29:妖魔界からの情報 拡散大作戦!

文字数 2,459文字

「新種のウイルスで初の死者です」

 バタバタと支度をする麻里菜の耳に、ニュースキャスターの声が飛びこんできた。

「マジかよ……」

 七十代男性で、糖尿病の基礎疾患を持っていたらしい。そっか、基礎疾患とか関係してくるんだ。
 それ以上はもう時間がないので見られなかったが、麻里菜は電車の中でその詳細を知った。
 高齢者しか感染しない奇妙な新種のウイルス。基礎疾患を持っている人は症状が重くなりやすいらしいが。

 ていうか、高齢者で基礎疾患がない人って逆に珍しいと思うけど。

 ネットの記事を見ながら麻里菜は心の中でツッコむ。

『感染者の割合は七十歳以上が六十三%、六十代は三十二%で、五十代が五%で、四十代以下には感染の報告なし』

 麻里菜はこれを見て疑問に思うことが。

 インフルエンザなどのウイルスは、どの年代でもかからないところはない。高齢者や子供はかかりやすいらしいが、ここまで高齢者ばかりに偏る理由が分からないのだ。子供にかかってもおかしくないはずだが、誰一人としてかかっていない。
『新種』だからと片づけてしまえば通りそうな理屈だが、それも違う。

 麻里菜は、昨日マイに聞いてくればよかったと後悔した。






 しかし、麻里菜が尋ねるより早く、向こうからある情報が届いていた。
 家に帰ると、サフィーは『着信』を知らせる青くぼんやりとした光を放ち始めた。

「こっちでも調べてみたけど、こっちにしかないウイルスかもしれない。抵抗力が極端に弱い人が発症するんだけど……」

 すぐあとに少し早口でマイの声が再生される。

「風邪みたいな症状が出て、抵抗力が弱いからすぐに重症化しやすくて。でも、高齢者だけがかかるっていうのは聞いたことがない。もしかしたらウイルスが変異したのかも」

 いくらマイでも、細菌やウイルスを『研究』する人ではないので、ここまでが精一杯だという。研究技術は人間界の方が進んでいるらしく、技術面でもそこまでは分かっていない。

「なるほど……。さて、この情報をどうするか」

 自分だけが持っていてもしょうがない。SNSで拡散しようともソースを持っていないので説得力に欠ける。麻里菜のは閲覧用アカウントなので拡散力もない。
 しかも妖魔界にしかないウイルスだなんて、信じてくれるだろうか。

 ……そうだ。

「蓮斗にやってもらお」

 私がマイから資料を受け取ってスキャンして、それを蓮斗に送る。それをもとに蓮斗に記事みたいなのを作ってもらって、それをソースとしちゃえば。
 蓮斗のことだから、どうやって情報を仕入れたのかはうまくごまかしてくれるでしょ。

 麻里菜はすぐにサフィーを取り、声を吹きこむ。作戦も伝えて。
 向こうからの返事を待っている間に、グループL|NEで美晴と蓮斗にマイから得た情報を伝えた。

美『妖魔界にしかないの!? 新種って言ってたからね!』
蓮『もしそうだとすれば、妖魔界から誰かがウイルスを持ってきたっていうことになるな』

 あっ…………そっか。それよりあのことを。

麻『それで、蓮斗にお願いがあるんだけど』
蓮『何?』
麻『さっき私が言ったことを、蓮斗に拡散してほしいんだけど、いいかな?』
蓮『いいけど……デマ扱いされたらどうするんだ?』

 ここで例の作戦を!

麻『そう。だから、これからマイのところに行って、あのウイルスに関係する資料をもらってくる。そしたら蓮斗に、資料をスキャンしたやつを送るから。それを使ってネット記事を書いてほしいんだけど』
蓮『それだけでいいのか?』
麻『何か根拠になる記事があれば、SNSでも拡散されやすいと思って』

 先々のことを考えるのが苦手なのに、よくこれを考えられたよなぁ……と自分で感心している麻里菜。

美『えっ、まりなすごい! そしたら私がインスタで広めるよ』
麻『じゃあ拡散役は美晴にお願いしようかな』
美『りょうかい!』

 あとはマイからの返事を待つのみ……か。
 人間界からは、インターネットで妖魔界の情報にアクセスすることができない。このように人力を使って、アナログな方法ではないと情報のやりとりはできないのだ。

