【第7話】入学の朝3
文字数 2,789文字
モカちゃんの赤が大気を駆ける。モカちゃんを阻もうと巨大蟻ロボットが空間に蜘蛛の巣状の網を組む。その網の数は校庭、否冷めた灰色の空間に幾十、その網は増え単位は瞬く間に百を超える。
ところ狭しと張り巡らされた網を掻い潜りモカちゃんが鋭角に抜けた。三次元を『弐』の次元で踏破する。
ところ狭しと張り巡らされた網を掻い潜りモカちゃんが鋭角に抜けた。三次元を『弐』の次元で踏破する。
サトウさんが部下に何かを命じている。コクピット上から手を振ってコンタクトを取っているようだ。しかしモカちゃんの勢いは止まらない。空を駆けながら1つ、逆手の剣で蟻型兵器に蒼い線を引いた。
瞬きの間に機械が爆ぜる。灰色の爆風にモカちゃんの髪がたなびく。赤き残像を残すように駆け、彼女は再び刃を振るう。
鋭い破砕音が鳴り響く。膨れ弾ける白煙はモカちゃんをコンマ数秒の間だけ隠した。モカちゃんが消えた先には3度目の爆発が立ち上がる。
瞬きの間に機械が爆ぜる。灰色の爆風にモカちゃんの髪がたなびく。赤き残像を残すように駆け、彼女は再び刃を振るう。
鋭い破砕音が鳴り響く。膨れ弾ける白煙はモカちゃんをコンマ数秒の間だけ隠した。モカちゃんが消えた先には3度目の爆発が立ち上がる。
皆が見守る中、――そこに日常が紛れ込んだ。戦場には相応しくない学ぶ為の制服が爆風に煽られていた。
いっくんが姿を現した。この非日常に臆することなく幾十のロボットへ歩を詰める。
教室の扉を開け放つ。私は夢中で走った。転びそうになるけど靴へ半端に足を通し先を急いだ。
勢いを以って走り抜けた先、鉄臭い煙渦巻く校庭に私は辿り着いた。
教室の扉を開け放つ。私は夢中で走った。転びそうになるけど靴へ半端に足を通し先を急いだ。
勢いを以って走り抜けた先、鉄臭い煙渦巻く校庭に私は辿り着いた。
目の前には蟻型ロボへ語りかけるいっくんの姿があった。その足は踏みしめるように前へ進んでいく。私の声にも止まってくれない。
いっくんは地面を均すT字型の金属片を振り上げた。彼の腰程の高さもある校具を鉄の武器として蟻型ロボへ振りかぶった。
いっくんは地面を均すT字型の金属片を振り上げた。彼の腰程の高さもある校具を鉄の武器として蟻型ロボへ振りかぶった。
――金属同士の衝突に校具の先が吹き飛ぶ。『トンボ』と呼ばれるそれは半ばから折れ曲がった。誤って落ちた花瓶のように、――それは崩れていく。
あり得なかった。普通の力では弾かれるのが関の山だ。しかし、いっくんには痺れる衝撃すら無いように見える。無茶苦茶だった。
いっくんが『トンボ』を叩きつけたロボットの持ち主、サトウさんの声が響いた。
いっくんが『トンボ』を叩きつけたロボットの持ち主、サトウさんの声が響いた。
見定めるようにサトウさんがいっくんを指差す。
威圧的な眼差しでいっくんはサトウさんを見る。その不遜とも思える発言にサトウさんが頷いた。
しかし普通の人間に鋼の巨蟻、時の硬化すら阻むこの兵器を壊すことは出来ますまい。この時代の科学力では尚更です。超越した力の発現体、真紅の狩人が用いる『紅狗(こうく)フリーシー』やこの、……『黒熊(こくゆう)ブロウ』を用いるでもしませんと。
サトウさんが黒毛の耳飾り、クマのそれを懐から取り出す。サトウさんの後方では新たな爆発が起こった。
――皆が見守る中、いっくんは爆風にも揺らぐことなく堂々と腕を伸ばした。
――皆が見守る中、いっくんは爆風にも揺らぐことなく堂々と腕を伸ばした。
爆風が髪を煽る。減ってゆくロボットの数に焦ることなくサトウさんは答えた。その手に持ったクマ耳は烏羽のようにシットリと輝いている。
サトウさんはいっくんに体に寄せ、その耳に仮面の口部分を近づけた。
サトウさんはいっくんに問うた。質問に答えるでなく問いかけた。凛と響くその声は私の耳にもはっきりと届いた。
爆発の只中、黒服のサトウさんを見、いっくんは逆に問いかける。幼子のようにその目が輝いていた。
その問いにサトウさんは答えない。サトウさんの胸元の黒いカチューシャが答えていた。
いっくんは更に問いかける。私が見つめたいっくんの瞳はいつにも増して煌いていた。
クマ耳は強い闇色の輝きを放つ。
いっくんも満面の笑みで応えた。一列に整った歯を大気に晒して微笑んだ。
クマ耳はサトウさんの手からいっくんの手に移り、その黒の輝きを強くしていく。
クマ耳の問いにいっくんの指は空を射した。
空ではひと際強い光が起き私達を覆った。
いっくんの額に巻かれたカチューシャは溶けるように黒のバンダナへと形を変える。黒い石を宿す漆黒の篭手がいっくんの右腕を覆った。その先から鋭い鉤爪が伸びていく。
サトウさんの部下?達がスピーカー越しに多々の不満を訴えている。
大地に根付いた黒い凶器、桜家のいっくんは巨大蟻型ロボットへ視線を向けた。私が見つめる先にはいっくんのしたたかな笑みが在る。
――破砕音が奔る。――沈むような炎上音が響いた。
サトウさんの声といっくんが描いた鉤爪の円舞、どちらがどれだけ速かったのだろう。灰色の世界を動ける何人が確認出来たのだろう。
私が確認出来たのは虚空を描く巨大な黒い旋風、それだけだった。
サトウさんの声といっくんが描いた鉤爪の円舞、どちらがどれだけ速かったのだろう。灰色の世界を動ける何人が確認出来たのだろう。
私が確認出来たのは虚空を描く巨大な黒い旋風、それだけだった。
フリーシーのカウントが響く中、一際激しい瞬きが起こる。
一瞬。灰色の世界で起きた真っ赤な爆風が、いっくんを照らしていた。
世界と共に色を取り戻す校庭、そこに笛を鳴らす音が響きわたる。しかし体育教師が鳴らしたソレにだれ1人として応える者は居なかった。校内、校庭、辺りを覆う子供達が一斉に吠える。
歓声の中、赤き者、そして黒き者が校庭を歩んだ。
2人は瞳を交えることなく闊歩した。
2人は瞳を交えることなく闊歩した。
いっくんは先を歩く赤いリボンへ言葉を放る。
モカちゃんは黒き戦士を振り返りあかんべぇ。 きびすを返して私の方へ駆けてくる。
――世界は赤い戦士に続き黒き戦士を産み落とした。2つの色は交わるのか、分離するのか、私には解らない。ただ、
2人は私『柊なゆた』を見て笑ってくれた。幾百、幾千の人に埋もれても見失う事無く視ていてくれたの。……柊なゆたを選んでいてくれたんだ。