第51話 もう一つのアカデミー

文字数 1,611文字

「それなら、他に教えてもらえることはあるんですか?」
「何でも聞くが良い。教えられることは教えてやろう」
 そう言われると迷ってしまう。尋ねたいことはいくらでもあった。いろいろと話を聞くためにも、彼女のことを聞いておきたかった。
「あなた……ザーラは、吟遊詩で剣士サルザルと呼ばれている人ですか?」
「妾はサナザーラじゃ。昔からな。ただ、そう呼ばれておるようじゃの。もう四百年近く経っておる。間違えた馬鹿がおるのじゃろう」
 やはり彼女が剣士サルザルなのだ。そうなると、やはり炎の魔戦士ポルトークがウルリスだったのだろう。元の名がポルターシュで、誤って伝わったに違いない。そして、生まれ変わってウルリスの名を得たのだろう。
 サナザーラ自身は、アンデッドになっているため、その四百年を過ごしてきたに違いなかった。そのことを尋ねる。
「ザーラは、アンデッドなのですよね? 生きている者と同じ(スフィア)が見えます。何が違うのですか?」
 そう問いかけると、サナザーラは眉間に皺を寄せた。
「簡潔に尋ねよ」
 彼女には、一言で答えられるような問いにした方が良さそうだった。
「ザーラは、アンデッドなのですか?」
「そうじゃ。故に死すことはない。傷もこのとおりじゃ」
 彼女は首を上げて喉元を見せる。ダリオが開けた穴は、もう跡形もなかった。やはり、アナバスが言っていた伯爵夫人(カウンテス)は、サナザーラなのだろう。
「不死戦争で死んだから、アンデッドになったのですか?」
 そう問うと、彼女は首を振った。
「妾は死んでおらぬ。生きたままアンデッドとなった」
 今度は、ダリオが眉間に皺を寄せた。死んでないのにアンデッドとなったということが分からない。彼女が普通の(スフィア)を持っていることと関係しているのかもしれなかった。
「では、不死王の魔法で、生きたままアンデッドになったのですか?」
「違う。妾がアンデッドになったのは不死王が亡くなった後じゃ。それに、妾を魔法をかけたのもスサインじゃ」
 スサイン。聞いたことのない名前だった。どうにもサナザーラの話は要領を得ないので名前については、タイトナに聞いた方がいいかもしれない。それに、彼女は魔法に詳しくは無さそうだ。別の方向で尋ねてみる。
「どうしてアンデッドになったのですか?」
「決まっておろう。ここを守るためじゃ」
 何だか自慢げだ。
「ここは何なのでしょう?」
「ここは……我らが集う場所じゃ。それ以上は言えぬ」
 覚醒すれば教えてもらえるか、あるいは聞かなくても分かるものなのかもしれない。ただ、聞いておかなければならないこともある。
「ここは、大聖堂(カテドラル)なのですか? 街では遺跡(ルーインズ)と呼ばれています」
 そう言うと、サナザーラは肯いた。
「我らはここを大聖堂(カテドラル)と呼んでおる。かつて聖堂として使われていたからな。じゃが、もっと昔はアカデミーと呼ばれておった。チルベスのアカデミー。他にもある」
 遺跡(ルーインズ)と呼ばれているものは、他のものもアカデミーなのだろうか。マナテアがいるアカデミーと同じ名前なのでややこしい。
「不死魔法を教えているアカデミーということですか?」
「全ての魔法じゃ。じゃが、教えていたのは昔のことじゃな。今は、めったに人が訪れることはない。おかげで妾は暇をもてあましておる。久々に人が来たと思ったら、その方のような未熟な剣士では、残念至極じゃ」
 そう言われ、ウルリスに言われたことを思い出す。
「ザーラは、剣を教えてくれますか?」
 ウルリスは、剣の扱いを教えてくれる人に出会ったら、教わって鍛錬するように言っていた。
「教えることは苦手じゃ。じゃが、相手ならいくらでもしてやるぞ。いつでも来るが良い」
 サナザーラは楽しそうだ。とは言え、チルベスが封鎖されている今、ここに来ること自体が難しい。
 そう思っていると、扉をノックする音が響いた。ダリオが入ってきた大扉だ。サナザーラが目配せすると、ダリオの時と同じように、扉の近くにいたスケルトンがドアを引き開けた。
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