 数分後、またサフィーがぼんやりと光り始めた。

「いいんじゃない? 少しでも役に立てれば。すぐに印刷するから待ってるよ」

 マイからの了承をもらったところで、二人に報告をする。

麻『女王からのオッケーでたよ! 今から資料取りに行く!』
美『いってら〜(´∀`*)ノシ』
蓮『(手を振る絵文字)』

 麻里菜は、机の棚に立てかけてある教科書の間からファイルを引っぱり出す。妖怪姿に変化すると、妖魔界への道を開いた。





「はぁ、ついたぁ……」

 マイから印刷したての、ほんのりあたたかい紙の束を受け取った。あまり長居しないよう、すぐに別れを告げて人間界に戻ってきたのだ。
 短時間に異世界とを往復し、いつもより妖力の消費が激しい。しょっちゅう妖魔界と行き来するもんじゃないな、と麻里菜は改めて実感する。

 スマホで一枚一枚撮り、それらをPDFに変換。L|NEでは送れないので、メールに貼りつけて蓮斗に送った。

「自分で言っておいて、結構手間がかかったなぁ……」

 慣れない作業でない頭を使ってしまった麻里菜は、まだ回復していない妖力のせいもあり、どこかぼうっとしている。

 ピコン

蓮『資料ありがとう。今夜中には作り終えられるはずだから』
美『もう麻里菜送ったの? おつかれさま!』
麻『さすがに行ったり来たりしすぎて疲れた。今日はもう寝るよー』

 妖魔界への道が開けなくても、道を開く瞬間を見た美晴は、麻里菜のしんどさを分かってもらえるだろう。

美『そりゃそうだよ…あんなすごいことをやってるんだから…おやすみ〜(ノ・ω・)ノ▓▓オフトゥン』

 疲れた頭に美晴からの布団がかぶさる。ついセンチメンタルになっている感情が『布団』によって包まれていく。
 ……これが美晴の言う『癒し』なのか……?

麻『(*っω-)オヤスミ』

 ナルコレプシーの薬が切れ、麻里菜は五分もしないで眠りに落ちるのだった。





【L|NEグループ「あやかしデュエット+α」の画面イメージ】





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登場人物紹介

名前:小林 麻里菜(こばやし まりな)

年齢:15歳(高校1年生)


性格:陰キャだが正義感は強い。年上・年下には好かれるが同級生からは好かれない。少し男っぽい。


主人公。九尾の化身。第三の目をもつアルカヌムの巫女。

マイナーレの同一人物で、妖力はもちろん魔法も使える。美晴は双子の妹だが、実質は姉だと思っている。

睡眠障害である「ナルコレプシーⅡ型」を患っている。

名前:高山 美晴(たかやま みはる)

年齢:15歳(高校1年生)


性格:基本は陽キャ。誰とでも仲良くなれて他人思い。しかし闇の部分があるようなミステリアスな人。


主人公の双子の妹。鵺(ぬえ)の化身。第三の目をもつアルカヌムの巫女。

別名はフェリミアで、麻里菜のような同一人物はいない。

母をガンで亡くし、父と2人で暮らしている。

レズビアンで麻里菜のことが好き。

名前:氷山(こおりやま)マイナーレ

年齢:15歳


性格:正義感が強く、頭が冴えている。だが、少し抜けているところがある。陽キャでも陰キャでもない(もとは陰キャ)。


麻里菜の同一人物で、妖魔界の女王。13歳で妖魔界と人間界を救った救世主。膨大な妖力と魔力の持ち主でもあり、凄腕の弓使い。

医者もしており、妖魔界で多忙な生活を送っている。

名前:晴山 蓮斗(はれやま れんと)

年齢:15歳(高校1年生)


性格:基本は心を閉ざしているが、美晴にだけは心を開いている。正義感はあり、新し物好き。


美晴の幼なじみ。表の顔は通信制高校に通う高校生だが、裏の顔は情報屋&ハッカー。

小6の修学旅行で起きた事故により蓮斗の名前は有名になったが、今は風化して安心しているらしい。

実は魔法が使える。

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