【第1話】出会い。
文字数 803文字
寒風が桜の花びらを舞わせる中、町中央にあるゴミ捨て場で、私は1人の女の子を前に立ち尽くしていた。それは日の香りと廃棄物の金属臭が混じる、日曜日午前9時のいつも通りの『ひたちなか』で遭った出来事だ。
お手伝いとしてゴミ袋を運んでいた私、その前へ全身に黒い跡を残した女の子が現れた。
その女の子の頭には所々黒く染まった赤のリボンが座っていて、パッと見、黒く見えた部分は鎧を纏った胸から腰に集中していた。
決して逃がさないように、それでいて慈しむように女の子は先日幼稚園に上がったばかりの私『柊(ひいらぎ)なゆた』を見ていた。私も女の子の姿と、その女の子の壊れそうなほど歪んだ眼差しを見ていた。
……私の胸は高鳴った。
不気味とか、そんな怖い想いじゃない。初めて手に取った絵本を開くときに感じたあの、ナニカが始まるような期待感を覚えていた。その女の子の存在は私の『始まり』であるように思えた。
女の子は背のバッグから取り出したものを私に手渡し、こう口を開いた。
女の子は胸を押さえ、苦しそうに、眉をしかめながら私に笑いかける。
その声を聞いてそのとき初めて、自分が汗を掻いている事に気が付いた。足が、身体全体の震えが止まらない。
震える手を無理矢理抑えつけ、私は女の子から受け取ったものに目を落とす。
それは色褪せた、……『私の名前』が記された1冊の絵日記だった。
ページをめくる。
四月○日、晴れ。
今日、なゆちゃんはゴミ捨て場で なんと、とんでもないお宝を発見したのだ! それはね! ――
顔を上げると女の子は忽然と居なくなっていた。
辺りには桜の花びらが1枚、2枚と流れている。そして、いつもどこかで嗅いでいたような甘い香りが、……私の周りを漂っていた。