【第10話】終わってしまった世界。
文字数 2,000文字
【2034年、春。柊真紅(ひいらぎ まあか)】
廃墟となった街の片隅でマァマが苦しんでいる。全身を赤と黒に染めたマァマを、誰も助けられるヒトは居なかった。ヒトというヒトは火の中に葬られていた。
お医者さんなんて居る訳ない。けれど、ボクは希望を断ちたくなかった! マァマから流れる血を上着で覆う。ママの傷ついた手を抱きしめる。これはきっと夢、また触れ合えるよう強く願った。
大丈夫でしゅよ! って、瞳から零れるものを塞いでマァマを応援した。 希望は、絶対に有る! 信じ続ける!
――マァマの手がボクの頬に辿り着いた。汗の溢れる目の淵をその手が撫でてくれた。赤に染まった腕が誰よりも優しくボクに触れる。
涙は止まることなくマァマの指を流れた。マァマの赤と混ざり合う。けれど、忌々しい赤の量に零れた涙は勝てなかった。
マァマは血に染まった腰から犬耳の付いた耳飾りを取り出し懸命にボクへ伸ばした。
それから更に待った。お医者さんじゃなくていい! 誰でもいい! 助けて! 願い待ち続けた。
けれど、マァマを救うモノは最後まで現れなかった。マァマの瞳が徐々に閉じていく。
『時間よ止まれ!』
何度も念じた。何度も!
――静寂の中、マァマの腕が地に落ちる。ボクとマァマを埃と風が追い立てた。もう、どうすればいいのか分からなかった。
流れた涙は血に吸われた。強く大地を叩きつける。それしかボクには出来なかった。
陽が落ちて紅く染まる中、ボクは犬耳の飾りを握り喘いだ。落ちゆく光が照らす大地には、
……ボク1人しか残っていなかった。
……ボク1人しか残っていなかった。
【2037年、夏。柊真紅】
変わってしまったこの世界をボクとフリーシーで駆け巡る。紅いリボンを纏いボク達は奔った。
あれから3年間、ボクは戦い続けた。マァマが守ろうとした人を、愛し続けた動物を、多くの友達を守るために。
頭上ではためく犬耳、マァマの形見に恥じぬよう戦い続けた。マァマの仇『ホーム・ホルダー』に反抗し、地を跳ね、空を駆けた。子供が子供を守るために創られた剣を振るった。
頭上ではためく犬耳、マァマの形見に恥じぬよう戦い続けた。マァマの仇『ホーム・ホルダー』に反抗し、地を跳ね、空を駆けた。子供が子供を守るために創られた剣を振るった。
2037年現在、ボク達『なゆちゃん王国』の生き残りはアフリカの地に逃げ延びている。補給経路を閉ざされボク達は苦しい生活を強いられていた。
時に『ホーム・ホルダー』の補給庫を襲うこともあった。生きる為には仕方なかった。ボク達は僅かな大地を耕し野菜を育てた。その実りはこのアフリカの地ではとても貴重なモノだった。
時に『ホーム・ホルダー』の補給庫を襲うこともあった。生きる為には仕方なかった。ボク達は僅かな大地を耕し野菜を育てた。その実りはこのアフリカの地ではとても貴重なモノだった。
野菜は美味しかった。『ホーム・ホルダー』から奪った肉よりも、マァマの笑顔みたいなお日様が育てた野菜の方が遥かに、比べることが出来ないくらい……美味しかった。
今日もボクはみんなの為に敵を狩り、みんなの為に鍬を振るう。
目蓋を閉じるとマァマの笑顔が今でも映る。
落ちた陽の中ボクは想う。あの時『フリーシー』が使えたら、あの時ボクが弱くなければ、マァマを……、きっと助けることが出来たから。
頭を振って、地面を打ち付けて過去を悔やんだ。
目蓋を閉じるとマァマの笑顔が今でも映る。
落ちた陽の中ボクは想う。あの時『フリーシー』が使えたら、あの時ボクが弱くなければ、マァマを……、きっと助けることが出来たから。
頭を振って、地面を打ち付けて過去を悔やんだ。
月明かりが差し込む中、おぼろげな光の中で涙が伝う。苦しくて、悔しくて、どうしようもなく、……寂しくて。
『――……真紅。つらいときには笑ってみるんだよ。苦しくても、悲しくても、めいいっぱい泣いてから、笑ってみるんだよっ!
悪いことばかりじゃなかったよね? って、ちょこっと思い返してみるんだよ。
するとね。みんな、真紅を包む周りのみんなも笑ってくれるの!
笑顔が人々を渡り歩いて、どこまでも夕焼けの後の星空みたいに、辺りに広がって輝いちゃうんだよっ! ――』
悪いことばかりじゃなかったよね? って、ちょこっと思い返してみるんだよ。
するとね。みんな、真紅を包む周りのみんなも笑ってくれるの!
笑顔が人々を渡り歩いて、どこまでも夕焼けの後の星空みたいに、辺りに広がって輝いちゃうんだよっ! ――』
……マァマの声が聞こえた。はげ落ちた屋根から夜空を見上げる。
星と月は黒い空で輝いていた。月の兎がボクを覗き込んでいる。
星と月は黒い空で輝いていた。月の兎がボクを覗き込んでいる。
星は数えきれない程の瞬きで、ボク達を覆っていた。まるで、ボク達を見守るように煌めいていた。