【第5話】入学の朝1
文字数 2,050文字
見下ろした校庭には蟻型ロボが立ち並ぶ。
それらはこの『桜坂西高校』に群れを成して攻め入った。
世界は色を無くし、私達子供と蟻型ロボ以外の活動を封じているようだ。
それらはこの『桜坂西高校』に群れを成して攻め入った。
世界は色を無くし、私達子供と蟻型ロボ以外の活動を封じているようだ。
サトウさんが赤い角の付いたロボットからモカちゃんを指差す。
3階教室のベランダから全てを見下ろすようにモカちゃんが立っている。
3階教室のベランダから全てを見下ろすようにモカちゃんが立っている。
クラスメイトの1人が黒板の前に立つ教師、その丸眼鏡の上から手を翳し反応を確かめていた。初老の教師は瞬き1つ行っていない。灰色の世界、その一部と為っているのだろうか。
モカちゃんの言う事は尤もだ。
サトウさんの言葉に耳を貸すことなく、モカちゃんが宣言を下す。剣の輝石『フリーシー』が光を放った。
「何これ?」「特撮番組の収録?」「あのおっさん誰だ?」
色々な憶測が辺りを飛び交っている。
視線を窓際に移す。
モカちゃんはベランダの淵に危なげなく立っていた。頭部にある赤のリボンはゆったりと宙を泳ぎ、その前には犬耳が切り立つようにそびえる。
一瞬の後、その身体は戦闘態勢を整えた。
白銀の胸当て、真っ赤な篭手、右手に構えたのは一振りの蒼い刀身だ。
視線を窓際に移す。
モカちゃんはベランダの淵に危なげなく立っていた。頭部にある赤のリボンはゆったりと宙を泳ぎ、その前には犬耳が切り立つようにそびえる。
一瞬の後、その身体は戦闘態勢を整えた。
白銀の胸当て、真っ赤な篭手、右手に構えたのは一振りの蒼い刀身だ。
……そもそもどうしてこんなことなったのだろう?
意識を少しだけ巻き戻した。
意識を少しだけ巻き戻した。
午前9時きっかり、体育館の壇上から生徒会長がその白い歯を光らせている。
モカちゃんと出会って2日後の今日、高校生活の第一業務たる入学式がやってきた。
左隣りに座る幼馴染、桜壱貫(さくら いっかん)の声が耳に届く。
その声に対抗するように右隣りから可愛らしい声音が耳をくすぐった。
左隣りに座る幼馴染、桜壱貫(さくら いっかん)の声が耳に届く。
その声に対抗するように右隣りから可愛らしい声音が耳をくすぐった。
一、二、三、四……。震える身体を抑えつけ、私は左手のひらに『犬』を書く。手を翳し、……飲み込む。
小声で唸った私に、モカちゃんが優しく微笑みかけた。私の目の前、30センチ程先にはモカちゃんの薄紅色の頬がある。
……整った顔立ちに長いまつ毛、小さな鼻、淡いピンクの唇、それはまさに美術品のようだ。
思わず見惚れてしまう。やっぱり何度見ても彼女、犬耳のモカちゃんは抜群に可愛かった。
思わず見惚れてしまう。やっぱり何度見ても彼女、犬耳のモカちゃんは抜群に可愛かった。
入学式が始まる前、登校の最中から自分を突き抜けるような視線を私は幾度も味わっていた。
制服の塵を払う幼馴染『いっくん』に話しかける。
制服の塵を払う幼馴染『いっくん』に話しかける。
『いっくん』は大きく嘆息した。腕を組み替え彼は答える。ハの字に開いた股下はどことなく凝視し辛い。
憎々しげに鼻を鳴らしている。
実はモカちゃんといっくんの出会いにはちょっとした逸話がある。
先日『いっくん』に買い物を付き合ってもらった時のことだ。
先日『いっくん』に買い物を付き合ってもらった時のことだ。
私の春服を選ぶ為に3人で買い物に出かけた。それが初対面だった『いっくん』と『モカ』ちゃんはお互いにどこか交わらぬ空気を感じ取ったのだろうか? 互いを牽制しつつも、モカちゃんは緑のキャミソールを、いっくんはピンクのカットソーを推してくれた。私は悩んだ末に決定を2人に委ねたのだけど、それがよくなかったのかもしれない。2人は各々の主張をしきりに訴え、口論に発展した。それでも結論は出ず、今度は路上での取っ組み合いが始まってしまった。
お互い大した怪我も無く終わったのだが、焦点となった2つの衣類はぼろ布と成り果てた。野次馬が群がる中、私以下2名、店から来店拒否を仰せつかったのである。
そう。この2人はお互いに出逢いの印象が最悪だったのだ。
頭を抱える私の隣で手を打ち鳴らす音が聞こえる。
頭を抱える私の隣で手を打ち鳴らす音が聞こえる。
そうか。こやつ魔法を掛けたのだな! 己の魅力の無さに業を煮やしたのだ。
飄々とした現状から時を窺い、満を期してその耳に秘めた魅了の魔法を解き放ったのだ。それは下々を己の虜にさせ、後々の世で反逆の牙を向くのであろう。
ということはあの耳は肉食獣のそれに違いない!
飄々とした現状から時を窺い、満を期してその耳に秘めた魅了の魔法を解き放ったのだ。それは下々を己の虜にさせ、後々の世で反逆の牙を向くのであろう。
ということはあの耳は肉食獣のそれに違いない!
「愉快愉快!」と声を上げるいっくんの肩を先生が叩いた。のだけれど、
興奮を露わにする『いっくん』、その大柄な体躯を止める事が出来ず、先生は目で助けを求めている。
長く息を吐き出す。壇上、御高説を宣う教頭先生の前頭部を眺めてみる。
うん。ちょっと、……眩しい。
うん。ちょっと、……眩しい。