【第6話】入学の朝2
文字数 2,052文字
入学式を終えて教室ごとのホームルームが始まった。前述は出席番号11番、桜壱貫こと『いっくん』のものだ。いっくんの自己紹介にクラスメイトの表情が和らぐ。その逸脱した物言いに便乗し何人かが談笑している。いっくんは左右のクラスメイトと固い握手を交わしていた。
そして、――佐藤邦弘、竹内由美、田中正宗、と休み無く続き、ついに『柊なゆた』の番が来てしまった。
いっくんの発言と場の穏やかな空気のおかげで、私に先ほどまでの緊張は無かった。あの『犬』のおまじないが効いたのかもしれない。
そして、――佐藤邦弘、竹内由美、田中正宗、と休み無く続き、ついに『柊なゆた』の番が来てしまった。
いっくんの発言と場の穏やかな空気のおかげで、私に先ほどまでの緊張は無かった。あの『犬』のおまじないが効いたのかもしれない。
柊なゆたです。う〜ん、趣味は読書かな? 運動も大好き! 動物も大大だ〜い好きっ!! 皆さん、不束者ですが今年1年『柊なゆた』を宜しく!
ちなみに、いっくんは私の幼馴染で在って、旦那様ではないのです。以上!
ちなみに、いっくんは私の幼馴染で在って、旦那様ではないのです。以上!
クラス内が笑いで満ちた。額を押さえる『いっくん』が前後のクラスメイトにつつかれている。しかし『柊なゆた』の物言いなんて物ともせず跳ね除けるのが、桜壱貫が幼い頃から桜壱貫である所以なのだと思う。
叫んで彼は立ち上がり、
指を2本、人差し指、中指の順で立ち上げる。それは勝利のサインでは無く、
『パフェ2つまでなら出そう。だから少しは考えてくれ』
そういう意味合いではなかろうか。
『パフェ2つまでなら出そう。だから少しは考えてくれ』
そういう意味合いではなかろうか。
私は彼に向かって指を1本を立ててみる。
『1つでいいよ』では無く、
『なら、こうしよう』という譲歩の意だ。
『1つでいいよ』では無く、
『なら、こうしよう』という譲歩の意だ。
前に座る友人ごと机を張り倒し『いっくん』は力瘤を作った。前後左右の友人から身体を叩かれている。そして対象となった私にも盛大な拍手が送られた。それはそれで恥ずかしい。
そして、――お次はこの人。皆の視線を一身に受けての起立だった。
『柊モカ』ちゃん。私の姓を借り束の間の転入手続きを経て、入学式に登場したツワモノだ。指定の制服に身を包み、小さくも整った容姿、頭上でたなびく犬耳を引っさげての出陣なのだ。
『柊モカ』ちゃん。私の姓を借り束の間の転入手続きを経て、入学式に登場したツワモノだ。指定の制服に身を包み、小さくも整った容姿、頭上でたなびく犬耳を引っさげての出陣なのだ。
出陣して早々、犬耳の騎士は雄雄しき巨漢に挑みかかった。ちなみに『いっか』とはもちろん、
彼、通称『いっくん』のことである。いっくんは喧嘩上等といった様子で、席を立ち拳を鳴らしている。
喉の深いところから息が漏れる。
……私は思うのだ。いっくん、モカちゃん、この2人と出会ってから、私の周りから平穏が消えたんじゃないか? って。
……私は思うのだ。いっくん、モカちゃん、この2人と出会ってから、私の周りから平穏が消えたんじゃないか? って。
静まり返った室内へ担任の高藤先生の声が分け入った。
いっくんの視線に脅えるでなくモカちゃんは教卓の高藤先生へと向き直った。
恐怖ではなく、未練に似た眼差し、その色香さえかもし出す視線に思わず見惚れた。
恐怖ではなく、未練に似た眼差し、その色香さえかもし出す視線に思わず見惚れた。
一息、モカちゃんはかすれた声を吐き出した。
その姿は儚くて、守ってあげたくて、それには何をどうすればいいのだろう! って、どうしてあげればこの子は笑ってくれるのだろうか? って、
私はただただモカちゃんを想った。
その時、私の脳にナニカが映った。
私はただただモカちゃんを想った。
その時、私の脳にナニカが映った。
【――ね、まあ……】
それはザラッとしていて、それでいて懐かしさを覚えるような親子の絵だった。
「――おい、あれ何だよ?!」「誰だ、あのおっさん?」「ろ、ロボット? な、なんで!」
意識を戻すと、教室内、そして他の教室からもざわめきが起きている。窓から顔を突きだした。
そこにはあの『サトウ』さんが居た。そして以前見た蟻型巨大ロボが後に連ねている。
モカちゃんを振り返ると、その頭部にある犬耳が吠えるように逆立っていた。
モカちゃんを振り返ると、その頭部にある犬耳が吠えるように逆立っていた。
空から届いた『フリーシー』の声で世界は替わった。お日様を浴びていた現代日本が色褪せた鈍色の空間へと変わり果てたんだ。
ベランダの柵にモカちゃんが飛び移る。そこに儚い、寂しげな少女は居なかった。灰色の世界に燦然と輝く戦士の姿が在ったんだ。