第34話 二つの教会(マナテア視点)
文字数 1,349文字
太陽が市壁の上端に沈む頃、マナテアは聖転生 教会に到着した。正面のドアから礼拝堂に入り、アナバスを探す。最初にやることとして、昼間の治療を担当していた彼から、患者と治療の状況を聞くためだ。
とは言え、その引き継ぎは、あっと言う間に終わる。街の有力者マッキージの息子であるカナッサの治療を最優先しなければならないからだ。魔力の豊富なアナバスでも、カナッサに十分な治療を行えば、他の患者を治療する余力はさほど残っていない。
一言で言えば、カナッサの病状を確認しさえすれば、他にはほとんど聞くべき話がないのだった。
「そうそう、気になる話を聞いたぞ」
引き継ぎが終わり、カナッサの顔色を見ていると、アナバスが言った。
「何かあったのですか?」
「ヌール派教会のことじゃ。白死病から完治した患者が五人もいるらしい」
「五人もですか?聖転生 教会でも九人しかいないのに?」
マナテアが驚いて尋ねると、アナバスが首肯した。
「複数の魔術師が治療に当たって九人じゃからな。本当なら驚くべき数じゃ。見に行って見たいとは思わんか?」
「確かに興味はありますが……」
マナテアはカナッサを見た。今は顔色も悪くない。
「儂が、先ほどまでありったけの治癒 をかけた。新市街まで行って、戻ってくる間くらいは大丈夫じゃ」
「確かに……」
それでも尻込みしていると、アナバスが誘いの言葉を投げてくる。
「来た時に同行した少年が薬を売ったはず。じゃが、それだけで五人も完治させられたとは思えん。どんな秘密があるのか、興味があるじゃろ?」
「そうですね」
マナテアが腰を上げると、ゴラルが口を挟んでくる。
「入れて頂けるのでしょうか? 教授もお嬢様も、聖転生 教会の者ではないとは言え、聖転生 教会派であることは間違いありません。ヌール派の教会では歓迎されないでしょう」
「そこは、聖職者じゃないのだからと言えば、何とかならんかの?」
「何とかなるか、ならないかは分かりません。入れてもらえなければ、無駄足になりますよ」
ゴラルの言い分はもっともだった。アナバスが「む~」と唸っていると、思わぬ人物から声をかけられた。
「私が紹介状を書きましょうか?」
人の良さそうな笑顔を浮かべ、ナグマンが立っていた。彼は、結構教会内をうろうろしている。この時も、単に通りかかったという様子だった。
「ナグマン大司教。ここの聖転生 教会は、ヌール派教会とも交流があるのですか?」
アナバスが驚きの表情を浮かべて尋ねた。
「やはり驚かれますかな。ただ、教会として交流があるのではありません。むこうのトムラ司祭と個人的に交流があるのです」
「個人的に……ですか。それは尚のこと驚きです」
「別に難しい話ではありません。トムラ司祭は、元聖転生 教会の聖職者で、私と同時期にアカデミーで学んでいました。ヌール派に転向しなければ、ここには私ではなく彼が居たかもしれません。それくらい優秀な聖職者であり、神聖魔法の使い手です」
「なるほど。そういう理由でしたか」
アナバスが言うと、ナグマンは首を振った。
「ですが、彼が居るとしても、五人もの患者が完治したという話は驚きです。是非、見に行き、結果を私にも教えて下さい。さすがに、私が出向く訳にはゆきませんからな」
そう言って、ナグマンは紹介状を書いてくれた。
とは言え、その引き継ぎは、あっと言う間に終わる。街の有力者マッキージの息子であるカナッサの治療を最優先しなければならないからだ。魔力の豊富なアナバスでも、カナッサに十分な治療を行えば、他の患者を治療する余力はさほど残っていない。
一言で言えば、カナッサの病状を確認しさえすれば、他にはほとんど聞くべき話がないのだった。
「そうそう、気になる話を聞いたぞ」
引き継ぎが終わり、カナッサの顔色を見ていると、アナバスが言った。
「何かあったのですか?」
「ヌール派教会のことじゃ。白死病から完治した患者が五人もいるらしい」
「五人もですか?
マナテアが驚いて尋ねると、アナバスが首肯した。
「複数の魔術師が治療に当たって九人じゃからな。本当なら驚くべき数じゃ。見に行って見たいとは思わんか?」
「確かに興味はありますが……」
マナテアはカナッサを見た。今は顔色も悪くない。
「儂が、先ほどまでありったけの
「確かに……」
それでも尻込みしていると、アナバスが誘いの言葉を投げてくる。
「来た時に同行した少年が薬を売ったはず。じゃが、それだけで五人も完治させられたとは思えん。どんな秘密があるのか、興味があるじゃろ?」
「そうですね」
マナテアが腰を上げると、ゴラルが口を挟んでくる。
「入れて頂けるのでしょうか? 教授もお嬢様も、
「そこは、聖職者じゃないのだからと言えば、何とかならんかの?」
「何とかなるか、ならないかは分かりません。入れてもらえなければ、無駄足になりますよ」
ゴラルの言い分はもっともだった。アナバスが「む~」と唸っていると、思わぬ人物から声をかけられた。
「私が紹介状を書きましょうか?」
人の良さそうな笑顔を浮かべ、ナグマンが立っていた。彼は、結構教会内をうろうろしている。この時も、単に通りかかったという様子だった。
「ナグマン大司教。ここの
アナバスが驚きの表情を浮かべて尋ねた。
「やはり驚かれますかな。ただ、教会として交流があるのではありません。むこうのトムラ司祭と個人的に交流があるのです」
「個人的に……ですか。それは尚のこと驚きです」
「別に難しい話ではありません。トムラ司祭は、元
「なるほど。そういう理由でしたか」
アナバスが言うと、ナグマンは首を振った。
「ですが、彼が居るとしても、五人もの患者が完治したという話は驚きです。是非、見に行き、結果を私にも教えて下さい。さすがに、私が出向く訳にはゆきませんからな」
そう言って、ナグマンは紹介状を書いてくれた。