第46話 ジーメイの畑を抜けて

文字数 1,868文字

 ダリオは、白犬亭に置いてあった荷物とヌール派教会に置いてあった荷物の中から、必要なものをかき集めて準備を急いだ。何せ、許可は今日一日だ。
「気をつけてね」
 再びトロコロを取りに行くと言ったので、ミシュラは不安そうだ。もしかすると、ダリオの本当の狙いを察しているのかもしれない。それでも、それ以上は言わなかった。
「ちゃんと帰ってくるよ。行ってくる」
 そう言って、教会を後にする。北門まではすぐだ。門でウェルタと合流した。既に門番には話をしてあったようで、すぐに開けてもらった門から外に出る。門外で聖騎士団が敷いている検問も、クフラ直筆の許可状で簡単に通過することができた。
「さて、ここからどう行くのだ?」
 この先は、ダリオの好きなように行動させてもらえるようだ。
「向こうに見えるジーメイの畑を抜けて行きます。来る時は、向こうから来たので、逆を辿ればトロコロのある方に行けるはずです」
「やはり遺跡(ルーインズ)に近くな」
 ウェルタも、少し及び腰のようだ。
「だから、薬草を探す人も近づいてなかったのだと思います」
 ダリオにとっては、二重の意味で好都合だ。トロコロは残っているはずだし、ウェルタが遺跡(ルーインズ)を怖がっているなら、遺跡(ルーインズ)に近づくことで、彼を撒き易くなる。
「このあたりを抜けてきたと思います」
 ジーメイの畑の畑を抜け森に向かう。背の高いジーメイは視界を遮る効果が高いが、流石にまだウェルタを撒くのは無理だ。
 畑を抜け森に入ったところで、丁寧に薬草を探す。採取するだけなら、トロコロの群生地で十分だが、あの場所はウェルタに見せたくなかった。あっという間に、採集用のずた袋が一杯になることが彼にも分かってしまうからだ。
「あ、ロモトールがあります。これも白死病に効きます」
 群生地以外でも、この北門近くの森は薬草が豊富だった。やはり遺跡(ルーインズ)を怖がってチルベスの住民が近寄っていないのだ。
「トロコロがありましたよ。これです」
 トロコロも点在している。刈り取ったものをウェルタに見せ、背負ったずた袋に入れる。ずた袋以外の荷物は、手に持った採集用の鎌、腰に付けた水筒、そして護身用のエストックだ。遺跡(ルーインズ)が近いので、アンデッドは少ないと分かっているが、その分魔獣いるかもしれなかった。
 それに、本当の目的地では、何があるか分からない。ウルリスが行くようにと言っていたのだから、入ることができるはずだと思えたが、すんなりと入れる保障は無かった。
「あ、あそこにもありますね」
 ところどころで採集を行い、トロコロの群生地を避けながら遺跡(ルーインズ)に近づく。そして下草の量を見定める。しっかりと後に付いてくるウェルタから、姿を隠してもらわなければならない。
「ダリオ、あまり歩きにくい方に行くな」
「無茶を言わないで下さい。薬草の採取に来たんです。薬草のありそうな方向に行かなくてどうするんですか」
 体の大きなウェルタが歩きにくくなってきた所を見計らい、ダリオは蔓草を探す。ちょうど良い具合に、蔓草に絡みつかれて枯れ、倒れた木が目に入った。ダリオの体がぎりぎり抜けられそうな隙間に潜り込み、声を上げる。
「ロモトールがいっぱいだ!」
 嘘だった。足早に進み、ウェルタが蔓草を抜ける前に距離を取る。蔓草は、山刀のような重く短い刃物でないと切りにくい。ナイフでは軽すぎて切りにくい。剣では長すぎて絡みがち。ウェルタの持っているブロードソードは、剣としては蔓草を切りやすいものだったが、盾も持っているウェルタが蔓草を抜けるのは大変なはずだ。
「おい、待て!」
 ウェルタの言葉を無視して進む。それでも偽装は必要だ。
「あ、こっちにはトロコロが!」
 わざと声を張り上げる。
 そして、ウェルタの(スフィア)を確認する。蔓草や下草を見通して(スフィア)の位置を確認できることは、ダリオにとって有利だった。ウェルタは声と草を揺らす音を使い、曖昧にしかダリオの位置を確認できない。それに対して、ダリオは正確にウェルタの位置を確認できた。
「ダリオ、どこだ?」
「こっちです」
 一端、遺跡(ルーインズ)とは別の方向に誘い、音を立てないように遺跡(ルーインズ)に向けて移動した。遺跡(ルーインズ)も、紅い(スフィア)を目指せばいい。見通しの利かない森の中でも、ダリオは迷わず進む事ができた。
「ダリオ、もう動くな。どこだ?」
 もう遠くなったのだろう、ウェルタの声も小さく聞こえる。遺跡(ルーインズ)の手前で、トロコロの群生地を見つけた。遺跡(ルーインズ)に向かうとしても、後でトロコロを採っていたと言わなければならない。先に、ずた袋一杯にトロコロを刈り取った。
 立ち上がり、無数の灯火のように揺らめく紅い(スフィア)を目指す。
「よし、行くぞ!」
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