好きだ。家族の一員、守るべき存在だと強く認識している。
改めて言うことではないけれど、私はみんなが好きだ。家族の一員、守るべき存在だと強く認識している。
――見渡す大地は春色に染まっていた。
緑の草々、その絨毯に犬、猫、小鳥、モカちゃん、いっくんの姿が映えている。
花が咲きほこる川沿いで私は皆に言葉を掛けた。
緑の草々、その絨毯に犬、猫、小鳥、モカちゃん、いっくんの姿が映えている。
花が咲きほこる川沿いで私は皆に言葉を掛けた。
緑が揺れる。子犬が、子猫が、小鳥が、……家族が一斉に駆けてくる。みんなみんなが、私に向かって走り寄る。
わんわん、にゃー、ちゅんちゅん、と皆が応える。
子犬、子猫、小鳥、幾多の抱擁が私を押し倒す。それは花と緑を撒き散らした。家族、皆の笑顔は、……眩しすぎた。あまりにも無垢だった。
子犬、子猫、小鳥、幾多の抱擁が私を押し倒す。それは花と緑を撒き散らした。家族、皆の笑顔は、……眩しすぎた。あまりにも無垢だった。
光を纏った家族が緑の中で踊っている。私はそんな皆と草原中を走り続けた。
息を切らせて見上げた空は、……暖かく私達を見下していた。
息を切らせて見上げた空は、……暖かく私達を見下していた。